復興<災害>

 塩崎賢明氏は阪神・淡路大震災の直後から、住宅や暮らしの復興を一貫して主張されており、東日本大震災後も同様の姿勢から多くの著書を著すとともに、兵庫県震災復興研究センターや阪神・淡路まちづくり支援機構の代表を務められるなど、復興支援に先頭に立って尽力されている。今改めて、「復興災害」に焦点を当てて、国や地方自治体の施策に異議を唱え、警鐘を鳴らされた。
 まず第1部で明らかにするのは、阪神・淡路大震災から20年経った現在の復興の状況と施策の検証である。復興事業費が「創造的復興」というスローガンの下、被災者に直接関わりのない「開発的復興」に多く投じられた。復興公営住宅での孤独死の多発など、復興過程で多くの問題も発生した。中でも筆者が大きく取り上げるのが、借上げ公営住宅からの退去と新長田駅南地区再開発の問題だ。特に再開発による生活被害はまさに復興災害と言える。
 第2部では、東日本大震災を検証する。ここで議論の対象となるのは、東日本大震災復興の枠組みだ。中でも復興構想会議の基本方針から一貫して、被災地の復興だけでなく、これを機に日本全体へ復興予算を回そうという思惑が透けて見えることに違和感と異議を申し立てている。
 そして第3部「阪神・淡路、東北から“次”への備え」で、今後の災害に向けて備えておくべきことを提言するのだが、まずは東日本大震災の住宅復興は混線型住宅復興だと批判する。阪神・淡路大震災の単線型に比べれば多様なメニューは用意されたが、それが生活軽視、自治体の弱体化、政策形成システムの欠如により混線し、被災者に届かず、真の被災者支援、生活復興に結びついていない。そうした姿勢が如実に現れているのが、災害対策基本法の改正であり、大規模災害復興法や国土強靭化基本法の制定だ。制定自体は評価するが、復旧・復興の目標がハード整備にすり替わっている。
 最後に、次なる震災復興への備えとして、「混線から複線へ」が提示される。今改めて復興とは何かを問う必要がある。「次」はもうすぐそこに来ている。今一度、復興自体が被災者の第二の災害にならないよう熟慮する必要がある。先日マスメディアで繰り広げられた東日本大震災4周年の特集ではそうした視点があまりに少なったと感じる。

被災者が日々の暮らしに不安を抱いていた震災直後に、市長が復興の「希望の星だ」とぶち上げた神戸空港は、多くの市民の反対を押し切って建設したものの、結局は「赤字の星」となって、いまや市のお荷物と化している。・・・結局、復興には多く見ても約11兆円しか投じなかったのに、16兆3000億円を復興に使ったかのように装い、多くの資金がインフラ整備やハコモノ事業に投じられ、生活再建が後回しにされ、その結果、さまざまな「復興災害」をもたらしたのであった。(P8)
●20年の契約は絶対ではなく、更新・延長することができるから、行政と所有者の間でそれができれば、入居者が退去する必要はない。最近になって、部分的に継続居住を認めるようになったのは、契約を延長できることの証左である。もちろん所有者が返還を求める場合は、継続は困難になるが、今回の場合、むしろ延長を望む所有者の声もあるにもかかわらず、行政は全てについて退去を求めてきたのである。(P35)
●地元業者は地区から転出するかビルに入るかの選択肢しかなく、地域が神戸市の西の副都心に生まれ変わって発展するという市の言葉を信じて、借金しながらビルに入っていったのである。/しかし、この再開発事業は都市計画を少しでも知るものから見れば、あきらかに過大な計画であった。・・・再開発ビルに入るにあたっての巨額な借金や、ビルの不動産価値の崩壊、でたらめな管理費の徴収などは、再開発事業によってもたらされた以外の何物でもない。/まちの特性(ポテンシャル)に見合わない、巨大なハコモノ事業に商業者を巻き込んで、この結果をまねいたのは、まさに再開発事業のもたらした復興災害というべきであろう。(P49)
●驚くのは、この復興計画の中身がほぼハード事業で占められているという点である。・・・結局、この復興法は・・・内容的には災害復興の全体をカバーしているわけではなく、「大規模災害復興市街地整備法」といった名称のほうがふさわしいだろう。/災害復興で絶対に欠かせない事項は被災者の生活再建である。それなしに市街地整備をどれだけ進めても復興にならない。被災者にとっての復興は、被災後も健康を維持し、収入を確保し、人間らしい暮らしを続けながら、避難・仮住まい・終の棲家の確保といった住宅復興を成し遂げることである。(P174)
●国土強靭化をなぜ進めるのかについては、国民の生命、身体及び財産の保護、防災・減災、復旧復興が上げられるのは当然であるとして、並列して「国際競争力の向上に資する」という文言が付け加えられている点は、注意を要する。これを拡大解釈すれば、防災・減災だけでなく、国際競争力向上に役立つものであれば、もろもろの公共事業が国土強靭化計画の一環として実施されうる。まさに、東日本大震災復興基本法の目的に、被災地の復興だけでなく、「日本再生」を加えたのと同様である。(P177)