アフターコロナの都市の住まい☆

 筆者の米山秀隆は、長く空き家・空き地問題について研究を続けている。2018年に読んだ「捨てられる土地と家」「縮小まちづくり」は興味深かった。アフターコロナ禍で米山氏がどんな考察をしているか、興味があった。
 本書のタイトルと同じ題名がついた序章「アフターコロナの都市の住まい」では、コロナ禍でのテレワークや郊外移転の状況などを新聞記事や多くの取材などで明らかにする。だがその結論は「アフターコロナで都市や住まいの状況が大きく変化するとは思えない」というものである。テレワークによる弊害も合わせて紹介し、「根本的には新たな出社形態のデザインが求められている」とみるのは実に穏当な評価であろう。

○テレワークの普及に基づき、人々の働く場所や住む場所の制約がなくなり、それに伴い郊外や地方への人口移動が本格化するなどといった見通しは、筆者は抱いていない。テレワークを単純に継続することではなく、根本的には新たな出社形態のデザインが求められているのであり、オフィスへ通う形自体はなくならない。そうした観点からは、住む場所の制約は完全にはなくなることはない。これが現実であろう。(P204)

 「アフターコロナの課題①②」とタイトルの付いた第1章と第2章では、コンパクトシティや定住促進の取組について紹介する。夕張市富山市岐阜市宇都宮市毛呂山町のそれぞれの取組はこれまでも他の本で読んできたものだが、筆者独自の視点もあって興味深い。また、定住促進施策に関しても、空き家バンクの状況について総括した後、竹田市江津市浜田市神山町海士町の取組を紹介。いずれも定住対策として有名な取組だ。
 第3章から第5章は、「ビフォーコロナの課題①②③」というタイトルが付く。第3章では「空き家問題と相続対策としての賃貸住宅供給」について、第4章は「マンションの終末期問題」、そして第5章は「タワーマンション問題」を取り上げる。空き家問題の中では、下に引用した2018年住調に対する評価と「廃屋」への視点は興味深い。また、戸建て空き家だけでなく、マンション、さらにタワーマンションと考察を進めるなかで、前著でも提案をしていた「解体費の徴収」や「所有権放棄の一般ルール化」について提案を深める。私自身、前著を読んだ時以上にその必要性を強く感じるようになった。すぐに制度化されることはないかもしれないが、近い将来、真剣に導入が検討されるようになるのではないか。
 終章「所有から利用へ」では、現在は本当の意味で「土地神話の崩壊過程にある」(P236)のではないか。そして「必ずしも所有にはこだわらないという考え方が、じわじわと広がっていく可能性がある」(P236)と指摘する。そうかもしれない。若者にとってクルマが今や必需品ではなくなりつつあるように、住宅もまた近いうちに所有対象ではなくなるかもしれない。コロナ禍はすぐに都市や住まいを変えることはないかもしれないが、人口減という日本の状況と相まって、最初はじわじわと、そして後にはかなりドラスティックに、人々の暮らしや気持ちを変えていくのではないか。今まさに、日本の都市や住まいが大きく変化する、そのとば口に立っている。そんな気がしてきた。

○「住宅・土地統計調査」によれば、2018年の…空き家のうち、「賃貸用」「売却用」「二次的住宅(別荘等)」の増加が頭打ちになった…。しかし…「その他」の空き家は増加を続けて…いる。…空き家率を持家系、借家系に分けて算出してみると…持家系は上昇を続けている。/また…戸建て住宅(木造)の空き家率は上昇を続けている。…これらは放置された一軒家の増加というイメージと合致する(P134)
○現存している住宅には、買い手も借り手も募集していないその他の空き家というステータスの次の段階として、もはや住むことのできない廃屋というステータスがあり、住調では廃屋は調査対象外のため、もし廃屋が急増しているとすれば、この統計で空き家問題を語るということが、限界に達しつつあるという可能性に今後は注意を払っていく必要があると思われる。(P142)
○マンションの場合…問題は相続放棄であり…残された区分所有者が負担を押し付けられる結果になっている。…相続放棄物件のその後の処理コストが嵩むことを考慮すれば、最初から放棄できる一般ルールを定めておいた方が望ましいとの考え方に立つことも可能である。…放棄時に費用負担を求め…物件と放棄料は管理組合に移せるようにし、管理や処分を行っていくことが考えられる。(P166)
○マンションの場合も…建物解体費用が土地売却費用を上回る場合…区分所有者は費用支払いを免れることはできない…。この問題に対処する1つの方法は、区分所有者があらかじめ将来必要になる解体費用を積み立てておく仕組みをつくることである。…登記後50年を経過したら、建物の状態にかかわらず決議によって解消できるようになるとすれば、いずれは取り壊すときが来るという前提で解体費用を準備しておく方が合理的と考えられる。(P170)
○近年の空き家問題や所有者不明土地の問題の深刻化は、住宅・土地を持つことの意味を、人々に改めて問うている。…取得したとしても最終的に処分できないような住宅・土地は、自分や子孫にとって重荷になるだけだということである。こうした認識が共有されつつある現在は、本当の意味での土地神話の崩壊過程にあると考えられるのではないか。…今後は、必要な期間に、必要な広さや条件の住宅に住めれば十分で、必ずしも所有にはこだわらないという考え方が、じわじわと広がっていく可能性がある。(P236)