高蔵寺ニュータウンについて(その3)

 「高蔵寺ニュータウンについて(その2)」から続く。
 サンマルシェ内に設置された市民団体拠点施設「東部ほっとステーション」には現在、10団体が登録し活動を行っている。その中の一つ、NPO法人高蔵寺ニュータウン再生市民会議」は、ニュータウンの計画立案にも関わった曽田忠宏氏(元愛知工業大学教授)が中心となって立ち上げた市民団体で、現在も「どんぐりsカフェ」などの学習・交流イベントや「活き活き楽農会」などの生活支援活動を活発に展開している。
 また、押沢台北地区で7年前から開催されている「ブラブラまつり」は、2017年度の「第13回住まいのまちなみコンクール」(一般財団法人住宅生産振興財団主催)国土交通大臣賞を受賞した。年1回、各自宅の庭先などを利用した立ち寄り処をオープンし、住民がブラブラと歩く催しで、2017年10月には約30戸の住宅が店を開いた。こうした活動は押沢台南地区にも広がり、昨年夏から住民が交流する行燈まつりが開かれている。また、今年2月には、押沢台地区向けのまちガイドブック「押しなび」が作成・配布された。
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 2018年に高蔵寺ニュータウンは入居50周年を迎えた。春日井市では市制75周年を記念し、活動支援を行う市民協働事業を募集した。この結果、ニュータウン内では、地区社協が主催する「さくらウォーク」や、住民有志により運動会などを開催する「藤山台50周年事業」などが実施されている。これらの事業に中心的に取り組んでいるのが、60代後半から70代前半の団塊世代だが、定年を迎え無職だが、まだ元気で能力もあるこの世代の今後10年間の活動がニュータウンの活性化にとって大きな意味を持つことになるかもしれない。
 高蔵寺ニュータウンにおける戸建て住宅の空き家率はけっして高くない。また、ニュータウン内外でも、土地区画整理事業による遊休地などで活発に分譲住宅の建設が進められている。確かに高齢化は進み、夫婦片方の死去等により人口も減少している。では、あと20年したらどうなっているだろうか。団塊の世代の多くが亡くなった後、ニュータウンは空き家・空き地ばかりになるのだろうか。
 意外にそうはならないのではないかと思っている。インフラはしっかりと整備され、周辺や地区内に利用可能な土地は残っており、民間賃貸住宅も建設されている。ニュータウン内の誘致・サービスインダストリー用地には、周辺住民との紆余曲折もありながら、現在50社を超える企業が立地をしている。また、ニュータウンの周辺では春日井市により工業団地の造成が行われ、トヨタホームを始めとする企業が進出している。近接する中部大学とも連携し、UR賃貸住宅への学生入居やキャンパスタウン化の取組も行われている。地域で循環居住が成立する環境は整っていると言えるのではないか。
 「高蔵寺ニュータウン草創期の話」で訪問した土肥先生の1997年の講演録「住宅生産振興財団まちなみ大学『ニュータウンのデザイン』」を読むと、「ニュータウン開発がそれだけを考えたのではだめだ、(中略)より広い範囲を含めて、地域のデザインとして展開されなければならないわけです。そうなると、あえてニュータウン・デザインと言わなくても、一般の地域や都市のデザインと殆ど変わらない」と述べている。また、「ニュータウンの社会史」には「ニュータウンは時の経過とともに『オールドタウン』になるのではない。ニュータウンは『タウン』になる。ただそれだけのことだ。そしてそれは、『ニュータウン』というカテゴリーの消失をも意味することになるのである」(P238)という記述もある。まさにそのとおりだと思う。
 春日井市の中でも鳥居松や勝川など、それぞれの地区の歴史とアイデンティティがあるように、ニュータウン地区にも、ニュータウンならではのアイデンティティがある。「グルッポふじとう」の開設にあたり、愛称公募に応募し採用された方が、50年前、両親とともに高蔵寺ニュータウンに入居した住民の一人だった。実家から独立し、今も高蔵寺ニュータウン内に住むその方は、朝日新聞の取材に対して、「この場所が、子どもからお年寄りまでみんなが集まって楽しめる場所になるよう、願いをこめました」と名称への思いを語っている。また最近、ニュータウンに隣接する坂下町で生まれ育ったという都市計画研究者にあった。彼女が小学生の頃に造成工事が始まって、サンマルシェにもよく遊びに行ったと言う。ニュータウン周辺の町で育ってニュータウンに入居している住民も数多くいる。こうして高蔵寺ニュータウンは、入居者だけでなく、周辺住民やかつての居住者からも強い関心と愛着を得ている。このことはニュータウンの将来にとっても大きな力になると思う。
 先日、パルテノン多摩を訪ねた際に、エレベーター内に映画「人生フルーツ」の上映会の案内が貼り出されていた。高蔵寺ニュータウンの計画策定をリードした津端修一氏と妻の英子さんの暮らしを追ったドキュメンタリーだ。もとは地元の東海TVが放送したものだが、その後、映画となり、全国規模で上映が続けられている。この映画を観て、改めて高蔵寺ニュータウンの良さを感じたというニュータウン住民の声も聞く。残念ながら、その多くは高齢者だが、彼ら団塊の世代の想いが、「グルッポふじとう」等での交流や活動を媒介に次世代につながっていくことで、高蔵寺ニュータウンは確かなアイデンティティを手に入れることができるのではないか。その時こそ、高蔵寺ニュータウン春日井市におけるただの「タウン」になるのだと思う。

