孤立する都市、つながる街

○都市生活における最も深刻な「孤立」という課題を、社会福祉の専門的な取り組みや行政サービスの拡大だけでなく、個人の価値観の転換を促す対話、小さなコミュニティや場づくりの蓄積、シビックエコノミーの創出の可能性と併せて解いていこうとする、まったく新しいアプローチです。/もちろん、このアプローチは専門機関の取り組みや行政サービスの拡大を否定するものではありません。むしろそうしたセーフティネットの上にこれらのアプローチが積み重なったときに、初めて私たちの都市社会が次の段階に進むのではないかと考えます。(P21)

 「はじめに」の中のこの一文を読んだ時、「ん? 少し違うのではないかな」という思いが頭をよぎった。書かれていることは一見間違ってはいない。だが、「セーフティネットの上にこれらのアプローチが積み重な」らなければ、「私たちの都市社会が次の段階に進」めないのだとすれば、それはほんの一部の地域しか、「次の段階」へ進めないことになってしまう。
 本書では編著者である保井氏を含め、8名の者が章を分担して執筆をしている。このうち第1部は地域の個別具体的な活動報告だが、第2部は地域活動を活性化するための方策について述べた論考となっている。第2部の中でも第4章・第5章はまだ、具体の地域活動をベースに「創発コミュニティ」や「自分たち事」について論じ、多少具体性もあるが、第6章は何が書かれているかさっぱり理解できず、第7章も机上の空論のように思われる。図らずも第7章では「果敢に選択と集中をしない限り、日本に未来はない」(P207)と書いており、選択と集中から外れた地域は「日本の未来の前に犠牲になれ」という弱者切り捨ての思想が垣間見える。
 本書は、全労済協会が設置した「つながり暮らし研究会」の活動成果をまとめたものであり、研究会の主査を務めた保井氏としては、様々な意見、構成員の意見を踏まえ、総論的に記述するしかなかったかとは思うが、保井氏が執筆した終章では「社会的共通資本」の上に「社会創造資本」を提唱しており、先に引用した「はじめに」の読み取りがあながち間違っているということでもないだろう。
 もちろん、拡充されたセーフティネットの上に様々な地域活動があることはいいことだが、それができない地域を切り捨てることは否定したい。セーフティネットからこぼれるという現実があるとすれば、たとえそれがどんなすき間であれ、繕うことが難しかろうが、補修し、拡充されなければいけない。その上で、より良い地域をつくるための活動や手法は紹介されればいい。地域の課題は自前で何とかするのが当たり前ではない。
 ちなみに、第1部で紹介される地域活動の報告はいずれも現場に即し、真実の姿を描き出している。中でも「日々お散歩をしている子どもたちは…そのまちのエキスパートです」という文章には、思わず笑みがこぼれた。また、近所での「つながり」や「自分たち事」という考察も正しいと思う。「つながる街」というタイトルはその意味で正しい。しかし「孤立する都市」は地域活動で解決するのではなく、行政課題として対応すべき問題だと思う。

孤立する都市、つながる街

孤立する都市、つながる街

  • 作者:保井 美樹
  • 発売日: 2019/10/05
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

○日々のおさんぽをしている子どもたちは、むしろ日中まちに不在な保護者に比べれば、もうそのまちのエキスパートです。彼らを中心に、子どもの育ちにまちそのものが活かされ、まちが関わっていくこと。それはそのまちのコミュニティファンを生み出す、少し先のまちの未来を創ることでもあるのです。(P79)
阪神・淡路大震災直後、たくさんの人がつぶれた自宅の下敷きになり…多くの人は近所の人に助けられました。…命を救ったのは、近所など、人と人のつながりでした。…コミュニティとは近所に住んでいることではなく、つながり合っていることであると学びました。つながり合えて初めて、コミュニティに意義や意味が生まれる。近所に住んでいるだけでは不十分で、意図的につながりを作らなければコミュニティにはなっていかないということを知りました。(P84)
○最近、自治会等の地域コミュニティの役割として防犯・防災や安心安全が強調されるのは、もはや地域全員の共通の関心事がそれらしか残されていないためだからとも言えます。でも、そこから以前のような相互扶助の仕組みをベースとした共同性を取り戻すのは、不可能です。/代わりに今、地域コミュニティに必要なのは、各個人が有している個別の関心事を取り上げ、重なり合う関心事をもつ仲間たちとつなげて思いもよらなかった活動や魅力を生み出し、その成果を地域でシェアできるように空間と社会を編集していくような「自分たち事」の取り組みなのです。(P135)

昨年読んだ「すまい・まちづくり本」ベスト5

 去年は12冊しか読まなかった。妻の病気などもあり、なかなか落ち着いて本を読んでいる心境にならなかった。今年から始める予定の新しい仕事への準備をしていたこともある。それでも平山洋介の本が2冊も発行されたことはよかった。読んだ冊数は少ないが、例年よりもレベルは高かったと思う。

【第1位】マイホームの彼方へ平山洋介 筑摩書房
 昨年は何と言ってもコレ。住宅問題・住宅政策論を体系的に論じた教科書ともなる集大成の本だ。持ち家政策が「成長後の社会」でいかに機能不全を起こし、格差と住宅貧困を拡大させているかを統計資料等も用いてわかりやすく説く。10月に発行された「『仮住まい』と戦後日本」はいくつかの雑誌に出航した論文集だが、そちらには具体的な方策なども書かれている。2冊読むことで、筆者の考えがよりわかりやすく理解できる。

【第2位】日本列島回復論(井上岳一 新潮新書
 今や資源も人も「山水郷」に集まっている。「山水郷」にこそ日本の未来はある。地方に足を置く企業の可能性も示しつつ、具体的かつ実践的に「山水郷」を核とした日本列島回復論を描く。非常に魅力的な本だ。前半の資本主義批判も切れ味がよい。

【第3位】日本住居史(小沢朝江・水沼淑子 吉川弘文社)
 縄文弥生時代から現代まで。日本の住宅の歴史を、豊富な図や写真とともに、典型的な住宅を取り上げつつ、具体的かつわかりやすく説明していく。藤森輝信に匹敵するくらい、読み物としても優れている。楽しかった。

【第4位】近代建築そもそも談義(藤森輝信・大和ハウス工業総合技術研究所 新潮新書
 週刊新潮での連載を収録したとのことだが、かなりまとまって書かれ、本書で初めて知った逸話も多い。藤森輝信氏の引き出しはどこまで深いのだ。だから藤森輝信はやめられない。

【第5位】土地はだれのものか(「土地はだれのものか」研究会 白揚社
 法学や経済学などの分野から人口減少時代の土地問題について書かれた本。歴史的視点から日本の土地法制が構築されていった過程を追う論考も興味深い。日本の土地問題を再構築するためにはこうした法曹会からのアプローチが欠かせない。日本の将来にとって非常に重要かつ有益な指摘と提案に満ちている。