実家じまい終わらせました!

 昨年末に、中日新聞で、この本を題材にした連載記事が掲載された。学生のレポート課題にするにはいいかと思い、感想などを書いてもらうことにした。しかし、自分自身が元となった本を読んでいないのはまずいだろうと思い、さっそく読んでみた。
 松本明子の実家じまいの経緯や苦労話が第1章。第2章は(NPO)空家・空地管理センターの上田真一氏から空き家対策について、第3章は(株)ワンズライフの上野貴子氏から家財整理や処分について、第4章は明石行政書士事務所の明石久美氏から墓じまいについて、それぞれ松本明子との対談という形式で、それぞれの内容が説明されていく。
 具体的な内容で、わかりやすいし、私が知らないことも多かった。でも、読んでいると、実家で一人暮らしする高齢の父のことや、要介護状態の妻のことに思いが馳せ、少し気が滅入ってくる。いざとなったらすぐに動けるようにしておこう。そのためには本書で仕入れた知識は役に立つ。問題はいつその「いざ」がやってくるかだ。わからないから「いざ」なのだが、さすがに「いざ」疲れがしている今日この頃でもある。

○【上田】最初にイメージする空き家の管理というのは…「窓を開けて風を通してさっと掃除をするために1ヵ月に一度程度通えばいい」というものです。…ところがいざやってみると、想像以上に時間を食い、気力も体力も消耗する。お金もかかる。…空き家によっては道路からポイ捨てされた空き缶や菓子袋なども拾わないといけない。そのために交通費をかけて実家まで帰るわけです。…そうなると…1ヵ月に一度…が、2ヶ月に一度になり…半年に一度になって、足が遠のいてしまう。管理されずに放置されたジャングルのような空き家は、そのほとんどがこのような段階を経て発生します。(P79)
○【上田】空き家の多くは、築30年以上の物件ですから、リフォームするかどうか、どこまでリフォームにお金をかけるかは、よく考えた方がいいと思います。…お金をかければ流通しますが、希望する値段で売れるかどうかはまた別問題です。一方で売れずに所有し続ければ、税金や管理コストがかかり続けます。リフォームについては、売れずに所有し続けた場合の維持費の負担も考えて、トータルで判断する必要があります。(P104)
○【上野】実家じまいをするまでの期間ですが、…仏教なら三回忌(満2年)や七回忌、神道なら三年祭(満3年)や五年祭が済むまでは、そのままにされる方が多いようです。(P173)
○【上野】信頼できる業者というのは、その会社のウェブサイトから遺品整理に対する想いの強さが感じられるものです。/その意味で…「企業理念」と「代表挨拶」と「社員教育」です。…ちなみに遺品整理の1件当たりの相場は20万~40万円。国民生活センターのレポートでは平均42万円です。…ただし、特別な措置が必要な場合は追加料金が発生する場合もあります。(P202)
○【明石】もうお墓参りには行かないし、親戚も墓じまいを了承しているというのであれば、高松で墓じまいをして永代供養のお墓に移すというのでもいいかもしれません。/一方…お墓参りはしたいけど遠いのが大変という場合は、墓じまいをしてお骨を全部東京へ移す、ということもあり得ると思います。…親戚のことも考えないといけない場合には、お骨を半々等に分骨にする、といった形になるかもしれません。(P230)

商店街の復権

 広井良典が商店街の本?というので、どんな内容かと思ったら、広井自身は総論にあたる第1章のみで、第2章以降はさまざまな経歴の筆者が分担して書いていた。執筆者には、経産省の役人もいれば、日本商工会議所職員、京都府商店街創生センター職員、東京R不動産職員、そして企業研究所の研究者に大学教授など、実にさまざま。
 そう言えば、広井はこれまでの本でも、西欧諸国のイキイキとした商店街の紹介をしていたなあと思い出す。第1章の内容も、これまでどこかで読んできたような内容だ。それで興味深いのは第2章以降だが、やはり自らの活動を紹介している文章が面白い。東京R不動産による荒川区西尾久の試み。京都府商店街創生センターの商店街組合員に寄り添った活動、帯広市中心市街地活性化の取組など。それと、関西大学の宇都宮教授による交通まちづくりに関する論文も興味深かった。
 案外、商店街に拘らず、快適で暮らしやすい商取引の場を考えると、商店街のような場所になるのかもしれない。

