老いる家 崩れる街

 人口減少に伴い、住宅や住宅地が余ってくる、空地や空き家が多く発生してくるということは、社会的に、そして住宅施策においても最重要な課題となっている。しかし本書はこの問題を都市計画の課題として考察し、方策を考えようとするものである。「はじめに」で以下のように記述されている。

○住宅過剰社会だからといって、新築住宅をつくること、購入すること自体が悪いわけではありません。・・・問題なのは、新築住宅が、居住地としての基盤が十分に整っていないような区域でも、いまだに野放図につくられ続けられ、居住地の拡大が止まらないことです。(P9)

 以下、各地域における住宅供給の実態と問題について記述される。最初は東京湾岸エリアにおける超高層マンションの乱立とそれを助長する再開発等促進区等による規制緩和について。続いて、都市計画法第34条第11項に基づく条例によって引き起こされた市街化調整区域での戸建て住宅の乱立。さらにそれがサブリース会社に利用されて調整区域に入居者の少ない賃貸アパートが建設された「羽生ショック」。
 第2章では、空き家問題や限界マンション、さらにインフラの老朽化について。そして第3章「住宅の立地を誘導できない都市計画・住宅政策」では、災害の恐れがある区域の立地規制が十分行われていないことや市町村間の人口奪い合い競争により、特に非線引き地域で住宅の乱立がみられること、さらに、長期優良住宅やサ高住などの住宅施策に立地規定がないため、災害の恐れがある区域や不便な土地に建設されていることなどが指摘される。
 これらへの対応として、第4章では7つの方策が語られるが、これらに特に異存はない。それ以上に興味を惹いたのは、立地適正化計画制度の活用だ。この法律が施行されて2年余りが経過した。現状は国の補助制度に引き摺られる形で、全国的に、形ばかりの計画策定に向けた検討が進められていると思うが、居住誘導区域外の届出制度をいかに運用するかがこの制度の肝だということを認識した。
 人口減少、住宅の過剰供給、空き家の増加、住宅や都市インフラの老朽化など、今後予想される課題は枚挙に暇がないほどだ。しかしこれらに適切に対応するにはもう既にかなり時機を失した感がある。筆者には失礼だが、都市計画が数十年先を見通した都市像を描くことができない状況では、旧来の都市計画制度はもう大して役に立たないのかもしれない。次善の策を考える時期に来ているような気がする。

○人口増加を目標に掲げて、本来、市街化を抑制すべき区域である市街化調整区域の農地エリアで都市計画の規制緩和を行っても、市内や圏域で人口を奪い合っていただけで、転入者の増加をもたらす効果は限定的だった・・・それにもかかわらず、農地をつぶして、無秩序に宅地化しながら、低密にまちが広がり続け・・・行政サービスの効率の悪化や行政コストの増加といった悪循環を引き起こす状況は、まさに「焼畑的都市計画」であると言えます。(P77)
○今後、居住者も住宅そのものも老いが深刻化してゆくにもかかわらず、老いた住宅を引き継ぐ人口自体が減っていくことから、空き家の解体・除却への税金投入など、社会的コストが膨らみ続けることが懸念されます。/そのため、住宅の終末期、つまり解体・除却費用を確実に捻出できる新たな仕組みを早急に考えていかなければなりませんが、その必要性は認識されているものの、残念ながら、具体的な動きにまでは至っていないのが現状なのです。(P119)
○これまで、長期優良住宅のサ高住も、建てられる立地は関係なく、要件を満たせば、一律的に手厚い公的支援が受けられる仕組みとなっていました。/しかし、災害の危険性が想定される立地や、自家用車に頼らないと暮らせないような立地に新築される長期優良住宅やサ高住については、少なくとも、税制上の優遇措置や建設費の助成を行わないようにするなど、立地によるメリハリをつけるべきなのです。(P183)
○立地適正化計画では、居住誘導区域外で一定規模以上の新たな住宅を建てる、つまり、デベロッパーなどによる新たな宅地開発に対して、事前届出が必要になるということなのです。もし、届け出された計画内容が、立地適正化計画に照らして好ましい行為ではない場合には、市町村から是正等の勧告が行われることになります。・・・このように、立地適正化計画制度は、新たな宅地開発を禁止するという規制的な手法ではなく、事前届出・勧告という仕組みを導入することで、長い時間をかけて、居住誘導区域に新築住宅の立地を誘導することを目指した制度となっています。(P192)