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あいちトリエンナーレ2013 オープンアーキテクチャー「愛知産業大学言語・情報共育センター」

建築アルバム

 あいちトリエンナーレ2013が8月10日から始まった。2回目となる今回は芸術監督に建築批評家の五十嵐太郎氏を迎え、アート作品としての建築物への注目度が高い。そんな意向を受けたイベントの一つとして、オープンアーキテクチャーが開催されている。先日、オープンアーキテクチャー・スペシャル企画として、「愛知産業大学言語・情報共育センター」の見学と設計者のstudio velocityや五十嵐氏らによる語る会などが開催されたので参加した。

Dsc03106 名鉄本線藤川駅からスクールバスで5分。バスは見学施設である「愛知産業大学言語・情報共育センター」の前に到着する。施設の一画はバス待合所になっている。東側に食堂等のあるコミュニティセンター、体育施設等から成る恒誠館が並び、西側には1号館から4号館までの校舎が囲む中央広場部分に「言語・情報共育センター」は立地している。

 元々、中央広場だった位置に、バス降車場と各校舎を結ぶように通路が設けられ、その間に、ITセンター、プレゼンテーションルーム、言語ラボなどが並ぶ。とは言っても部屋名は便宜的なもので、各スペースは開け放し可能な大型サッシュが嵌められ、開放すれば屋内外はまったく同一平面でつながれてしまう。屋根のある部分は床があるもののその他は芝生。 Dsc03057 最初にプレゼンテーションルームで名古屋音楽大学吹奏楽部のサクソフォン・アンサンブルがお出迎え。葉加瀬太郎の情熱大陸とエトピリカでいい気持ちにした後、おもむろにstudio velocityの二人、栗原健太郎氏と岩月美穂氏から作品の説明を受ける。

 岩月氏から「私たちは植物が生長するように建築することを心がけています」という設計方針が語られた後は、栗原氏から専ら構造の話。柱を直径60mmの中空でない鉄棒とし、梁は高さ125mmのH型鋼。そこにデッキプレートを置き、設備配線用の空間を取った上に断熱・防水を行っている。バス降車場から校舎棟まで東西に通路が走り、それに交差する形で4つの細長いスペースが突き刺さる。そして全体を開放的な渡り廊下が取り囲む。大きな四角形の大屋根の数ヶ所に穴が開いていると言った方がいいかもしれない。

Dsc03094 屋根は高低差4mの敷地に斜めに架かり、地面は微妙なアンジュレーションをつけて校舎棟に向けて上っていく。東西方向のサッシュは平行四辺形の特殊な形状をしている。地面と屋根をつなぐ柱は場所によって長さが違う。元々は高さ4mの擁壁で上下に分けられた敷地なので、微妙な起伏は彼らが作り出したもの。基礎もその起伏に沿ってうねうねと配置された。構造設計は藤尾篤。栗原氏からは、繊細さを表現するための構造計画の困難さを強調していたが、たかが鉄骨造平屋建てでどれだけ大変だったのかよくわからない。デッキプレートによる床剛性の確保について構造上の課題があったのかもしれない。 Dsc03087

 その後、栗原氏、岩月氏に率いられ、施設を見学。「言語・情報共育センター」自体はそんなに大きな施設ではないが、校舎棟に移って4階、屋上階(7階相当)と西側の2階デッキから施設全体を俯瞰する。「緑芝に浮かぶ白い屋根 公園のような中庭回廊の建築」と見学用リーフレットに書かれていたとおり、芝生の上に白いスチレンボードで作った模型をそのまま置いたような建築物だ。造形的にはもう少し高さ方向のバリエーションがあった方が自然との一体感が生まれるのではないだろうか。半田市新美南吉記念館やモリコロパーク地球市民交流センターなど愛知県内でも地形と一体となった施設が増えてきたが、それらと比べると地形を受け止めつつ、あくまで施設自体は人工的なフラットさを保っている点が特徴的だ。

 道中で都市計画が専門の小川学長(愛知産業大学)に質問。「開学20周年記念事業の一つとして施設を建設することになった。設計事務所の決定は学長が理事長に進言して決定。当初、中央広場には図書館等の中高層棟を建設する構想もあったが、今後の施設拡幅予定もないことから、有機的なスペースとして本施設を構想した」などの話をしていただいた。

Dsc03103 小1時間見学した後、再び名古屋音楽大学サクソフォン・アンサンブルの演奏を楽しむ。今度は5曲ほど。自己紹介・楽器紹介も交え、楽しくリラックスした時間を過ごす。言語ラボの中で、英語書籍が並べられたブックラックを背に演奏。僕らは屋根の下、芝生の上、思い思いの場所に緑陰を見つけて演奏を楽しんだ。

 その後、小川学長も参加して「語らう時間」という名のパネルディスカッション。五十嵐先生が「通常の4面だけでなく、上から見たファサードも楽しい」と言われた。まさに「模型の視点」。岩月氏から「私たちはとにかく模型をたくさん作って考えます」という言葉があり、小川学長からは「設計段階で模型を展示して学生らから意見を集めた」という話があった。また、小川学長から「まだこの建築は未完成だと思っています」と発言。「人・組織・社会、多くの壁に遮られている日々の生活の中で、この施設はすべての壁を取り払い、自由な利用を促している。空間がどう使われるかを求めている。施設名の「共育」にはそんな意図もこめている。10月の学園祭が楽しみだ。」 なるほど、ディスカッションを聞いている我々の間をさわやかな風が吹きすぎていった。風、日差し、匂い、暑さ・寒さ。すべてが開いてつながっている。

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 次第に話はあいちトリエンナーレの話題に。五十嵐先生から「建築家のアート作品が既にまちに存在することに気付いてほしい。そんな思いで建築系の作品を多く紹介している」。その後は岡崎市内のショッピングセンター「シビコ」で展示されているstudio velocityの作品の話で盛り上がった。トリエンナーレ期間中に一度は見に行こうかな。

 こうして快い雰囲気の中で全プログラムが終わった。「愛知産業大学言語・情報共育センター」は確かにアートとして取り上げるにふさわしい作品だ。風も光も人も時間も、すべてがこの施設の中を通り過ぎていく。それがこの建物にどんな変化を及ぼすのか。可能性を秘めた施設でもある。

●フォトアルバム 「愛知産業大学」