○「多極集中」とは…国土の中に「極」となる都市やまち・むらは多く存在する一方、そうした極となる場所は…できる限り「集約的」で歩行者中心の「コミュニティ空間」であることを重視した姿になっているというものだ。…現在のような人口減少時代にあっては、「多極分散」という姿はかえって“低密度”すぎる、拡散的な…地域を招いてしまうことになる。そうであるがゆえに「多極集中」、つまり多極的でありつつ各々の極は集約的であるような都市・地域像が求められる(P056)
○「産業(製造業)→雇用→都市・地域の発展」という、いわば工業化社会の都市・地域パラダイムから脱却できていないことが、シャッター通り化を含め、日本各地の都市の空洞化や衰退の根本的な原因となっているのではないか。…現在のようなポスト工業化社会あるいは第三次産業が雇用の過半を占める時代においては、“産業・雇用のある場所に人が集まる”という工業化社会のモデルとは逆に、“人が集まる場所に雇用・産業が生まれる”という反対向きのベクトルが生成するのである。(P075)
○つながる場所があることが地域の価値になる…例えば「あの人がいるまちだから住みたい」「あんな人たちとつながれる地域だから住みたい」「あのスペースで過ごせるから住みたい」というように、人との関係や愛着といった、数値化できない要素で地域が選ばれるようになるかもしれない。(P160)
中心市街との空洞化は、地元住民の多くが自家用車を利用して郊外で暮らし、商業機能も自動車の利便性が高い郊外エリアへ拡散したために生じた。/他方で、中心市街地側に残る(ⅰ)交通要衝機能、(ⅱ)公的施設・サービス、(ⅲ)宿泊・飲食機能は、自家用車を持たない域外訪問者にとっては現在でも有用性が高い。/まずは、(ⅰ)域外訪問者数を最大化することで、中心市街地内の事業者の経営環境の回復を目指す、(ⅱ)中心市街地内の事業環境が回復すれば、新たな事業者参入も増えていく、(ⅲ)新たな事業者参入が増えれば、中心市街地内の賑わいが増し、地元住民も中心市街地へ訪れるようになる、そのような好循環を創りだす。(P218)
○ドイツ語圏の場合であれば、運輸連合という市町村の行政単位を超えた地域公共交通サービスを策定する機関によって、交通モードや事業者の区別なく、地域内の運賃が統合されており、乗り換え等で初乗り運賃をその都度支払うということはない。しかも、割引率の高い定期券を発売することで、住んでいる人が安価に移動できるよう工夫がなされている。(P285)
○一般的なノンネームシートでは地方の事業者の魅力や価値を広く伝えることができない。…relayでは、後継者募集情報を掲載するために取材やインタビューを行い…詳しい情報を掲載している。/事業を譲り受けたい人は、単なる経営情報だけでなく…その事業者にまつわるストーリーを知ったうえで、そこに共感した人が手を挙げることになる。…地域の方に信頼されている行政などが…入ってもらえば…そこで始まったのが、「relay the local」の取組である。(P360)

