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日本の都市から学ぶこと

 著者のバリー・シェルトンはオーストラリア在住の都市計画家である。日本人の妻を持ち、長崎(と東京?)と名古屋で生活をした経験を持って、日本の都市の構造を読み解く。
 最終の第7章に、

●大半のサインを読むことなく都市を歩き回ったのだが、建物の基本パターンや構造、建物と街路、他の建物、活動との関係を「見る」方が、容易であった。私の頭は、細部の複雑さや量の多さから解放され、蓄積された都市デザインの知識を頼りに、日本人が当然のものと見なし、調査したり、質問したり、説明したりする必要をほとんど感じない光景全体を形態学的に捉えようとしたのである。(P154)

という記述があるが、まさにそうした捉われない目で日本の都市を見たときに、見えてきたものは、西洋文化に捉われた都市理論ではなく、日本独自の文化と伝統が反映した都市の姿であった。
 同じ第7章に、ミルトンキーンズと名古屋の都市構造を比較する記述があるが、計画された都市であるミルトンキーンズが今や批判され、一方で名古屋は見向きもされずに日々の生活が営まれている。その比較も面白い。
 その前の第6章では、名古屋市御器所地区を読み解いていく。グローバル道路に囲まれた街区の中に、グローカルな街路があり、さらにローカルな街路があって、その間に不規則な内部街路がある。これを槙文彦の「都市の奥」に重ねるのだが、こうした都市構造の読み取りを私はこれまで経験したことも聞いたこともなかった。そしてそれを(ミルトンキーンズと比較し、より高く)評価するのである。
 この第6章と第7章は、2012年に改訂された第2版で書き加えられた部分だが、第5章までも非常に興味深い視点で日本の都市が語られている。
 いくつかキーワードがある。「面と線」、「パッチワーク」、「形式よりも内容」、「周縁であるが中心」、「公と私」、「都市と田園」など。中でも都市構造を読み解く際に重要な視点が「歩道のない街路」だ。西洋では街路は歩道から先に舗装されたが、日本では逆であった。日本では、街路に付属する歩道は実は街路の一部ではなく、別の論理で細街路とネットワークしている。そして、街路に面する建物とは構造的に離れて設置されるアーケードやコロネードはまさに日本の都市の特徴を表している(この点に気付く視点がまさに筆者ならではの感覚だ)。
 日本の都市は、建物や街路、細街路、アーケードなどの諸要素間に相互の関係がなく、重層的に存在している。本書の面白いところは、この要因を漢字・かな混じりの文字や仏教と神教が混交する宗教的な状況などに結び付けて、日本の文化由来のものとしているところだ。
 日本の建築や庭園がかつて西洋の建築や造園に大きく影響を及ぼし、注目された。同じことが「都市」についても起きるのではないかと、第5章の終わりに記述されているのだが、本当だろうか。多分に買い被り過ぎな気がするが、日本の都市が筆者が指摘するように、日本の文化や国民意識に根ざして形作られてきたとするならば、都市計画のあり方も西欧から移入ではなく、日本独自のものを考えていく必要がある。先に読んだ「白熱談義 これからの日本に都市計画は必要ですか」でも同じ問題意識があったと思うが、外国人の目で見るとき、日本の都市計画のあり方もまた違う評価になるのかもしれない。バリー・シェルトンは日本の都市計画制度をどう見ているのだろうか。

日本の都市から学ぶこと: 西洋から見た日本の都市デザイン

日本の都市から学ぶこと: 西洋から見た日本の都市デザイン

●土地の断片化と不連続性は日本文化の遺産の一部であり、第二の自然なのである。/更に、この種の断片化された農地上で、多くの都市が発展し、それが続いている。従って、都市化が起こったのもこうした田園のパッチワーク上である。・・・日本の居住・耕作可能な土地の30%が、大部分、広大で無定形の都市-田園のごちゃまぜなのである。(P33)
●西洋人は、その建築や都市を通して、気候、景観、最終的には時間をも力づくの征服という行為で克服してきたし、さらに改修と改良を通じてその支配を維持しようと努力してきた。他方、日本人は、その建築を通して、土地に軽く触れ、その要素を受け入れ、時間に屈するという3点で協働してきた。力は服従に存するのである。(P106)
●「物の見方」の最も根本的な違いは、日本のものは面を、西洋のものは線を基礎としていることであり、ここから他の違い、即ち日本的システムにおける部分の相対的な自立性とフレキシビリティが出てくる傾向にある。・・・日本的見方の強み(と弱み)は、つながりを作るのであれば、連続的なつながりではなく、むしろ散在していて一軒共通点のないように見える点同士のつながりを作るということにある。それは、本書で出てきた用語を使うならば、一種の「パッチワーク」的思考である。(P109)
●都市デザイン・アプローチを導いてきた基礎的な価値や態度は、意識的であろうがなかろうが以下のものを好んできたように思われる・/・線状で連続的な構成よりも「面的」な構成/・統合よりも「断片」/・静的で不変よりも「変容」と「変態」/・部分の相互依存よりも「自立」/・全体よりも「ディテールや部分への関心」/・固定的で有限よりも「フレキシブルで無限」/・調停と統合よりも「異質な部分の重合/併置と共存」(P117)