下呂を元気に! 下呂交流会館

 温泉で有名な下呂市に5年前、市民交流のための施設「下呂交流会館」がオープンした。先日機会があって見学することができた。完成した施設内容もさることながら、運営や利用状況もすばらしく、元気をもらって帰ってきた。いい施設だった。
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 立地は下呂温泉から歩いて15分程度。下呂駅で昼食後、飛騨川を渡り、せせらぎの小径を辿って上流に歩いていく。途中、何ヶ所も足湯があって観光客が足を浸している。国道41号をくぐり、下呂温泉合掌村への坂道をたどり、通り過ぎるとようやく「下呂交流会館」が見えてくる。緑の山並みを背負って、南側に棚田をイメージした段々状の駐車場がある。その後ろに細い列柱が並ぶ白い建物が控えている。明るく軽やかなデザインだ。列柱の間に伸びるキャノピーに迎えられてエントランスホールに入っていく。エントランスの前には水路が水を湛える。駐車場にも南に下がる水路があった。
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 ホールに入るとさらに2階・3階へ上がる階段がある。階段はすべて木製だ。梁がむき出しの天井上部のトップライトから明るい光が落ちてくる。2階のフリースペースでは子どもたちが勉強をしていた。2階フロアから左手へホワイエに導かれる。ホワイエの壁には絵画が飾られていたが、このスペースだけでも貸し出しをしているそうだ。ホワイエだけではない。楽屋も単独で貸し出しに応じており、学生グループなどの利用があると言う。
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 「泉ホール」と名付けられたホールは全805席。設計前に20数回に渡り開催された住民参加のワークショップでホールの内容も検討した結果、設計者も予定していなかった本格的なコンサートホールとしての仕様で整備することになった。平面的には狭い感じがするが、2階にも席を配し、縦に高く十分な気積を確保し、音響的に優れたホールとなっている。また舞台は広く、様々な舞台芸術に対応可能な機能を備えている。
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 舞台から裏手の楽屋スペースに向かう。この施設の最大の特徴の一つが楽屋などのスペースがエントランス側に配置されていることだ。エントランスホール脇の左手に「関係者以外立入禁止」と表示されているものの、ホール裏スペースへの入り口がある。建物の南側に位置し、ブラインドを開けると室内が明るい光に満たされる。非常に気持ちがいい空間だ。出演者と来場者がエントランスホールで交流できるよう、普通は裏手にあるこれらのスペースをあえてエントランス側に設けた。これもワークショップでの提案を踏まえてのものだと言う。
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 この施設のもう一つの特徴は、ホールとアリーナを併設させている点だ。そして二つのエリアの間に階段状に棚田テラスを配置している。エントランスから奥へ至るスペースだが、1階にはサービスセンターの奥に約135m2あるマルチスタジオ(まめPod1)がある。片側の壁面に鏡を設置し、ダンスレッスンや小規模なイベントならこのスペースでもできるようになっている。また工作室(まめPod2)やカフェも1階にある。2階にはメディアラボ(まめPod3)、会議室である多目的室A(まめPod4)と多目的室B(まめPod5)。さらに和室(まめPod6)と音楽練習室(まめPod7)。これらの部屋にはいずれも「まめPod」という名前が付いている。「まめ」は地方の言葉で「元気」を意味する。市民の元気と交流の源だ。さらに3階にはラウンジがあって泉ホール2階のホワイエに通じている。
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 棚田テラスから右手に「温アリーナ」へつながっている。1階はアリーナ。2階は観覧席に通じる。ちなみに、「泉ホール」と合わせて「温・泉」となるネーミング。当日は県内の少年バスケットボールチームによる大会が開催されており、2面のバスケットコートで元気のいい声が響いていた。観覧席の背後にはランニングトラックがぐるっと1周巡り、選手がウォーミングアップをしている。観覧席の座席下から吹き出し空調が施され、1階のアリーナ部分には床暖房が設置されている。地中熱を利用したクール・ヒートチューブの採用など環境への配慮もなされている。
 施設の運営にあたっては市民参加によるサポーターグループとして「たくみ隊」「もてなし隊」「ささえ隊」が組織され、受付や音響などの技術支援、イベント企画などを行っている。まさに市民交流の施設となっている。そればかりではない。下呂温泉と言えば毎年100万人以上の宿泊客があるが、これらをこの施設に呼び込むための取組を実施している。それがコンベンション助成金制度で、宿泊人数に応じ助成金を支給。また、準備や片付けを施設側で行う宿泊者限定おまかせ運動会プランという企画も実施。これらの取組の結果、交流会館利用者のうち約15%は宿泊者となっており、効果を出している。
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 さらに屋外へ回る。敷地全体がかなりの傾斜をもっているが、その東側には棚田も残っている。そして敷地を南北に流れていた水路は建物の東側にビオトープ状に整備され、さらさらと水が流れていく。水量は意外なほど豊富だ。敷地北側にも棚田が広がっていたそうだが、最近県立病院が整備され、敷地北側に擁壁がそそり立った。それがすごく残念だと設計者が話していた。
 全体的な印象としてはとにかく明るい。トップライトから降り注ぐ光。そして棚田をイメージして段々状に配置した「まめPod」が面白い。内装は地場産材の杉がふんだんに使用され、コンクリート打ち放し面とよく調和している。ワークショップから続く市民交流の場として、また宿泊者との交流の場として、よく利用されている印象を受けた。いい施設を見学させてもらった。足湯にはは入れなかったけど、十分な元気と癒しを得て帰途につくことができた。