集合住宅

 7年前に発行された本である。翌年には私も読んだ。当時の読書感想を読み返すと、しっかり本書の内容を理解していたことがわかる。大学の集合住宅に関する講義の最後に、本書を紹介していたが、実際どういう内容だったかというと、記憶が曖昧。そこで今回、読み返すことにした。
 第一次世界大戦後に欧州各国で建設された労働者のための集合住宅団地を見学し、紹介する。それらの多くは今もまだ現役で住み続けられている。一方、冒頭で紹介する「軍艦島」は既に廃墟となり、最後に紹介する同潤会アパートはすべて取り壊された。本書は世界各地で繰り広げられた反格差社会運動やピケティの登場に触発されて執筆されたかもしれないが、日本におけるこれらの運動がすっかり下火になっていることを考えると、欧州とのユートピア思想の厚さの違いを感じさせられる。
 でも、今の若い学生たちには難し過ぎたかな。何と言っても、先日のレポートでは、賃貸住宅と区分所有マンションの区別がついていない学生が何人もいたのだから。まずはそこから講義を始めよう。もちろん私だって、知らないことはたくさんある。そして知ったと思ってもすぐに忘れてしまう。何度も何度も勉強しなくては・・・。あまりに忘れていて、反省してしまった。本書はけっこう、やっぱり、面白かったけどね。

○19世紀半ばから20世紀前半にかけて建設された集合住宅は「夢の跡」だ。社会的に恵まれない多くのひとびと、とりわけ労働者たちに、健康で快適な生活の場を持ってもらう。その理想を実現するため、資本家も、政治家も、官僚も、そして建築家も、さまざまな知恵を巡らせ、工夫を凝らして、労働者層の「暮らしの場」を都市的スケールで実現した。その動きは…世界規模で拡大し、20世紀にはモダニズムの波にも乗って「集合住宅団地」という形に実を結んだ。(P7)
○そこに出現した「コンクリートの集合住宅群」は建築不在で構築され、…モダニズムの建築観に通じる「即物的かつ機能的な要求」を「母」にして産み落とされた。…モダニズムル・コルビュジエやグロピウスがいうように、作家性、ましてや建築家の知名度ではなく、機能主義や合理主義の産物であることを評価の基準に置くなら、「軍艦島」は世界で最も「見る価値」があることになるだろう。/しかし、現実は違う。(P038)
○1929年10月24日、第2回「近代建築国際会議CIAM)」がフランクフルトで幕を開けた。議題になったのは「生活最小限の住居」。…「CIAM」は、まさに「ノイエ・フランクフルト」お披露目の場だったのである。/産業革命が世界を激変させ、大都市では多くの労働者層が住宅に困窮していた。…建築生産をもっと工業化すれば効率があがり、劣悪な住環境を余儀なくされているひとびとを一気に救えるのではないか…。それはまさにモダニズムによる「ユートピア」実現にかける思いだった。(P085)
○激越な「赤いウィーン」がもたらした、大規模集合住宅が今日まで美しく保たれているのは、ひとつには住民の高い意識があってこそだ。かつて労働者が政治の主導権を把握した時代に、英知を結集して都市の住宅のあり方を構想した果実がいかに確たるものだったかを「カール・マルクス・ホフ」などの「生き続けるユートピア」は示している。…トマ・ピケティのいう「格差」解消の努力は、その時代には明確に意識されていた。(P126)
○建築がかつてはいかに事大主義で権力者の飾り物であったかを前置きし、ヨーロッパ各国の第一次世界大戦からの復興が住宅中心で進められていることを受け、「現代欧州の著名なる建築家」の「大多数は住宅建築の権威者ではないか」と読者に問いかけている。…同潤会の建築家たちが、強い使命感を持って、帝都復興をひとつの好機ととらえ、住宅の領域での社会的な使命をまっとうすべく「集合住宅」の設計に勤しんでいたことが、そこから読み取れる。(P202)