都市の問診☆

 ここ10年ほどの間に、筆者がさまざまな媒体で執筆・公表してきた論文を中心に、構成している。その視点は常に、人口減少し縮小する都市空間に対して、都市計画に何ができ、どうすればよいのかという一点にある。成長する時代の手法として発展した都市計画にとっては、新しい手法を検討し、その意義を模索する考察である。
 「住宅地」と「拠点」と「交通網」を等閑に整理し、「急ぎ仕事」と「気長仕事」を明確に区分けし、けっして無理をせず、「縮小都市のデザイン原理」を考察する。都市を「暮らしと仕事のための資源調達の場」と言い、都市計画を「この調達の効率を高めるため」のものと定義する。縦軸・横軸の4象限の中に、様々な事象や手法を整理する手法も明晰だし、何より文章が上手く、わかりやすい。そして、この縮小する都市への計画論が的確であり、明確である。
 多くの論文を並べた本書は、「都市計画とは何か」といったテーマから、個別具体の手法へと進んでいく。だが、一体性には若干欠けるかもしれない。「都市の問診」というタイトルには、医師がそれぞれの患者を診るように、臨床的な事例を集めたという意識があるのかもしれない。そして、正直、このタイトルではわかりにくい。饗庭伸の文章は一つひとつが面白く、そして何かを気付かされる。本書だけでも十分楽しいが、こうした小さな考察を重ねていった先に、都市計画全体を見渡した大著が生まれるのかもしれない。今後がさらに期待される。

○最初にやってくるのは人口減少と高齢化である。…そして少し遅れて世帯が減少する。…そしてしばらく住宅は空き家のまま残り、最後に建物が減る。…人口減少、世帯減少、建物減少の少しずつズレた波が…どの住宅地にも、どの都市にも、人の圏域すべてに静かに打ち寄せ…それを動かすために人がつくり上げてきた制度が少しずつ減っていく。…それがどのような問題を生み出すのか…起こりうる問題の総量をなるべく小さくできるように…色々な手立てを考えることが都市計画の仕事である。(P20)
○都市や地域の計画にはさまざまな「波」が所与の条件として与えられる。…災害の波、…人口の波、…産業(の)波、…自然環境の…波…/都市や地域の計画論として重要なことは…「見えない波」を読み取り、その都市や地域がどのような力で復興しうるか見極めることである。そして…必要な空間を見積もったうえで、「急ぎ仕事」と「気長仕事」で実現するものに分け、…必要最小限の急ぎ仕事を実現しつつ…速度の違う空間を意図的に混在させておく。こうすることにより、私たちは「波の力」を最大限に使った賢い復興を遂げることができるのである。(P109)
○縮小都市のデザイン原理とはどういうものか。…①リヴァース…時間を逆回ししていくように…新しいものから順番にたたんでいく。…②リストラクチャ…基盤未整備の市街地を順番にたたんでいく。…③自然再生…自然を再生しながらたたんでいく。…④モダン・リバイバル…実行できなかった計画や構造を再評価し、それらを実現しながら都市をたたんでいく。…大まかな一体性を確保できれば、地区単位や敷地単位に個別具体的に適用するパターンや型をつくっておき、それらの積み上げによって全体が形成されてくればよい。(P139)
○「拠点」「交通網」「住宅地」の三つの組み合わせを考えることが、人口減少時代における都市計画の骨格になる…都市計画の目的は、人々の暮らしや仕事を支えることにあるので、交通網や拠点は、その実現手段に過ぎない。暮らし=住宅地のあるべき姿を描ききったうえで、それを支える…拠点や交通を考えていく手順が最も手戻りが少ないだろう。…また、空間の「変わりにくさ」も重要である。…一番変わりにくいのは住宅地である。…「拠点」を構成する施設は、たとえば商業施設は…簡単に撤退できるものが主流になってきている。…そして最も変わりやすいのは「交通網」である。バスについては…システムさえ組めれば日替わりで路線を組み替えることもできる。(P173)
○私は都市のことを、多くの人々の暮らしと仕事を成立させるための資源調達の場と定義している。…都市計画はこの調達の効率を高めるためにある。…都市計画は…空間に介入し、空間を媒介にした調達の効率を高めるものである。…調達の方法には「交換」と「再分配」の二種類がある。交換はおもに民間の方法で、再分配はおもに政府の方法である。…この30年間で行われてきたことは、効率のよい調達のために、再分配を限定的にし交換の方法を増やしていくことである。(P217)