空き家問題

 平成25年度に実施された住宅・土地統計調査の速報値が公表され、新聞等で空き家の増加がセンセーショナルに報じられたことで、空き家問題がホットな政策課題となりつつある。実際は新聞等で報じるほど、都市部や郊外地で空き家が発生しているわけではなく、じわりと増え始めたという状況だと思うが、これから人口・世帯が減少していくにつれて急速に空き家・空き地が増加していくことは確かだ。
 本書では空き家増加の実態の紹介に始まり、ついで、空き家がもたらす社会問題について記述する。随分前から私も「そのうちに1世帯が4ヶ所以上で土地や家を抱えてしまう時代がやってくる」と周りに吹聴していたが、まさにそういう状況が現実になりつつある。4ケ所以上とは夫婦それぞれの両親から受け継いだ不動産という意味だ。
 相続時にはババ抜きのように不動産を押し付けあう時代がやってくる。当然、不動産価値は大きく下落するが、その際にもっとも大きな問題となるのが税金問題ではないかという筆者の指摘はまさに正しい。現実にそういう状況が多くの世帯で見られるようになってきた。空き家問題は防災や治安、景観だけの問題ではなく、まさに社会問題である。
 しかも最近の建設費の高騰の中で都心の不動産マーケットが大きく歪み、不協和音が鳴り始めた。筆者は不動産のコモディティ化が進み始めたというのだが、結局それはコモディティ化した不動産からどんどんと空き家となっていくということだ。そして東京オリンピックが終わり、団塊の世代の介護需要が増加する時期になると、大きく不動産マーケットが変容していくと筆者は予想する。
 第4章は「空き家問題解決への処方箋」である。とは言っても、現在進められている空き家条例による解体撤去や空き家バンク等の活用促進だけではまったく解決にはほど遠いという。新しい不動産価値の創出という観点からいくつかの具体的な方策を提案する。一つは市街地再開発手法を活用した高齢者施設建設。また、近隣住民の活用を想定したシェアハウスへの転用。医療機関による在宅看護に向けた地域単位での空き家の連携と活用。さらにお隣さん同士の合体による減築・撤去。それらはいずれも具体的で面白い。
 第5章では「日本の骨組みを変える」と題して、自治体の統廃合や道州制、都市計画の抜本的な見直しなどが提案されているが、いずれも一朝一夕にできる話ではない。
 本書を読むまで私は、空き家対策は、空き家バンク等の活用促進はほとんど意味がない、老朽化住宅の撤去が中心になるのかなと考えていた。しかし本書で提案しているのは、空き家・空き地に新しい価値を創造して活用を促していく方策である。例えば、老朽家屋を撤去してもそのままでは雑草が生い茂るなど新たな問題が発生するだけだが、地域に開放された菜園や広場として管理されれば、新たな価値が生まれる。空き家も住宅として再利用するのでは、世帯が減少する時代では別の住宅が空き家になるだけだが、別の用途にコンバージョンして利用すれば新たな価値を付け加えることになる。こうした価値創造型の空き家対策を地域で進めることができないか。今後、検討していきたい。

空き家問題 (祥伝社新書)

空き家問題 (祥伝社新書)

●税金が取られるということは、その賦課対象がそれだけ価値があると言い換えることもできます。・・・その理屈があったからこそ・・・人々は役所から要求された税金を払うことに同意してきました。・・・仮に所有している不動産が活用のしようもない「売れない」「貸せない」不動産であったなら、・・・その資産を所有することに対して、人々は喜んで税金を払ったりするでしょうか。/私は今後、日本の問題として空き家問題が大きくクローズアップされてくるのが、この税金の問題であろうと思っています。(P85)
●そこで私たちは、2階を7部屋くらいに分けて、その部屋を15~20名ほどの人でシェアしていただく「大人の趣味のためのシェアハウス」を提案することにしました。・・・こうした空き家を近隣住民のためのコミュニティ施設として再生させ、地域の中での中核施設にしていくことは今後の安全や防災としての拠点とあいまって非常に価値の高い活用法になるのではないかと思っています。(P176)
●空き家を医療施設や自治体などで一括して借り受けて、一体的に運用するものです。・・・空き家内に症状に応じた医療設備を配置し、通信施設で結び、家族や看護師さんに見守られながら看護を受ける。こんな体制づくりに空き家が活用できるのです。(P187)
●お隣さん同士で一緒になるのです。3軒の家を1軒にしてしまい、2軒は解体してしまう。・・・仲のよかったお隣さん同士であれば気心も知れ、いざとなった時にはお互い支えあうことができます。・・・こうした世帯の合体に対してこそ、解体費、改装費の補助や固定資産税等の減税を行ってもよいのではないでしょうか。(P188)
●これからの地方は高齢者がいなくなるのを逆手にとって、新たに首都圏などで溢れた高齢者を招き入れるのがもっとも手っ取り早い人口回復策なのです。・・・高齢者用施設が健全に運営できれば雇用が生まれます。雇用があれば若い人たちも地元に戻ってくれる可能性が高まります。理想を言えばキリがありませんが、まずは「ひと」を増やす、そこに仕事が生まれる、この好循環をとにかく早く実現していくことです。(P226)