都市をたたむ☆

 先日聴いた饗庭伸氏の「人口減少時代の都市計画・まちづくり」が非常に面白かったので、本書を購入して読了。都市のスポンジ化とそれに対応した都市計画手法については、先日の講演会でも話された、立川市鶴岡市の事例も紹介されており、改めてナットク。しかし、それ以上に面白かったのが、筆者独特の都市計画の捉え方。都市の成り立ちを「ヤサイ」村と「コメ」村の「カレーが食べたい」という欲求への対応に喩えたり、都市を自然と捉えずに手段として使おうという説明は非常にわかりやすい。個々の都市計画制度の説明もあるが、素人にもわかりやすいのではないか。「都市計画の役割は、腐ったジャガイモが市場に入る前に選別すること、そして、市場に入ったジャガイモが腐らないようにする、ということにある」(P27)という比喩も簡明でそのとおりだ。
 第2章「都市を動かす人口の波」では、4つの時点の人口ピラミッドを重ねることで、どの年代の人が出ていったのかを説明する。人口が減少した地方都市について、「18歳になった時に座る席は常に不足し」(P64)と書いているが、その結果、高齢化率は低くなるという分析も興味深い。単に地方都市を貶めるのではなく、将来を分析して、的確に対応していく視点は好感が持てる。「人口減少を悲惨なことのように考えている人は多くいるが、自身のまちの人口の動きをきちんと理解し、人口減少を過度に恐れないことが大切である」(P88)というのは、まさに金言だ。
 なお、第6章では災害復興について、区画整理+バラックモデルの近代復興に対比して、人口減少化では「非営利復興」の必要を説いているが、理解はするが、まだイメージが明確ではない印象。農山村の豊かな自然や近隣関係の中で得られる「見えない所得」を明示している点が、それをどう復興していくのかはかなり難しい仕事になりそうだ。また、原発復興については、近代復興よりも速い「超近代復興」と言うが、よくわからなかった。福島に近い首都圏にいればわかるのだろうか。いずれにせよ、この章はまだまださらなる考察や研究が必要なようである。
 と若干、批評めいたことも書いたが、視点といい、姿勢といい、非常に好感が持てるし、同感する。「これから先に実践と研究を積み重ねていきたい」(P246)とあるので、さらに期待をしたい。

都市をたたむ  人口減少時代をデザインする都市計画

都市をたたむ 人口減少時代をデザインする都市計画

○人口増加時代では・・・経済を成長させることが目的であった。都市はそのための手段として使われたのである。・・・しかし人口減少が本格化し、経済を成長させることが人々の共通の目的ではなくなる。都市の空間は余りはじめており・・・共通の目的が持つ求心力は弱くな・・・る。かわって顕在化してくるのは、人々の小さな目的である。こうした小さな目的を実現するために、都市はどう使われ、その時に都市計画はどう機能すべきなのだろうか。(P46)
〇スポンジ化には「超小規模化」「多方向化」という特徴、つまり小さな単位で住宅が色々な別のものになっていくという特徴があり、住宅と商業と業務と工業といった用途が近隣の中で混在し、さらに都市と農と自然が近隣の中で混在していく。混在は問題を引き起こすこともあるが、一方で混在によって可能となる暮らし方もある。・・・あらゆるところで様々な用途が混在するのがスポンジ化である。(P125)
〇3つの手法[土地利用規制、都市施設、都市開発事業]に起きる変化は、①小さな空間単位で用途が混在すること、②都市施設が小規模化すること、③都市開発事業が小規模化することであり、これらはどこの土地で実現されるかわからない、場所についての不確実性を持つ。そのため、マスタープランにおいて、はっきりした都市の将来像を則地的に描くことは難しくなる。そこで描けるのは、せいぜい「スポンジの穴があいたら、このあたりにこういう機能が欲しい」という、大きな領域に対する「欲しいものリスト」のようなものではないだろうか。(P165)
コンパクトシティは、例えるならば時限を定め、適切にペースを配分して走り切る中距離走のようなものである。一方のスポンジシティは、例えるならば走者が短距離でバトンをつなぎながら、全体としてはゆっくりと走り続ける長距離走のようなものである。都市はそこにどのように孔があくのかがわからないランダムさを持つ。孔があいたところにある個々の土地の持つ時間軸を読み、短期ではあるが豊かな空間を実現化することと、小さな公的な空間をつなげていき、特に不足している公的な空間をつくりだすことになる。(P193)
〇非営利復興は都市拡大期の復興手法である「区画整理+バラックモデル」では解くことが出来ない。なぜならが、区画整理+バラックモデルは土地を媒介として空間、ソーシャルキャピタル、資本の蓄積とその関係を復興する手法であるからだ。・・・人口減少時代においては被災地の土地を誰も欲しがらない。/そして何よりも、非営利復興では、土地は復活したとしても「見ない所得」の中に入り、二度と市場に顕在化してこない。・・・土地にかわって人々の間の活き活きとした交換を媒介するものは何なのか? 交換を通じて「貨幣による所得」と「見えない所得」をどう修復していくことが出来るのだろうか?(P221)