名古屋では今、リニア中央新幹線の2017年度東京―名古屋間開通に向けて、地域活性化への期待が高まっている。開業後の2030年における名古屋圏の都市と住まいのあり方について、二人の研究者に話を聞いた。一人は成長管理型都市計画を研究しているM氏。もう一人は地方都市の都市計画を研究しているA氏。
M氏からは巨大地震の到来などいつ来るかわからない突発性のリスクに対して柔軟でしなやかな防災・減災対策を進めるとともに、人口減少・高齢者激増・財政難・環境問題などの進行性のリスクに対して、現在の拡大・拡散した都市構造から、災害危険度の低い場所に歩いて暮らせる自立的な地域をつくる集約連携型都市構造への転換を進めるべきだと話された。
そのためには、都市内にじわじわと増加しつつある空地をうまくマネジメントし、地区の生活の質や価値の向上につなげていくことが必要だと指摘する。人口流出が続くデトロイトの土地利用計画では、緑地と住宅地が混在する「緑の住宅街区群」や生産緑地が集積する「革新生産街区群」など、緑地の配置を伴う低密度化街区群が提示されていることを紹介された。
具体的には、街区内で自由に土地交換ができるような所有と利用の分離やころがし型再開発などの手法を提案された。生産緑地の創出により得た収益で土地集約等を進める生産緑地創出型土地区画整理事業など、収益性を確保しつつ空地を活用した土地利用転換をする仕組みはできないものだろうか。
A氏からは地方都市の縮退がどう始まっているか、DID地区の増減の状況に関する調査結果を示された。それによるとDID地区の増加は拡散的にバラバラと増えるのに対して、縮小はまとまった地区がバサッと減る傾向がある。郊外住宅地などで家族の成長により若年世代が独立し、一斉に人口が減少してDID地区の要件を満たさなくなるケースがみられるようだ。
全国的に空地・空家対策が進められているが、適正管理が主で、空家撤去後の空地利用について施策を持っている自治体はほとんどない。いかに地方都市を縮小していくか。リバース・スプロールに対する計画論がないのが現実だ。農村・中山間集落における方策として、「里山資本主義」を参考に、新エネルギー自給を組み入れたエコ・ビレッジや地産地消を核とした域内循環型小経済圏の創出などを提案された。
両氏とも、人口減少に伴う住居地の縮減に対して、いかに戦略的に対応していくかを課題として提示され、そのためのヒントを提案された。
私からは都市縮減やリバース・スプロールに対して住宅施策としてできることは何だろうかと問題提起をさせてもらった。リバース・スプロールが街区単位で発生するとすれば、その対応は住民主体にならざるを得ない。とすれば、まずは住民に対して、まちの縮退が新たな価値を創造する住宅地のビジョンを提示する必要がある。地区の状況に応じ、そうしたビジョンは複数あるだろう。住民に共感と主体的なまちづくりを喚起する、住宅・住宅地の多様な縮退ビジョン=マルチ・スタンダードを提示することが必要だという結論に至った。
一方で、適切なリバース・スプロール対策が講じられなかった場合、住宅地はどうなってしまうのか。人口減が続くと、水道などのインフラが維持できなくなる。それでも移転しない人には水道を止めるのかといった過激な意見に対して、商店や医療機関などが撤退すれば人は自然と移転していくという意見があった。なるほど。水道も電気もない自然な暮らしというまちの縮退ビジョンもあり得る。明るいイメージでリバース・スプロールに対応すれば、現実はそれほど悲惨なものではないのかもしれない。