地域衰退☆

 なぜ、地域の衰退は起こるのか。ごく単純に言えば「雇用があれば人は定住」(P151)する。派手な観光開発や話題になりがちな景観保存などは「地域の屋台骨を支えるような雇用を生み出しはしない」(P152)と松山大学の市川虎彦の言葉を引用しているが、「まちづくりの成功事例」と言っても所詮そんなものである。地域が衰退したのは、基幹産業が衰退し、その後に新たな産業が興らなかったためである。では、地域が再び活性化する可能性はあるのか。本書では、衰退地域の現状を指標で示し、製造業、リゾート開発、そして公共事業による地域衰退の具体例を示し、なぜ地域が衰退したのかを明らかにする。
 まず、なぜ大都市は活性化するのか。本書ではそれを、移出型サービスである事業所サービス業が「集積の利益」を求めて大都市に集中するからだと説明する。一方で、サービス業のうち、地方に残る「個人サービス業」や「公共サービス業」は人口に比例し、しかも人口は減少している。また、これまで地方で進められてきた農業の大規模化や林業規模の拡大、さらには市町村合併といった「規模の経済」は実際には機能しないことを、数字を挙げて説明する。規模を大きくしたところで、「疎」がさらに広がるだけで、効率化にはつながらない。
 ではどうすればいいのか。筆者は、「小規模」を前提に政策を組み立てることを提案する。小規模ながら種類を増やす、「範囲の経済」を働かせること。国の地方創生による全国一律の政策誘導を否定し、地域に新たな基幹産業を興す。ただし、これまで「まちづくり」と称して様々に実施され、また称賛されてきた観光開発や集客イベント、直販所などは大した雇用を生まない。そこで可能性として挙げるのが、小水力発電などの「発電事業」や地方都市においても可能な「地産地消」型事業所サービス業だ。地域人材の活用である。
 新型コロナの感染拡大が続く中、次のパンデミックの発生を考えると、これまでのような東京集中型の経済構造では日本自体の衰退の恐れがあると警鐘を鳴らす。日本の衰退を食い止めるためにも、地域に雇用を生み出す多様な産業を興すことが必要だ。「地域衰退を食い止めることは…日本を救う道となる」(P170)という文章で締めくくられる。地方こそが日本を救うのだ。確かに時代の流れはそうした方向に向かっているのかもしれない。地方の頑張りに期待したい。

地域衰退 (岩波新書 新赤版 1864)

地域衰退 (岩波新書 新赤版 1864)

○消費者を顧客とする「個人サービス業」、事業所・企業を顧客とする「事業所サービス業」、医療・教育。社会福祉などにかかわる「公共サービス業」の3つに分類される。…個人サービス業は、人口の分布に比例して比較的広く分布するのに対して、事業所サービス業は、…特定規模以上の都市に集中する傾向がある。これら事業所サービス業の伸びは著しく、その結果、事業所サービス業が多数集積する大都市地域は成長し、その他の都市との格差を拡大させてきている。(P73)
○農林業や鉱業といった基盤産業が衰退した地域の中で、産業の交代が起こらなかったところでは、その後、著しい人口減少と高齢化が見られた。他方で、大都市…では、移出型サービスである事業所サービスが新たな基盤産業として発展し…ますます発展している。こうした都市以外の地域では、サービス経済化は進んでいるものの…医療・介護を中心とした公共サービス業への特化が見られる。そして、その背景には高齢化の進展にともなう社会保障給付の増加がある。(P88)
○人口が減少している日本で、大規模化によって問題を解決するという手法…「規模の経済」を働かせようとするような政策を採るべきではない。/むしろ「小規模」を前提に政策を組み立てていく必要がある。…「範囲の経済」とは、商品の種類を増やすことによって収益を増大させることをいう。…兼業によって林業収入が農業を支える「農家林家モデル」は、まさに「範囲の経済」である。…「規模の経済」ではなく、「範囲の経済」を考えて、地域の仕組みを組み立てていかなければならない。(P126)
○たとえ辺鄙なところであっても雇用があれば人は定住し、逆に、歴史的景観保存、観光開発、集客イベント、直販所等は、いかに成功しているように見えても小手先のことで、地域の屋台骨を支えるような雇用を生み出しはしない…。グローバリゼーションが進展した今、今後も様々な道の感染症が流行する可能性があることを考えれば…人の往来を前提とした地域活性化策は、非常にリスクの高い手法になってしまったのである。(P151)
○今後、このような未知の感染症の流行が繰り返される限り、東京の雇用吸収力は以前ほど大きくはならないと考えられる。したがって、日本全体として、東京の経済を拡大することによって雇用を拡大するというやり方は、今や持続不可能になったといえる。/こうした変化を踏まえれば…地域、さらには日本の衰退を食い止めるためにも、東京などの大都市以外の地域に雇用を生み出す多様な産業を一刻も早く興す必要がある。(P166)