日本人と不動産

 不動産の所有・利用等に関する経済や規制、歴史などを総括的に説明する入門書。「なぜ土地に執着するのか」という副題や、各章のタイトル「日本の街は、なぜ汚いのか」「土地所有のルーツを探る」は、誇大広告気味。だが、入門書としては非常に丁寧でわかりやすい。それだけでなく、例えば律令体制から説き起こす歴史は、通常の歴史書では語られない事柄まで「土地」という視点で描かれており、勉強になる部分も少なくない。

 「第3章『不動産格差』-持ち家政策の功罪-」では、持ち家と借家の損得計算を行っているが、結論は「持ち家がインフレに強い」ものの、物価や不動産価格、金利、賃料や税制等に影響され、条件によって大きく変動するとしており、当たり前だがわかりやすい。

 第4章の最後で「日本人と不動産」の将来について4点課題を挙げている。一つは住宅政策における住宅困窮化対策とストック重視、二つ目に都市のコンパクト化、3つ目が農地政策の抜本的転換、最後に市民ベースの街づくり。唐突で本書だけでは十分説明できていないが、いずれも不動産との関係できちんと議論すべき事項である。

●「農地改革」は形式的には土地の売買でしたが、土地の買収価格が低く設定された上、地主への支払いは30年にわたる長期分割払いでした。戦後の激烈なインフレーションもあり、結果的に土地はタダ同然で買い上げられ、革命的な「土地の配り直し」が行われたのです。(P135)
●「どこででもものがつくれ、どこででもものが売れるような時代」において、高度な情報通信技術に支えられた経営や金融・財務の機能がもたらす付加価値は大きくなっています。/このような機能には集積がプラスに作用する「ネットワーク外部性」が強く働くので、政治、経済、金融、行政と様々な中枢機能の集積する東京に立地するオフィスの生産性は、ますます高まり、高額の賃料が維持されています。(P197)