人口減少期は持ち家の時代?

 先日テレビを見ていたら、芸人の「小島よしお」が幼稚園児などに大人気で子供向けのイベントで引っ張りだこだと紹介していた。主な営業先の一覧が提示され、その中に名古屋近郊の住宅展示場があってびっくりした。最近、ハウスメーカーの方と話す機会があり、近頃の持ち家を取得・建設する人の年齢層が20代から30代前半とかなり若くなっていると聞いた。国の金融政策によりフラット35などの住宅金利は相変わらず低く、省エネ住宅ポイント制度も始まった。昨年4月の消費税増税前の駆け込み需要の反動で、昨年度は住宅着工戸数がほぼ1年を通して前年度を下回ったが、ようやく戻りつつあるようだ。
 一方で、一般市民レベルの景況感はなかなか元に戻らず、そうした状況もあってか、あるディベロッパーの方からは消費税の住宅取得に対する軽減税率の適用を強く訴える声も聞かれた。そしてこう言われた。「住まいは生活の基盤。若いうちからの持ち家取得を勧めることが、暮らしの安定と安心につながる」と。
 高度経済成長期から一貫して進められてきた政府による持ち家施策に対しては、研究者等からは批判する意見が強いが、それは持ち家取得に至らない所得水準の低い世帯に対する支援策が乏しいことが問題だった。一方で国民全体の持ち家率はここ数十年、約60%のまま横ばい傾向にある。「Garbage NEWS.com:世代別の持ち家と借家の割合をグラフ化してみる(2015年)(最新)」では、年代別の持ち家率の推移が提示し、いくつかの視点から考察をしている。
 世帯主の高齢化によって全体の持ち家率は横ばいだが、年齢が低くなるほど持ち家率が低下しているというのが全体的な状況だ。しかし同時に、昨今20代・30代の単身世帯が増加しており、持ち家率の減少は単身世帯の増加によるものだという説を紹介したり、25歳未満では上昇の動きすらあるという状況を示し、若年層の持ち家率の減少にブレーキがかかったのではないかという期待も示している。これを都道府県別に分析するとどうだろう。名古屋近辺のハウスメーカー担当者の感触は当たっているのか、それともそれほど簡単なものではないだろうか。
 このサイトの中でも若干触れられているが、相続による若年世帯の持ち家率の上昇というのは、たぶん50代以上では多少あるのかもしれないが、若年世帯ではそれほど大きいとは考えられない。しかし、これから全国的には人口・世帯が減少していくことを考えると、空き家問題も含めて住宅を誰が所有するのかというのは日本の住宅市場に大きな影響を与える可能性がある。
 理想的に考えられるのは、50代以上の世帯が2住宅を所有し、そのうちの1住宅を賃貸で活用するという構図だ。一方、家賃収入を期待しないのであれば、中古住宅の売却や除却後の土地の売却が増加していくことになる。若年世帯は高齢世帯に比べ絶対的に少ない状況にあるから、今後は住宅・土地価格の下落、そして若年世帯の持ち家率の上昇という方向も想定される。もちろん地域的な偏りは大きく、首都圏でこうした状況になるのはまだだいぶ先のことかもしれないが、名古屋圏などでは少しずつそうした傾向が現われ始めているのではないか。それがハウスメーカー氏の感想につながっている可能性がある。
 極論を言えば、日本の世帯数が現在の6割になれば、持ち家率は100%になってもおかしくない。これまでは人口・世帯数が上昇してきたので、まずは借家、しばらくして資金を蓄えてから持ち家というパターンが一般的だったが、これからは相当に異なる住宅事情が生まれると思われる。首都圏集中という人口移動パターンも変化し、昨今は地方定住の機運が高まりつつある。人口・世帯動向が大きく変化する中、住宅を取り巻く社会的構造も大きく変化する時期に来ている。