ヤンキーの虎

 先に読んだ「これからの地域再生」の中で藤野氏が書いていた「ヤンキーの虎」に興味が湧いて、本書を読んでみた。うーん、期待ほどには面白くなかった。
 「地方は今、筆者が『ヤンキーの虎』と名付けた起業家が現れ、地域経済を引っ張っている」というのだが、読んでみると、筆者が紹介するヤンキーの虎が意外に拡大志向で、地方出身だけども、全国区へと事業を広げようとしている。文中には、ヤマダ電機ニトリユニクロも「元々は地方から事業を拡大したヤンキーの虎」という一節があるが、それだったら、ほとんどの企業が「ヤンキーの虎」ではないか。実際、そのすぐ後ろでは、「ドン・キホーテしまむら、イオン、CoCo壱番屋スーパーホテルなども・・・みな『元・ヤンキーの虎』」(P127)と書かれている。ようするに、三菱や東芝などの大企業に対して、地方から成り上がってきた企業はすべからく「ヤンキーの虎」。それだったら、ひょっとしてトヨタも「ヤンキーの虎」?
 「ヤンキーの虎」の定義は冒頭に書かれている。「地方を本拠地にしていて、地方でミニコングロマリット化している、地方土着の企業。あるいは企業家」(P020)。そして彼らは、介護事業や携帯電話ショップなどで儲けて、さらに有名チェーンのフライチャンジーとしても事業展開をしている。コングロマリット化ということは、儲かりそうな業種・業態に多面的に参入し、事業展開をしている。でも言ってみればこれ、ちょっとやる気のある2代目・3代目ですよ。今年になって私は地元の商工会議所に出入りするようになったが、そこではこんなタイプの起業家が大きな顔をしている。だから「ヤンキーの虎が地域経済を支えている」と言っても、何を今さら、という気がする。
 藤野氏は現在のJPモルガン・アセット・マネジメントでカリスマファンドマネジャーと謳われ、投資ファンド会社を設立。そのレオス・キャピタルワークスが販売する「ひふみ投信」も絶好調のベンチャーキャピタリストだそうだが、こうした都市的な生活からは地方の経済状況は面白く、新鮮に見えるのかもしれない。しかし地方で暮らし続けている側からすれば、当たり前の実態。投資という観点で見れば、大会社よりも「ヤンキーの虎」が経営するような地方企業の方が成長率は高いだろうし、そうした企業を見つけて投資をしてきた藤野氏の実績と投資眼はもちろん高く評価したい。
 本書後半では、シャッター街の店舗で安住する「動かない人」を批判する下りがあるが、それはある意味一つの価値観であって、投資や経済的な視点で見れば許せない行為ではあっても、誰もがリスクをとって成功するわけではない。「ヤンキーの虎」と持ち上げてリスクを取らせることで、儲かる人もいるだろうし、全てを失ってしまう人もいる。そういう意味では本書を読んで「地方で起業すれば自分も『ヤンキーの虎』になれる」と勘違いはしないようにしたい。そうではなくて、「地方には『ヤンキーの虎』と呼ばれる地元事業家がいて、経済を支えている」という事実を知ればいい。地方にいれば当たり前のことなんだけどね。

ヤンキーの虎

ヤンキーの虎

○地方の成功者たちに共通するのは、「リスクテイカー」だということが分かってきました。縮小する地方の中でリスクをとろうなんて、馬鹿げていると思われるでしょう。/しかし、彼らは、逆に考えています。地方だからこそ、リスクをとれば勝てる。守りに入るのではなく、攻めの姿勢で事業を広げていけば儲かると思っているのです。実際、そのやり方で、彼らは成功を収めています。(P011)
○「毎月200万円の営業利益が出るようになれば、1ヵ月200万円の返済能力を得たということ。つまり1億円を5年間で借りることができる。この1億円を得て、フロービジネスとストックビジネスに投資して、どんどん成長させていこう」。/利益が出ると、すぐさま次の投資を考えて、ビジネスを拡大する。この事業欲の強さが、まさにヤンキーの虎の特徴だと感じます。(P095)
○地方にも有望な企業はたくさんあるし、ビジネスチャンスも山のように転がっている。生活環境もいい。それでもなぜ都市部の人たちは地方で働こうとしないだろうか。・・・その原因こそが、「地方ビジネスの社会的地位の低さ」です。これを解決するためには・・・「数の力」が必要なのです。事業を拡大して、「この業界はこんなに儲かるんだ。社会に必要とされる業種なんだ」という認識が広がれば、全国の若者たちが目を向けてくれるかもしれません。/すると、地方経済の縮小スピードを抑えられますし、若者が地方に定着するようになれば、地方の人口減が多少なりとも食い止められる可能性があります。(P104)
○地域の有力フランチャイジーであるヤンキーの虎は、お金をたくさん持っていますし、不動産も持っていますし、地域の情報、顧客網も持っています。・・・しかし、逆に、彼らが「儲からないな」と考えると、一気に契約が解除されてしまう。・・・こうして、今、多くの地域では、FC本部よりもフランチャイジーのほうが発言権を持つようになりつつあるのです。(P123)
○シャッターを閉じても生活ができるということは、それだけお金を貯め込んでいるということです。・・・家のローンや借金の返済も済んで、それなりに老後の資金を貯め込んでいる。店舗は使っていないけれど、人に貸すのもイヤだし、新しいチャレンジなどするつもりもない。/これが、シャッター街の正体です。ある意味、「豊かさの象徴」とも言えます。・・・ただ、この豊かさは、個人の豊かさに過ぎません。街全体の活気や楽しさには繋がっていないのです。(P169)