オールドニュータウンを活かす!☆

 筆者の三好庸隆氏は、市浦都市開発建築コンサルタンツでいくつかのニュータウンの整備計画に従事した後、独立し、現在は武庫川女子大で教授を務めている。この間、明舞団地の生コンペで最優秀賞を受賞するなど、もっぱら関西のニュータウンを中心に研究等をされている方である。
 こうした経験を踏まえ、前半の「第Ⅰ部 理想都市の系譜から日本のニュータウンへ」では、ハワードの田園都市から日本のニュータウン計画の概要や実態まで、丁寧に説明をしていく。これが単なる計画論ではなく、ニュータウン計画策定などの現場にいた経験を踏まえ、日本のニュータウン計画・設計の実態を描き出している点が興味深い。
 後半の「第Ⅱ部 日本のオールドニュータウンをどう考えるか」では、最初の第3章で、筆者自身がコンペで最優秀賞を受賞した明舞団地における再生の取組みと現状を丁寧に紹介する。その上で、第4章以降、オールドニュータウン全体を視野に、ニュータウンを「活かす!」ための提言を行う。最後の第6章では、Q&Aという形で、提言をベースに、具体的かつ詳細な説明を行う。非常に丁寧かつしっかりした内容に感心した。
 たとえば、一般市街地でも同様な課題を抱える中で、オールドニュータウンの再生に取り組む意義として、他の市街地のモデルとなる「トリガー地区」の役割があるのではないかと提案したり、住民が高齢化する中で「住民主体のまちづくり」をお題目にするのではなく、ニュータウンの再生は公的セクターが中心となり、住民や住民組織を支えることで初めて「住民が主人公のまちづくり」が実現するのだと説いたりする。非常に具体的であり、かつ正しい認識だ。
 私が住む高蔵寺ニュータウンでも、春日井市ニュータウン創生課を設置して、市が中心になって取り組んでいる。その方向性にはいろいろ意見もあるだろうが、市の姿勢としては正しいと感じる。国の「全国のニュータウンリスト」によれば、全国で2,022地区のニュータウンがあるそうだ。そしてその多くで同じような課題を抱えている。本書の提言は少なからず有効だ。各地で競い合いつつ、少しでも多くのニュータウンが再生し、「活かす!」ことができれば思う。

ニュータウンにおいては、将来の社会の変化に対応できるように予備的な用地(リザーブ用地)を確保する、と言う発想はなかなかとりにくかった。…暮らしにおける将来の見通しには不確定要素が多いにもかかわらず、初期計画段階で隅々まで計画しつくしてきたことは、計画しすぎ、即ち「オーバープランニング」であった。…公共用地としての小学校跡地は、全面売却せず、将来へのまちづくりに向けた貴重な用地として地方自治体が所有しつつ次の活用方法を模索するのが好ましい。(P145)
○高齢化率が既成市街地よりも一段と厳しく、暮らしの不活発、自治会活動のやりくりが難しいのが、オールドニュータウンの特徴であることを考えると、これからのまちづくりの担い手の主体として住民、住民組織に重きを置くのは実態として限界があるのではないだろうか。…リーダーとなりうる人が存在する場合はかなりラッキーなケースで、ラッキーなケースを一般論としていくわけにはいかないのが実態ではないだろうか。(P228)
○オールドニュータウンをその地方自治体、あるいは広くその生活圏が抱える「社会課題解決に向けたトリガー地区(引き金となる地区)」として取り上げて、社会課題解決方策の社会実装の場として、積極的・戦略的に位置づけてみてはどうだろうか。…オールドニュータウンに、配食サービスや在宅医療、子育て支援に取り組んでいると言ったような実態があれば、そのような「芽」を行政など公的セクターが公に評価して育てていく、という発想が重要である。(P255)
○オールドニュータウンを「再生させる」と言う概念から積極的に「活かす!」と言う概念への発想の転換を提言したい。…「-」から「±0」へ、ではなくて「-」の状況を逆手にとって活かし「+α」へ、である。…「活かす!」と言う言葉には…ニュータウンの特徴を活かして、日本の社会課題解決の一端を戦略的・計画的に担い、状況を良い方向に逆転・反転させて、ポジティブな状況をつくり出すと言う考えを込めたい。(P273)
○「住民主体のまちづくり」を言う場合、中身を丁寧にかつ具体的にイメージして語ることが大切と考えます。…公的セクターとのしっかりとした役割分担、公民連携の下で「住民主体のまちづくり」、即ち「住民が主人公のまちづくり」がやっと展開できるわけです。/公的セクターは活動できる住民や地域の持つ魅力を発見する眼を持ち、それらの住民や魅力を大切にしつつ発展させていくことが大切です。(P328)