空き家対策の決め手は壊すことという真っ当な意見

 先月末、都市住宅学会中部支部の空き家セミナーを聴講した。講師は(株)住宅相談センターの吉田貴彦氏。大学で法学部を卒業後、不動産会社、ハウスメーカーを経て、2004年に独立。当初はホーム・インスペクションが中心だったようだが、最近は国交省の「地域の空き家・空き地の利活用等に関するモデル事業」で採択を受けるなど、空き家活用などの問題について相談を受けることが多い。日常的には、ホーム・インスペクションや空き家活用に関するコンサルタント業務、そして自治体や業界などからの講師・相談員などをされているとのことだが、実際のところ、会社としてどういう業務で収入を得ているのか。興味があったが、質問することは憚られた。
 日頃の空き家相談などから見えてくる空き家問題について具体的な事例を交えて話をされた。レジュメに沿って紹介すると、まず「1.空き家の何が問題なのか?」という設問に対して、放置空き家における放火等の問題に加え、住宅投資が資産価値として維持されないという国交省のグラフを示し、中古住宅活用の必要性について説明された。次に「2.なぜ空き家が発生するのか」の設問について、平均世帯人員の減少、特に単身高齢者の住まいが空き家予備軍となっている実態を説明する。
 さらに、「3.自分の空き家をどうしようと勝手でしょ!」というタイトルで、空き家放置による様々な責任発生や維持費もバカにならないことを説明した後、しかし「4.空き家の解決が難しい所有者側の理由」として、「所有者が聞く耳を持たない」「相続登記がされていない」「共有者の意見が合わない」などの現状を説明された。「所有者が行為能力を失して成年後見人を選定したとしても、法的に自宅売却は認められない」といった問題もあるとのこと。他にも、既存不適格や違反建築物であったり、残置物の処分など、空き家の利活用を実現するまでには整理すべき課題は非常に多い。
 そのため、「不要な住宅・土地は早めに処分」「住宅の相続について普段から意思統一をしておく」「単身世帯化を防ぐ」など、「5.空き家を作らないためのポイント」を提案。賃貸時や売却時の留意点・ヒントなども説明された。例えば、仏間以外の「部分貸し」、夏だけの「季節貸し」などであれば借家権が発生せずいつでも返還してもらえる。貸主に造作買取請求権を求めない「DIY型賃貸契約」といった方法。相続で取得した空き家を売却した場合の3000万円控除(ただし要件はかなり限定的)など。また、田舎の物件では、売買価格が低すぎて法定の仲介手数料では採算が取れないことから、仲介手数料の自由化なども提案されていた。「リバースモーゲージ」については、前に「リバースモーゲージ型住宅ローン」で報告したとおりだが、子供の反対が多いということだった。
 最後に、今年度、国交省から「地域の空き家・空き地の利活用等に関するモデル事業」で採択を受けた事業についても説明された。外国人に対する賃貸拒否事例が多いという現状の中で、来日する外国人介護技能実習生に対して、生活をサポートするバディさん(仲間・サポーター)を付けることで空き家の活用を促そうというもので、既に空き家や旧旅館を活用した取組が始まっているとのことだった。
 講演後、質疑応答があったが、個人的にはここが最も興味深かった。すなわち、「空き家対策には何が最も有効か」という問いについて、質問者である建築専門家は空き家の活用促進や新築を規制する方策について述べたのだが、新築規制については現実的に困難なこと、利活用にも限度があることから、空き家の解体促進が最も有効であり、必要だという意見を言われた。具体的には、空き家を解体すると税率が6倍となるような税制をやめることに加えて、空き家解体費に対する補助や税制控除等の解体促進の方策が必要だという意見。さらに、現状の空き家施策に対して解決目標がはっきりしていないという指摘もされた。
 これらの意見には私も大賛成だ。空き家が問題なら壊すしかない。空き家特措法で指導・勧告・命令・代執行と行政措置について制度を作ったとしても所詮、一部の空き家しか対象にならない。それよりもまず「利用していない空き家は解体した方が経済的に得」という状況を作ることだ。解体後にまた新築するより利活用した方が有利であれば利活用すればいい。空き地が放置されることも問題かもしれないが、空き家よりはマシ。何より総体的には、今以上に建物が必要になることはないのだから、とにかく壊すべし。こうしたシンプルな方策にストレートに向かえないのはどうしてだろうか。松村先生にも「空き家を活かす」前に「空き家を壊す」ことを真っ先に考えてもらえないものだろうか。