地域と人口減少の経済学

 首都圏への人口集中。地方も人口減少が止まらない。しかし、地方で実施される人口増加政策が成功することは難しい。そもそも国全体の人口が減少している中、地方間で競争しても、結局は限られた資源を奪い合うだけで、一方がよければ、一方が悪くなる。それでは意味がないのではないか。
 本書は、「スマート・シュリンクという選択肢」という副題があるとおり、人口減を前提として、いかに人々が幸せを感じるウェル・ビーイングな地域を作っていくかという視点で語られる。
そして、第3章「地方創生政策の検証」では、少子化対策と地方創生政策のデカップリングを提唱する。重要な視点だと思う。
 第1章「人口変化の姿とコロナショック」、第2章「地域から見た人口構造の変化」では、国立社会保障・人口問題研究所の将来人口推計等を基に、日本全体と各地域における将来の人口構造について説明する。また、第3章「地方創生政策の検証」では、これまでの地方創生政策について批判的に論じる。ここまでは、ある意味、想定内の内容だ。
 第4章「東京一極集中は是正すべきか」で筆者は、そもそも東京一極集中ではなく、各ブロック、各地方で地方から中心都市へという「多層的集中」が起きていると考えるべきだと指摘し、その上で、「足による投票」という考え方から、社会移動はそもそも人々がそれぞれのウェルビーイングを高めようとする行動の結果であり、それを政策的に阻害することには批判的な考えを披露する。
 そして、本書で政策が披露されるのは、最後の第5章「地域政策のイノベーション」においてである。しかし、実はこれを読んでも、筆者はまったく当たり前の政策を提唱する。すなわち、国主導から「地方主導型」へ、分散と均衡の国土政策から選択的集中の政策へ、遅れた地域に手を差しのべる政策から伸ばすべき地域を伸ばす政策へ、そして公共投資・ハード中心から知識やソーシャル・キャピタルなどのソフト資源中心の政策へと、新たな政策の方向を提唱する。
 その上で、特徴的な地域づくりで活性化を図る「劇場型」地域政策から、地域行政の効率化と人々のウェルビーイングの向上を目指す「共有型」地域政策の実施を推奨する。というか、前者は成功すると大きいが、その可能性は低いのだから、まずは後者の政策を試みるべきだという。では、その内容は何か。そこで提示されるのは、ナッジによる効果的な政策の実施、「フューチャー・デザイン」の導入、そして「マーケットデザイン」による政策立案だ。ただし、マーケットデザインについてはあまり詳細な説明はなく、よくわからない。
 でも、本書でもっとも驚いたのは、下記にも引用したが、名目県内総生産は、人口減少県においても、この10年間の間に増加しているという事実だ。そして人口が減少しているにもかかわらず総生産が増加しているわけだから、一人当たり県民所得の伸びも人口減少地域の方が人口増加地域よりも高い。なんと、既にスマート・シュリンクは達成しているのではないか。もっとも、筆者も指摘しているとおり、一人当たり県民所得は人口減少地域の方がはるかに少ないのだが、しかしその差は着実に縮まっている。
 結局、人口減少を嘆くのは、都市的な思考であって、人口増減の如何にかかわらず、真摯にウェルビーイングの向上を追求した方が、真に豊かで住みやすい地域になるのかもしれない。少ない方がより豊か。それこそが真実なのかもしれない。

