土砂災害の疑問55

 「災害と住まい」という講義の中で、土砂災害も取り上げているが、その発生メカニズムなどは詳しくは知らない。そこで本書を読んでみた。「土砂災害の疑問55」というタイトルのとおり、「土砂災害とはどのようなものですか?」から「土砂災害の多い日本で暮らし工夫は何ですか?」まで、55の質問を設定し、それに概ね3~5ページほどで簡潔に説明を加えている。
 図表も多いが小さく、特に写真は読み取りにくいのが少し残念だが、素人にはけっこう詳しく、かつわかりやすく説明がされている。そして、私が知らなかったようなことも多い。例えば、「地すべりは移動速度が遅く、気づかないことが多い」とか、既に1000基を超える災害碑が地図に掲載されているなど。
 編著は「一般社団法人 日本応用地質学会 災害地質研究部会」で、地質調査会社や学識者などが分担して執筆をしている。「みんなが知りたいシリーズ」の一つとして発行されているが、他にも「雷の疑問56」、「地下水・湧水の疑問50」、「雪と氷の疑問60」、「電波の疑問50」など、興味深いものも多い。また何か知りたいと思ったら、このシリーズを確認してみるといいかもしれない。

○短時間でも非常に多量の雨が降ると…浸み込めなかった地面の上で、速い水の流れが土を壊し…土の粒子が水と一緒に流れ出して斜面を下ります。これが土石流といわれるものです。…また、浸み込んだ水は…斜面を押さえつける力が小さくなり、その結果斜面が自分自身を支えきれなくなって崩れることにつながります。このような現象が…斜面崩壊とか地すべりです。・・・積雪地では、春先の融雪が多量の雨と同じ効果を持つので、雪解けの時期に活発に動く地すべりがあります。(P9)
○日本全国で1年間に発生する土砂災害件数は平均で1,105件にも上ります。…ただし、土砂災害は豪雨や地震等の大きな自然災害をきっかけに多く発生します。(P23)
○地すべりはほかの土砂災害に比べて、土砂の移動速度が遅いのが特徴です。その平均的な移動量は1日に数㎜、1か月に数㎝程度までのものがほとんどです。地すべりの上で生活していても地盤が移動していることには気づかないと思いますが、長時間かけてひび割れが発生した道路などの状況から地すべりとして変動していることを確認できます。一方、大地震の時には動きの速い地すべりが発生することがあり、これは1秒間に数m程度の速さで流れ落ちるように移動すると考えられています。(P79)
○災害碑は、過去に発生した災害を後世に伝えるため、先人が当時の様子や教訓などを石碑などに刻んで残したものです。…国土地理院では、2019年から地形図に「自然災害伝承碑」の地図記号を新たに加え、地図に記すことにしました。…2021年9月現在、1,057基掲載されていますが、まだまだありそうです。(P150)