朽ちるマンション 老いる住民

 朝日新聞デジタルで昨年2月から6月にかけて連載された記事を再構成したもの。老朽化するマンション。そして高齢化する居住者。その結果、様々な課題と問題を抱えるマンションの管理の実態については、ようやく一般紙でも取り上げられるようになってきた。昨年は私が購読する中日新聞でも、マンション管理の問題を取り上げていた。でも中日新聞のほうがもう少し専門的だったような気がする。
 それでも、冒頭の「管理会社『拒否』の衝撃」は少しショックだ。賃貸や売却に出されることなく、放棄される空き家の存在も指摘されている。また、認知症の居住者の増加だけでなく、高齢者が多い管理人自身が認知症を患ってトラブルを起こした事例も報告されている。
 一方で、対策に対する視線は少ない。あくまで一般紙の記者であり、専門家ではないから仕方ないのかもしれないが、問題事例を紹介するだけで終わっているような気がする。ところどころ挟まれる専門家のコラムも一面的で彼らの知見を十分紹介しきれていないように思う。いくつか成功例も紹介されているが、何となく中途半端でその良さや教訓があまり見えてこない。
 もちろん、マンション管理にかかる問題は根深い。一般読者向けにはまずは問題提起ということでいいのかもしれない。でもやはり物足りなさは残る。まあ仕方ないのかもしれない。

○マンションの清掃や資金管理などを委託していた管理会社から管理を断られるケースが、都市部のマンションを中心に増えている。…拒否が増える背景の一つには、管理にかかるコストの上昇がある。…管理費…高騰の背景の一つに、管理人らの人材不足がある。…古いマンションほど、年金暮らしの住民も多いため管理費の値上げに応じにくく…建物も住民も老いる中、管理会社も利益を出しにくくなっており、管理拒否は今後も増える可能性もある。(P20)
○古いための、買い手や借り手がつかない、というだけではない。/14年に設立された「空き家活用株式会社」(東京)は5年ほど前から、調査員の目視による独自の空き家調査を始めた。販売や賃貸に出されていない…市場に出回っていない物件は…東京23区内で…5千戸前後だという。…貸したり売ったりして活用しようとしていない物件は、管理がよりおろそかになっている可能性があるという。(P28)
○超高齢社会で、認知症は居住者だけの問題ではない。マンションの管理人は、定年退職後に再就職したシニアも多い。同社では最長80歳まで管理人として働くことができ、平均年齢は60代半ばだ。/高齢の管理人自身が、認知症の当事者になる事例も発生している。…ごみ置き場の入り口と居住者宅の玄関を間違えてしまい、管理人が居住者宅のカギ穴を工具で壊しかけた事例が報告された。管理人本人は記憶や自覚がなく、認知機能の低下が心配される状態だったという。(P136)
○中古物件なら、新築に比べて管理の実態が把握しやすい。土屋さんは「物件の検討段階に入ったら、仲介業者に依頼し、総会の議事録を閲覧しましょう」と助言する。/総会が毎年開かれているか確認し、理事会開催の頻度にも注目。…水漏れなどの修繕記録にも目を向け、懸案事項を把握。迅速に修理しているかどうかを確認する。/長期修繕計画にも目を配ろう。…長期間更新割いていないことも多いという。(P152)
○閉じ込められる恐れがあるエレベーターや、高層階の避難の難しさなど、災害とからめて不安が語られやすいマンション。しかし、NPO法人「日本防災士会」の…田中実さん(71)は、「一方で、心強い住まいとも言えます」と語る。/プライバシーを保ちながらも、壁ひとつ隔てれば隣人がおり、いざというときには「5秒でお隣です」。…進む高齢化に対しても「人生経験が豊かな人が多いことは、弱みではなく、強みだと考えることもできます」と田中さんは言う。(P168)