高蔵寺ニュータウンについて(その2)

 「高蔵寺ニュータウンについて(その1)」から続く。

 2016年3月に「高蔵寺リ・ニュータウン計画」が策定・公表された。計画期間は2025年までの10年間。「ほっとできるふるさとでありながら、新たな価値を提供し続ける“まち”であり続けること」(リ・ニュータウン)を目指すとして、7つの基本理念を掲げている。
① 成熟した資産の継承
② 公共施設・生活利便施設の集約化とネットワークの構築
③ 暮らしと仕事の多様性の確保
④ 住民・事業者・市の協働の推進
⑤ 持続可能な都市経営の仕組みの構築
高蔵寺ニュータウンを核とした周辺・広域との連携強化
⑦ まちの新たなブランド力の創造と発信

 また、人口目標として2025年時点で48,000人という数字が掲げられている。この確たる算出根拠は示されていないが、75歳以上の高齢者が居住する世帯が子育て世帯に入れ替われば、目標はほぼ達成できる数値のように思われる。
 リ・ニュータウン計画では7つの先導的な主要プロジェクトを定めている。

○先行プロジェクト(2年以内に着手)
・旧小学校施設(旧藤山台東小学校)を活用した多世代交流拠点の整備
・民間活力を導入したJR高蔵寺駅周辺の再整備
○展開プロジェクト(先行プロジェクトの効果を検証して展開を図る)
・交通拠点をつなぐ快適移動ネットワークの構築
・センター地区の商業空間の魅力向上と公共サービスの充実
・スマートウェルネスを目指した団地再生の推進
○情報発信プロジェクト
ニュータウン・プロモーション
ニュータウンまるごとミュージアム

