負動産地獄☆

 筆者は不動産事業の専門家として、これまで空き家問題を中心に執筆をしてきた。具体事例が豊富なそれらの本はいずれも興味深いものだったが、本書は筆者の父親が亡くなり、相続を経験したからか、不動産を中心に相続制度について論じている。とは言っても、「まえがき」で筆者自身が書いているように「本書はいわゆる『相続税対策本』では」ない。いやむしろ、賃貸マンション建設やタワマンン購入等の相続税対策がいかに健全な不動産市場をゆがめ、不動産が本来果たすべき社会的な役割から遠ざけることになっているかを指摘する。
 第1章「激増する『いらない相続』」では、いらない土地や家屋を相続せざるをえなくなる実態を紹介する。続く第2章「相続対策が不動産問題を生む」では、タイトル通り、賃貸マンション建設やタワマン購入による相続対策の仕組みと、それが最終的に被相続者である子供たちにいかに不幸な状況を生み出すかを明らかにする。そして第3章「いらない不動産」では、相続しても困る不動産として、地方の実家や老朽マンションなどを実例とともに挙げていく。その中には、中小ビルの相続やシャッター商店街相続、さらには超高級住宅地における相続の悲劇などもある。これらはさすがに多くの実例に遭遇してきた筆者ならではの内容だ。
 そして第5章「『負の相続』にならないために」では、少しでもその対応策について紹介するが、けっして安心できるものではない。本書の白眉は最終、第6章の「相続をどうすればよいのか」ではないだろうか。本章で筆者は大胆な提案(思考実験)をする。相続税100%の提案だ。死亡したら、死者の財産はすべて国庫に帰属するという提案。一方で、50歳までの子供への贈与はフリーとする。こうすることで、現在、高齢者に死蔵されている多額の金銭・財産が、真にそれを必要とする子育て世帯や若年世帯に移転する。「『じじばば消費』の活性化が日本を救う」(P224)というのは筆者のジョークかもしれないが、一面の真実でもある。
 さらには筆者の妄想(提案、思考実験)は、土地所有の国有化に向かう。この部分については、説明不足なこともあり、十分理解できなかったが、現在の相続税制、そして土地法制が、縮小し高齢化する現在の日本の状況にはなじまないものであり、抜本的な発想の転換と制度の再構築が必要だろうということはうすうす感じる。たぶん、今、日本はそこまで追い込まれている。私が生きているうちに変わるだろうか。ちなみに私の場合、少しずつながら、娘に財産移転をしているつもりだ。いや単に、同居する娘から家賃も生活費をもらっていないというだけのことだが。そして、残った財産はすべて国や行政に渡してもかまわないと思っている。同感する人も多いのではないのかなと思うけど、どうだろう。

○高齢者が増えて相続発生が遅れる結果…相続する子供の平均年齢は50歳以降ということになり…老後資産として引き継がれ、貯蓄されたままになっていく運命にあります。…国も…早めの財産移転を促すべく…教育資金贈与…住宅の新築、取得、増改築資金贈与…結婚、子育て資金として…の贈与を非課税としています。/しかし…現代の価値観でいけば、子供や孫が自由にお金を使う…理由を問わずに積極的に贈与できる仕組みにしてもよいのではないかと思います。(P41)
○なぜ不動産が好調なのかを正確に報道すべきはずのメディアも、実態をよく理解していません。…実が新築分譲マーケットにおける購買者の多くは、高齢者名義での購入で、その目的が相続税対策にあることについては見事に抜け落ちています。読むほうも、マンションといえば、都会生活にあこがれる若者が住宅ローンで背伸びして買うマイホーム、などという一時代前の価値観でこうした記事を読んではいけないのです。(P93)
○地方の実家、流動性を失った郊外ニュータウンの戸建て住宅、老朽化したメンション、別荘やリゾマン、借金まみれの中小ビル、シャッター通り商店街に残された店舗付き住宅、正確な場所も判然としない山林、売るに売れない高級住宅地など、漫然と相続してしまうと後で大変な苦労を背負い込むことになります。…これからの日本では、売却という「出口」を見失っていく不動産が大量に発生する可能性が高いのです。(P145
○新しい時代に即した税制は、親世代から子や孫世代になるべく早期に財産を移転しやすくするべきです。…また…お世話になった個人に感謝の意味を込めて贈与する資産についても、幅広く非課税枠を創設してみたらどうでしょうか。…こうした考えでの贈与が広まれば、世の中の本当にお金を必要としているところに、的確にお金が流れ、社会を活性化させていくことにつながると思います。(P212)
○相続が発生したら基本的にはすべての財産は国庫に帰属する制度に改めてみたら社会はどう変わるでしょうか。相続税100%の提案です。そのかわり、一定額までの贈与については贈与税フリーにします。…たとえば配偶者への贈与はフリー、子どもにたいしては子供の年齢が50歳になるまではフリーにして、財産移転を急がせるのです。…子から親に対する生活資金の贈与についてもフリーにすれば良いと思います。…国内消費が一向に良くならないのは、高齢者がお金を死蔵させているから。このお金が…どんどん消費に向かいだせば、日本経済は飛躍的に改善していくことでしょう。(P223)