日本創成会議が「2040年には自治体の半数が消滅する可能性」と発表されたのは昨年の5月。多くの自治体にとっては相当なショックで、さっそく国もこれに対応する動きを見せ、11月には地方創生関連2法が制定された。こうした動きに対応して何冊か関連本も発行されたが、今さら自治体格差や地方活性化に関する本を読む気も起らない。それでしばらく静観していたが、先ごろ「限界集落の真実」他の著作を持つ山下祐介の新しい本も発行された。どんな内容か今から楽しみだが、その前に地方の視点からの本も読んでおこうと思って、先に本書から読み始めた。
自治体消滅へのどんな処方箋が書かれているかという期待もあったが、その部分は比較的穏当な提言が並んでいる。それよりも日本創成会議のレポートに対して冷静にデータを取り揃え、客観的に人口動向などを説明していく点が面白かった。それらのデータの中には、えっと驚くようなデータも少なくない。例えば、都道府県数が今と同じ47府県となった1888年に日本で最も人口が多かった府県は新潟県だったなんてことは全く初耳だ。他にも、高齢化率が最も低い自治体は東京都の小笠原村だとか、ドイツも日本とほぼ同じようなペースで人口が減りつつあるとか、いろいろと興味深い。
第4章では新潟県の各市の政策が紹介されている。中でも長岡市や村上市の取組の紹介は参考になる。などと読んでいくとあっという間に8割方が過ぎる。第5章と第6章で施策提案が列挙されているが、決定的な独自の施策が提言されているわけではない。過疎対策事業などこれまでの施策の総括をしっかり行った上で新しい施策に取り組むのでなければ再び大した成果も挙がらず、これまでと同様の結果になると警告するにすぎない。
しかし本書からは意外に危機感は感じられない。地方を楽しむことで、東京も地方も共に活性化すると楽観的に書いている。それは新潟県で暮らし、新潟県の各市の取組を間近で見続けているからそう思うのだろうか。増田リポートにそんなに焦る必要はない。たぶん山下祐介も同じことを書いていそうだ。次は山下祐介の「地方消滅の罠」を読んでみよう。
- 作者: 田村秀
- 出版社/メーカー: イースト・プレス
- 発売日: 2014/12/10
- メディア: 新書
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●高齢化率が一番低いのは東京都小笠原村の9.2%で、次いで東京都青ヶ島村の10.5%と離島が続く。これらの島は合計特殊出生率も高く、若年層も流入しているためである。(P072)
●1888年に一番人口の多かった府県はどこだろう。この答えを知っている人は意外と少ない。東京都(当時は東京府)あるいは大阪府、と答える人が圧倒的に多いが、正解は実は新潟県である。(P111)
●村上市の取り組みにはいくつかの特徴がある。まず第一に市民が主体の市民によるプロジェクトであることだ。・・・第二に、あまり多額の費用をかけていないということだ。・・・地域の宝を掘り起こすことの重要性は様々な識者によって指摘されているが、なんといってもそれを実践し形にし、しかもやり抜くことができるかがまちづくりの成否を握っている。その意味では吉川氏をはじめとする市民有志の市民力がまちに元気を与えているのである。(P171)
●国立社会保障・人口問題研究所によれば、フランスをはじめとして1980年代に期間合計特殊出生率が低下して、1990年以降上昇に転じた国々では、この間、コーホート合計特殊出生率はほとんど変化がなかったというのだ。つまり、一度下がって再び出生率が上がったのは、出産の先送りと高年齢での生み戻しという出生タイミングの変化、すなわち晩婚化や晩産化ということでほとんど説明できるとしている。(P199)
●工夫次第で東京と地方が折り合いをつけることはそんなに難しいことではない。東京と地方がウィン・ウィンの関係になることは十分可能だ。・・・もっと多くの人が東京も地方も楽しむ、そのような社会になっていけば、東京一極集中の問題も、地方の衰退の問題も、実は大した問題ではないということになっていくのではないだろうか。(P264)