超高層住宅の維持管理と大規模改修

 名古屋圏で90年代初期に建設された超高層マンションが数棟ある。そのうちの一つで排水管の大規模修繕が実施されたということで、理事長さんに話を聞く機会があった。RC造地上30階建157戸のマンションは敷地内に地下4階建の駐車場が別棟で建設されており、住棟内には玄関ホールの他、共用施設としてコミュニティルームや会議室、ゲストルーム等がある。また、建設当初はアスレティックルームだった部屋は改装され、パノラマルームとして豊かな展望が現前に広がる。

 10年ほど前に排水管の漏水が確認され、改修について検討してきたが、超高層住宅の改修工事は全国的にも事例が少なく、また配管ライニング工法も検討したが、接続部の工事が困難ということで、最終的には大阪の超高層マンションに続いて全国で2番目となる排水管更新工事を実施することになった。工事は設計段階から建設業者が協力して工事を進めるECI工法で実施され、設計にほぼ1年間、臨時総会等を経て、約10か月の期間をかけて工事が実施された。
 超高層なので、竪管を一気に工事することはできず、4階ごとに分割して工事を進めたが、上階の居住者がうっかり排水をしてしまうことも多く、また工事中の数日間は排水制限や停電もあり、非協力的な住民もいて、その調整や対応に相当苦労したようだ。また工事費は長期修繕積立金を充てたが、将来的なことも勘案すると、現状から2.5倍程にも値上げすることが必要ということで、その同意を得ることにも苦労をしたそうだ。
 せっかくの機会なので、このマンションにおける管理組合の運営状況等についても聞かせてもらった。157戸のうち、当初から入居を続けている世帯は約4割。賃貸化率は23%で空き家は現状ないとのこと。また管理費の滞納もないということだった。それでも入居から30年以上を経過し、入居者の高齢化は否めない。80歳以上の世帯と子育て世帯は管理組合の役員を免除しているが、それ以外の所有者で役員を辞退する場合は月2500円を徴収しているとのこと。また、マンションで一つの町内会となっているが、こちらの役員はまた別途選出しているということだった。ちなみにペット飼育は禁止で、ペットを飼いたいから退去したという方も3戸ほどいたそうだ。

 今年度になって「マンション管理計画認定制度」が創設されたが、意外に認定取得に前向きな意見が多いとのこと。ただ、積立金の基準がけっこう厳しいと言っていた。ちなみに、駐車場使用料からその1/2を長期修繕積立金に充当するとともに、駐車場の一部は管理組合所有とし、管理費に充当しているとのことだった。
 住宅の管理は今後も住み続ける限り続いていく。今回の工事を実施するにあたり、当初建設時の施工業者にも声をかけたが、完全に後ろ向きだったそうだ。また、ディベロッパーに至っては、地元の管理業者を紹介しただけで、引き渡し後のフォローは一切なかったそうで、意外に感じた。現在、首都圏を中心に多くの超高層マンションが建設されている状況を鑑みると、建設段階から大規模改修工事が容易に実施できるような設計にしておくとともに、引き渡し後も販売業者や建設業者が何らかの責任を取るような法整備が必要ではないだろうか。

 今回見学したマンションでは、理事長など役員の努力と入居者の意識の高さにより、配管更新工事を無事成功させたが、パノラマルームから見える他の超高層マンションを指差しながら「同時期に建設された他の超高層マンションは大丈夫なのかな」とポツリとつぶやいた。今後、これらの超高層マンションが地域社会にとって負の遺産とならないよう、さらなる施策や規制が必要になってくるのだろうと感じた。