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地方創生の正体

 国があり、都道府県があって市町村がある。日本の統治構造‐自治構造はそう組織されている。そして住民はそうした多重構造の中で、特に地方の居住する住民は、その構造を下から眺め、実感している。昨年度から突然のように取り組み始められた「地方創生」は、そうした多重構造の中でもまず市町村を毀損し、都道府県を国と一体化し、「国(権力)」-「住民(国民)」の単線構造にし、より強力な権力と意思決定のできる国家にすることを目指している。しかも「地方創生は地方のためですよ」と甘言を囁きながら、実は地方消滅・地方早逝を早めている。
 二人の気鋭の社会学者と行政学者。彼らが福島原発東日本大震災被災者・避難者と自治体の問題、国が主導した震災復興の経過と現在発生している問題点などを話し合いながら、地方創生の問題について切り込んでいく。「地方創生は地方への侵略である」「「地方創生で自治体は困り果てる」など、エキセントリックな表現とともに地方の政治や行政の実態を暴く。
 山下祐介が現場主義で見てきたこと、社会学の視点で感じたことを、行政学者の金井利之にぶつけ、金井がズバッと返していく。金井の口から語られるのは、「国‐自治体」の関係の中でどうしようもなくすり寄り、同化していかざるを得ない自治体の姿だ。行政組織の構造として当然そうなりゆく方向を内在している。特に、かつてのような経済発展が見込まれない人口減少社会の現在においては。
 最後まで悲観的な批判しか出てこない。それが現状だからしかたないのかもしれない。しかし、地方を消滅させてなお、国家が存続するということもあり得ない。だからこそ国にはこの構造、現在進めている政策からの転換を促したい。住民を困らせて、住民を食いつぶして国家が成り立つわけもない。しかし格差が急速に進行する社会の中では、自分だけは勝者でありたいという思いが、減りゆくパイの争奪戦という形で起きているのだろう。危機感が故にさらに滅亡への道を急ぐ社会。日本で今進行していることを改めて悲観的かつリアルに描き出している。寒々しい気持ちにさせてくれる。冬に向かう時期に読むには辛すぎる。

地方創生の正体: なぜ地域政策は失敗するのか (ちくま新書)

地方創生の正体: なぜ地域政策は失敗するのか (ちくま新書)

●人口が8000万人になってもそれぞれ2回ずつカウントしさえすれば1億6000万人になります。こうすれば、すべての自治体にとって、勝ち戦に持ち込めるのです。・・・二重住民票の問題は、これに関係しています。夜間・定住人口だけでなく、昼間・交流人口も住民と見なせばよいのです。(P039)
●今回の地方創生は、中央が地域へ侵略していくための戦略になりかねない。各地域では逆に、これを機会に地域を自分たちで守り、かつ若い世代にしっかり引き継いでいく仕組みを考えていく、そういう契機にすることが必要です。(P081)
●票の少ないところに向けて地域を重視する政策を進めていくというのは、あり得ません。だから、「地方創生」は、地方拠点に梃入れするという地域間格差是正ではなく、地方消滅・地方早逝の煙幕として、地方中枢拠点を重視している素振りをしているだけだ、と解釈されるのでしょう。・・・今回の「地方創生」のアイデアは、二つの矛盾する顔を貼り合わせる努力だと思います。ひとつは、・・・定数是正を背景とする地方切り捨てを円滑に進めるためのカモフラージュです。それと同時に、二つは、地方切り捨てをする国の政権を、切り捨てられる側の地方圏によって支持させようとする作戦です。切り捨てられる側の支持で切り捨てる政策をする、という魔術です。(P191)
●問題山積なのに、政治改革・行政改革などと、迂遠な改革にうつつを抜かしてきたのが、この国の為政者です。為政者は、自らの失敗の責任を棚に上げ、「改革」と称して、権力分立を廃して強い内閣・政権をつくろうとしてきました。しかし、手腕のない為政者が運転席に座り続けるのですから、より大きな失政が引き起こされる可能性が高まるだけで、これもまたうまくいかないことは目に見えています。強い政権は、政策的なアイデアを出す知恵が回らないから、やみくもに何かをするだけになるのです。(P247)
●共同性があるから意思決定できるのですが、意思決定できるから共同性が維持できる、という相互補強関係があります。・・・政府なき社会は持続しないでしょうし、社会なき政府も持続しないでしょう。・・・他方でそうした地域・自治体をつくるには、国による統治のあり方が深く関わってきます。逆に言えば、そうした地域・自治体を尊重する国家統治でないとこの国はもうもたない。そういう国のあり方へと変革する政治的決定こそが、政治リーダーたちには求められるわけです。(P291)