居住福祉を学ぶ

 私が担当している大学講義の中で1回、「居住福祉」をテーマに取り上げている。これまで、世界人権宣言などの居住の権利や、早川和夫氏の「居住福祉」などを皮切りに、住宅確保要配慮者など住宅セーフティネット法や公営住宅などを紹介してきた。だが、「居住福祉」の定義や導入部分をどう講義すれば学生たちにうまく伝わるか、正直自信がなく、悩んでいた。
 筆者の岡本先生は中京大学で長く教授を務めていることから、特に親しい訳でもないが、長く交流がある。居住福祉学会の会長も務めていることは知っていたが、今回、本書が発行されたのを機に、初めて岡本先生の本を手に取ってみた。この種の本はどうしても、現在の「居住」を巡る問題をこれでもかと抉り出し、批判する内容になりがちではあるが、本書は「居住福祉教育課程の構想」という副題にあるとおり、居住福祉をいかに学ぶか、という視点で書かれており、居住福祉問題の背景や問題に迫るための多角的なアプローチを意識して執筆しているように思われる。その点、過度に追及的にならず、理解しやすい。(ちなみに表紙には「居住福祉教育過程の構想」とあるが、奥付の表記の方が正しいと思う)
 「居住福祉とは何か」を説明する「はじめに」に続いて、「『住居』を評価する三つの観測軸」が書かれている。「ライフサイクル(高齢者・子ども)」と「健康」、そして「住居からの排除」の3つだ。また、第2章「『居住』を脅かす社会と環境」では、「自然環境」「激甚災害」「居住地の環境」「労働問題」「商業活動」「都市改造や観光事業」が挙げられている。そして第3章「居住福祉社会の創造に向けて」では「居住福祉産業」に焦点を当てている点が注目される。居住福祉を単に公共政策として捉えるのではなく、産業活動の中で捉える視点は、いかにも岡本先生らしく、重要だ。
 さて、これを私はよく嚙み砕いて、学生たちに講義できるだろうか。さらに深く熟読し、またいろいろ考えてみることが必要だ。後期の講義までに間に合うだろうか。

○「居住福祉」は「適切な居住が幸せ(福祉)をもたらす」という意味だが、「居住福祉」の理解には「適切な居住」と「幸せ(福祉)」との相互関係の理解が必要である。究極の目標である我々の「幸せ」を共通目標とし、その基盤の「適切な居住」を理解し、その実現に努めて初めて「居住福祉」の実現に向かえる。(P3)
○「居住福祉」は、「住居」が「居住者の暮らし」の基盤となり、それを適切に支えている状態を意味する。しかし、現在社会では、適切な「住居」で暮らせず、その人に相応しい暮らしを実現できない人々が多くなっている。…「居住福祉」は暮らしの基盤の住居と暮らしを支えたり実現したりする社会的な機能や資源が融合して、はじめて実現する。すなわち暮らしを支えるハードとソフトの融合が必要だが、人や世帯、社会、経済、自然などの変化が、「居住福祉」の実現を難しくする。(P8)
○大家は所有している住宅が立地している限り、その地域に無関心でいられない。地域で一人ひとりに相応しい居住が実現し、安全で安心できる地域社会の実現は居住者も大家にとっても幸せである。…居住福祉を実現するために不動産市場とともに、中小零細企業、大家、保健師、ヘルパー、民生委員など地域社会の居住機能の役割を担っている人々の働きを理解することも重要である。(P45)
○企業は、単に利潤を追求するのではなく、従業員やステークホルダーの所得を確保し、社会的に有用なモノを供給するなど、社会への貢献を使命とする。中でも居住に関わる企業は、直接「居住福祉」の実現に関わる使命と役割を持つ。住宅や都市基盤などを創造する企業。ソフトな居住に関わる情報を消費者や居住者に提供する企業。既存の住戸や都市施設を活用、運営している企業。…需要者と居住資源のマッチングを行う企業。居住資源の維持・管理を提示・誘導し、街を守る企業。…多様な企業活動が居住福祉社会には必要である。(P99)