○少子化対策と地方創生をデカップリングし、国は責任を持って少子化対策を講じ、各地域は自らの創意を生かして雇用機会の充実を図るというのが適切な役割分担だと考えられる。(P77)
○人々が社会移動を行うのは、基本的には、政策的に導かれたからではなく、自分が幸せになるためである。こうした自己のウェルビーイングを高めようとする自発的な動きに政策的に対抗するのは、言うべくして難しいだろう。議論のあるところだろうが、私はこうした理由の下、政策的に東京一極集中を是正するという考え方に批判的なのである。(P84)
○名目県内総生産は、2011~21年度の間に全都道府県で増加している。「人口が減っても経済は縮まない」ということは、各都道府県の名目総生産についても成立しているわけだ。…1人当たりの県民所得の伸びもまた人口減少地域のほうがかなり高い。このことは人口減少地域においても、地域住民の平均的なウェルビーイングは損なわれることなく、むしろかなり高まっていることを示している。(P152)
○スマート・シュリンクの実践として私が強調したいことは、自由な人の移動だ。…自由に人が移動することは、スマート・シュリンクだけでなく、多くの地域問題の解決にも資するものとなる。…実際に、都市部に住む人々の中で地方移住への関心を持つ人は多い。…こうした移住希望が実現すれば、地方から大都市圏での人口流出という大きな課題が相当程度解決に向かうことになる。(P161)

住む権利とマイノリティ

 住宅セーフティネット法の正式名称は「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」という。この法律で「住宅確保要配慮者」は、法律や省令等で定められているが、こうした列記する方式では、真に住宅に困窮する人々を網羅できていないと、平山洋介が「『仮住まい』と戦後日本」などの中で述べていた。
 本書は、セクシャルマイノリティ、DV被害者、外国籍者、精神障害者、若年単身者、中高年単身女性について、その支援に関わる者がそれぞれの経験などから、住宅困窮の実態と支援の現状、課題などを具体的に綴る。その多くは、福祉サイドの視点から制度の不備や行政の不作為等を訴えるが、住まいの問題を解決するには、不動産業の対応が不可欠だ。その点で、精神障害者の住まいの問題を、不動産会社の社員とともに取り組んでいった第4章の志村氏の考察は実践的で興味深い。
 また、最後の2章では、実際に住宅弱者向けに住宅提供をしている事例が紹介されている。ホームレスへのシェルター提供に取り組む「Homedoor」とLIFULL HOME’Sにおける住宅弱者向けのサイト「FRIENDLY DOOR」。いずれも具体の事例が興味深い。また、第8章で「貸主が借主を選別するのは、借地借家法の正当事由規定の故のモラルハザードだ」と指摘していた。まさにそうかもしれない。こうした視点がなかったので勉強になった。

○【金井聡】重要なのは雨風や暑さ・寒さをしのぐための住まいがあることだけでなく、お互いを気にかけたり、困ったときに相談したり、うれしいことを共有できたりする人が周りにいるかどうかということである。それは、学んだり働いたりしようとする意欲にもつながっている。/人は守られているという感覚と同時に、ここからまた外へ出ていこうと思える活力を必要としている。その両方を支えてくれる関係性を「セキュアベース」と呼ぶ。(P35)
○【志村敬親】制度を活用しながら、実際に住まいの確保や入居後の生活支援で中心的な役割を担うのは、様々な方法で精神障害がある人に関わる支援機関や、賃貸住宅の仲介や管理を担う不動産会社だろう。その際、両者の間に信頼に基づいた豊かな関係が育まれていることが、住宅セーフティネット制度の実効性を高め、居住支援を促進させていくうえで不可欠である。(P119)
○【植野ルナ】住宅政策が特定の家族類型を前提としつづけるかぎり、単身者は制度の網からこぼれ落ちてしまう。…今後、日本社会は未婚化が一層進み、単身世帯が増加することが見込まれている。現役世代の単身者が、住宅政策や社会保障の枠組みでも適切に対象者として位置づけられ、性別や年齢にかかわらず、孤立せずに安心して暮らし続けられるための住まいの支援が広がっていくことを切に願う。(P170)
○【永井悠大】「住まい」はそれぞれが望む生活の基盤になるものであり、「どのような住まいで暮らしたいか」という問いは、「どのように生きたいか」という根源的な問いに通じるものである。…だからこそ私たちは、当事者が求める住まいを、当事者が選ぶというプロセスを尊重する必要がある。こうした自己決定の概念と結び付いてこそ意味をもつ。(P194)
○【龔軼群】借地借家法の第28条では、貸主は、正当事由がなければ、借主に退去を求めることができないと定められている。この法律によって、立ち退き訴訟で貸主や不動産会社が敗退している判例は多数あり、貸主は誰を入居させるか慎重にならざるをえない。借主を守ることを目的にした法律(=モラル)が、借主を拒みやすい環境を生み出しているのである(=ハザード)。(P201)

