津波災害

 今回の津波災害が発生する直前の昨年12月に発行されている。その時に読んでおけば、今回の津波に対しても正しい理解をもって臨めただろうと思う。筆者の河田惠昭氏は、阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター長を務め、防災と危機管理、そして海岸・水環境に関する土木施設等の専門家である。

 あとがきに、本書では「津波災害に関する自然科学、社会科学、実践科学の研究成果をバランスよく」伝えることをめざした旨、書かれている。そのとおり、津波とはどういうものか、発生のメカニズムから始まって、どういう被害があるのか、またあったのか、予測はどこまでできているのか、どういう対策が必要なのか、課題は何かなど、津波災害に関するあらゆることがわかりやすく書かれている。

 今回の津波の動画や被害の状況を見ると、そこに書いてあることが一つひとつ具体的に理解できる。津波のメカニズムについて、高波、高潮と並べて津波が図で表現されており、わかりやすい。これらはまったく異なる自然現象であり、海水の動き方もまったく異なることがわかる。

 対策についても、ハード防災だけに頼るのは非現実的で不可能であり、的確な情報提供や避難訓練などのソフトな防災活動が重要なことが何度も繰り返されている。石油コンビナート対策や養殖いかだへの対応、防災教育、語り継ぎなど、その視野は広く、提言は広範囲に及ぶ。

 今回の災害が本書が広く人々に読まれる前だったことは本当に不幸であった。だが、実際に津波災害の怖さと実態を知った今だからこそ心に響く提言も多い。もちろんすぐにはできないことも多いが、真摯に受け止め、少しでも対策の具体化に努めることができればと思う。

●沿岸の浅い海域に近付いて高さが3から4メートルに高くなっても、見渡す限りの海面がスーッと上がるのである。このように、わが国にやってくる津波の大半は、海岸にやってくるまでその存在を目で確かめることは不可能であると言っても過言ではない。(P15)
●「高い波」という表現より、「速い流れ」と考えた方が正しい。沖から津波がやってくるということは、「見渡す限りの海面が盛り上がり、速い流れで岸に向かってくる」という表現の方が妥当である。(P16)
●第何波の津波が大きくなるかは、いろいろな要素に左右されるので、一般的なことは言えないのである。前述した和歌山県・田辺市では、コンピュータシミュレーションの結果から、第11波が最大の高さとなることがわかっている。(P25)
●津浪による浸水深が2メートルを超えるような場合、仮に2階に避難しても木造住宅では家ごと流される危険がある・・・。もし、2メートル以上の浸水深が予想される地域に木造住宅が立地している場合には、2階に避難することは危険である。(P56)
●南海地震が発生すると地盤沈下するヒンジラインが高知市を東西に走っており、M8クラスの地震が起こると瞬間的に約2メートル地盤沈下すると予想されている。・・・うら戸湾に進入する津波高さは約4メートルと想定されている。しかし、海岸護岸も2メートル近く沈下しているから、6メートルの津波が高知市に来襲したのとほぼ同じことになってしまう。(P89)
●防災施設によるハード防災は限界があることが、案外知られていない。たとえば、高知県須崎湾の湾口防波堤は、1946年の昭和南海地震(M8.0)を想定したものであって、次にやってくると想定されているM8.4の南海地震津波を対象としたものではない。・・・もし、被害の一部発生を容認する「減災」の代わりに、被害をシャットアウトする「防災」を実現しようとすれば、津浪防波堤は大規模になり、当然、予定工事費も工期もさらに増大し、結果的に実現不可能になったと考えられる。(P112)
●東京湾臨海コンビナートには、貯蔵量が500キロリットル以上で、耐震診断を未受診、あるいは耐震補強未施工のタンクが約1800基ある。石油タンクの耐震化が遅々として進んでいないのが現状である。したがって、このタンク群から発火して市街地延焼火災につながる危険性が大きいことを指摘しておきたい。(P148)