オールドニュータウンを活かす!☆

 筆者の三好庸隆氏は、市浦都市開発建築コンサルタンツでいくつかのニュータウンの整備計画に従事した後、独立し、現在は武庫川女子大で教授を務めている。この間、明舞団地の生コンペで最優秀賞を受賞するなど、もっぱら関西のニュータウンを中心に研究等をされている方である。
 こうした経験を踏まえ、前半の「第Ⅰ部 理想都市の系譜から日本のニュータウンへ」では、ハワードの田園都市から日本のニュータウン計画の概要や実態まで、丁寧に説明をしていく。これが単なる計画論ではなく、ニュータウン計画策定などの現場にいた経験を踏まえ、日本のニュータウン計画・設計の実態を描き出している点が興味深い。
 後半の「第Ⅱ部 日本のオールドニュータウンをどう考えるか」では、最初の第3章で、筆者自身がコンペで最優秀賞を受賞した明舞団地における再生の取組みと現状を丁寧に紹介する。その上で、第4章以降、オールドニュータウン全体を視野に、ニュータウンを「活かす!」ための提言を行う。最後の第6章では、Q&Aという形で、提言をベースに、具体的かつ詳細な説明を行う。非常に丁寧かつしっかりした内容に感心した。
 たとえば、一般市街地でも同様な課題を抱える中で、オールドニュータウンの再生に取り組む意義として、他の市街地のモデルとなる「トリガー地区」の役割があるのではないかと提案したり、住民が高齢化する中で「住民主体のまちづくり」をお題目にするのではなく、ニュータウンの再生は公的セクターが中心となり、住民や住民組織を支えることで初めて「住民が主人公のまちづくり」が実現するのだと説いたりする。非常に具体的であり、かつ正しい認識だ。
 私が住む高蔵寺ニュータウンでも、春日井市ニュータウン創生課を設置して、市が中心になって取り組んでいる。その方向性にはいろいろ意見もあるだろうが、市の姿勢としては正しいと感じる。国の「全国のニュータウンリスト」によれば、全国で2,022地区のニュータウンがあるそうだ。そしてその多くで同じような課題を抱えている。本書の提言は少なからず有効だ。各地で競い合いつつ、少しでも多くのニュータウンが再生し、「活かす!」ことができれば思う。

ニュータウンにおいては、将来の社会の変化に対応できるように予備的な用地(リザーブ用地)を確保する、と言う発想はなかなかとりにくかった。…暮らしにおける将来の見通しには不確定要素が多いにもかかわらず、初期計画段階で隅々まで計画しつくしてきたことは、計画しすぎ、即ち「オーバープランニング」であった。…公共用地としての小学校跡地は、全面売却せず、将来へのまちづくりに向けた貴重な用地として地方自治体が所有しつつ次の活用方法を模索するのが好ましい。(P145)
○高齢化率が既成市街地よりも一段と厳しく、暮らしの不活発、自治会活動のやりくりが難しいのが、オールドニュータウンの特徴であることを考えると、これからのまちづくりの担い手の主体として住民、住民組織に重きを置くのは実態として限界があるのではないだろうか。…リーダーとなりうる人が存在する場合はかなりラッキーなケースで、ラッキーなケースを一般論としていくわけにはいかないのが実態ではないだろうか。(P228)
○オールドニュータウンをその地方自治体、あるいは広くその生活圏が抱える「社会課題解決に向けたトリガー地区(引き金となる地区)」として取り上げて、社会課題解決方策の社会実装の場として、積極的・戦略的に位置づけてみてはどうだろうか。…オールドニュータウンに、配食サービスや在宅医療、子育て支援に取り組んでいると言ったような実態があれば、そのような「芽」を行政など公的セクターが公に評価して育てていく、という発想が重要である。(P255)
○オールドニュータウンを「再生させる」と言う概念から積極的に「活かす!」と言う概念への発想の転換を提言したい。…「-」から「±0」へ、ではなくて「-」の状況を逆手にとって活かし「+α」へ、である。…「活かす!」と言う言葉には…ニュータウンの特徴を活かして、日本の社会課題解決の一端を戦略的・計画的に担い、状況を良い方向に逆転・反転させて、ポジティブな状況をつくり出すと言う考えを込めたい。(P273)
○「住民主体のまちづくり」を言う場合、中身を丁寧にかつ具体的にイメージして語ることが大切と考えます。…公的セクターとのしっかりとした役割分担、公民連携の下で「住民主体のまちづくり」、即ち「住民が主人公のまちづくり」がやっと展開できるわけです。/公的セクターは活動できる住民や地域の持つ魅力を発見する眼を持ち、それらの住民や魅力を大切にしつつ発展させていくことが大切です。(P328)