マンション管理の現場から

 先週の土曜日に、都市住宅学会中部支部の講演会があり、参加した。講師は、マンションみらい研究所所長の久保依子さん。マンション管理を手掛ける大和ライフネクスト(株)の社内組織であり、多くの管理実績を踏まえ、いろいろと具体的な話を聞くことができた。
 最初は、管理組合の運営実態から。管理組合の理事会の開催頻度でもっとも多いのが2ヶ月に1回。工事費の上昇スピードがかつてなく早くなり、見積有効期間も1ヶ月未満が多くなっている中で、意志決定までの時間がかかりすぎて、ビジネススピードとはまったく合わない現状がある。また、総会の出席率は、実際の出席者は約3割、委任状提出が沸く2割、議決権行使書の提出が約3割ということだった。
 管理組合でもっとも議論となるのが長期修繕計画だが、各項目に記された工事費は見積額ではなく、他のマンションの事例等からある程度の安全率を見込んだ概算額であり、計画自体はあくまでシミュレーション、かつ、物価上昇率は加味していないことが多い。にも関わらず、個別の工事費を見積額と思い込んで、「もっと安くならないか」「業者を変えたらどうか」といった意見が出されることが多い。
 また、国交省から公表された「修繕積立金に関するガイドライン」で提示された目安額はあくまで平均値で、積立額が適切な事例を集めたものではないので、玉石混交。若干、低すぎるのではないかという意見を述べておられた。また、国のガイドラインには、外構や植栽は含まれていないことにも注意が必要とのこと。ちなみに、宅配ボックスなど、近年は標準で設置されている設備の導入については、若い世帯と高齢世帯で意見が対立し、見送られることが多いとのことだった。
 なお、管理組合によって修繕積立金に対する姿勢は異なり、過大に積み立てる組合もあれば、借金をしつつも適切に長期修繕を実施している管理組合もある。最近は、外部利用できる駐車場や携帯基地局の設置などの収益事業に取り組む管理組合も増えているが、法人税の対象となるので注意が必要とのことだった。
 また、近年は入居者も高齢化してきたことから、孤立死の発生も多くなっており、発見時の対応や住戸内の処理が大変で、これが原因で管理人をやめる人も多い。また、相続人が不明な場合など、不在者財産管理人の選任などの法的手続きが必要になり、相当な時間と費用を要する場合もある。
 また、最近は、理事の成り手が少ないこともあって、外部管理方式を採用するマンションも多い。これには、管理業者管理者方式と、マンション管理士管理者方式の2種類があるが、悪質な管理業者もあることから、若干厳し過ぎる気もするが、国交省が策定した「外部管理者方式に関するガイドライン」を遵守した方がいいと言われた。
 その他、興味深い実例も多く話されたが、私のメモにないので割愛。続いて、質疑応答となったが、ここで興味深い質問と意見が聞かれた。まず、海外比較だが、アメリカは理事会が活発で成り手も多いが、欧州では専門家に委託することが多いとのこと。また、オーストラリアでは、管理組合は必ず法人化され、管理費未納などの場合はすぐに訴訟に持ち込むことが一般的だそうだ。日本は、法的には理事会型だが、専門家型を目指すべきではないかといった意見が聞かれた。
 また、マンションに関わる不動産業者についても、管理業者として共有部分の管理をもっぱら対象とする業者もあれば、各住戸の専用部分の譲渡や賃貸を専門にする業者もいて、この間の連携は皆無というのが実態のようだ。
 最後には、日本人は、管理支援というサービス業務に対する対価意識が希薄であり、ただ働きが当たり前とされる風潮があるといった話もあり、全体として、経験と実態に即した興味深い話を多く聞くことができた。