 さらに、以下の5つの施策分野について具体的な取組を進めることとしている。
① 住宅・土地の流通促進と良好な環境の保全・創造
② 身近な買い物環境の整備と多様な移動手段の確保
③ 多世代の共生・交流と子育て・医療・福祉の安心の向上
④ 既存資産(ストック)の有効活用による多様な活動の促進
高蔵寺ニュータウンを超えた広域的なまちづくりの推進
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 先行プロジェクトの中でも先立って進められてきたのが旧小学校施設を活用した多世代交流拠点の整備である。藤山台中学校区旧小学校施設活用検討懇談会、旧藤山台小学校施設の改修設計に係るワークショップの開催などを経て、2016年から設計・工事が進められ、2018年4月に「グルッポふじとう(高蔵寺まなびと交流センター)」としてオープンした。施設内には、図書館、児童館、コミュニティカフェ地域包括支援センター、こどもとまちのサポートセンターと会議室・体育館がある。これらの施設は2017年10月に設立された第3セクター高蔵寺まちづくり(株)」が指定管理により管理運営をしている。また、この会社では、ニュータウンのエリアマネジメントを担う組織として、空き家等の不動産の流通促進なども実施している。
 なお、市では、もう一つの廃校である西藤山台小学校施設についても、2017年にサウンディング型市場調査を実施するなど、民間事業者の公募に向けた準備を進めている。
 展開プロジェクトのうち「快適移動ネットワークの構築」については、市の予定を上回って、様々な主体によりニュータウンを舞台とした取組が進められている。愛知県では平成28年度自動走行実証推進事業の実証エリアの一つとして高蔵寺ニュータウンを選定し、2016年10月と2018年2月には自動運転と試乗した市民を対象としたモニター調査が行われた。また、春日井市でも名古屋大学と連携し、ニュータウン内の一般市民の自宅付近からサンマルシェまでを自動運転車両で往復する自動運転デマンド交通実証実験や電動ゴルフカートを用いたゆっくり自動運転🄬実証実験を実施した。さらに2017年11月にはトヨタ自動車と連携し、ニュータウン内のUR集会所とサンマルシェの間でパーソナルモビリティの有料利用の可能性を検証する歩行支援モビリティサービス実証実験も行っている。
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 また、2017年には「高蔵寺ニュータウン住宅流通促進協議会」の事業として、DIYリエーターChikoさん指導の下、UR賃貸住宅を借り上げ、公募市民11名によるDIYワークショップを実施。完成後の住宅をDIYモデルルームとして公開した。今年度は引き続き、高蔵寺まちづくり(株)がDIYワークショップを開催するとともに、DIYをサポートするボランティア組織の立ち上げや戸建てのDIY併用型リノベーション住宅の賃貸事業等を始めている。
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 展開プロジェクト「スマートウェルネスを目指した団地再生の推進」については、愛知県が地域包括ケア団地モデル構想を策定。高森台に残る県有地を中心に、福祉施設やサービス付き高齢者住宅等の誘致を進めている。またURでも高森台団地における団地再生事業に加え、中層階段室型住棟へのエレベーターの設置などを進めている。また、春日井市によるスマートフォンを利用した認知症高齢者の徘徊対策「オレンジセーフティネット」の試行や、地域の助け合いにより在宅医療・介護のための駐車場を確保する「ハートフルパーキング登録制度」など、それぞれの立場からの取組が進められている。
 計画に定めたこれらのプロジェクトや施策を着実に進めていくために、春日井市では、公募市民を含めた「高蔵寺リ・ニュータウン推進会議」を設置し、実施状況の確認・評価・検証等を実施しているところである。
 「高蔵寺ニュータウンについて(その3)」に続く。

高蔵寺ニュータウンについて(その1)

 都市住宅学会の機関紙「都市住宅学」第102号に、依頼を受けて、高蔵寺ニュータウンの最近の動向等に関する文章を書いた。著作権の問題もあるが、せっかくまとめたことでもあり、適当に改変しつつ、ここに掲載したい。
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 高蔵寺ニュータウンは、1968年に最初の入居者を迎えて以来、今年が50年目に当たる。高蔵寺ニュータウンが所在する春日井市も、今年、市制75周年を迎える。ちなみに、今年は、エベネザー・ハワードの「明日の田園都市」の初版が出版されて120年目に当たる。私自身は1979年にニュータウン内の高蔵寺高校の新設工事に関わり、翌年、ニュータウン内のUR賃貸住宅に入居して以来38年間、2回の転居はあったが、現在もニュータウンに住み続けている。まず、高蔵寺ニュータウンの現状とこれまでの取組についてまとめておく。
 高蔵寺ニュータウン名古屋市の北東に隣接する春日井市の東端に位置する。最寄りのJR中央本線高蔵寺」駅までは名古屋駅から約30分。高度成長期における名古屋圏の住宅需要を受け入れるため、日本住宅公団により1960年に事業経営方針が決定され、1963年に都市計画決定、1966年2月には土地区画整理事業の事業認可を得て事業が進められた。施行面積は約702ha。公共・公益的施設用地を除く約394haが住宅用地となっており、うちUR賃貸を中心とする集合住宅用地が約114ha、公団分譲地が約75ha。残りは民有地となっている。なお、土地区画整理事業は1981年度に完了した。ちなみに、当初の開発区域は約850haあったが、自衛隊敷地のある第3工区は事業化できず、現在に至っている。
 高蔵寺ニュータウンは、大阪府企業庁が開発した千里ニュータウンに続き、日本住宅公団が初めて手掛けたニュータウンであり、①土地区画整理事業方式を採用したこと、②千里や多摩ニュータウン等と異なり、すべて春日井市という単一の市域に存すること、③ワンセンター方式を採用していること、などが特徴として挙げられる。なお、URや県・市等の出資により、高蔵寺ニュータウンセンター開発(株)が1973年に設立され、1976年にはセンター地区に商業施設「サンマルシェ」がオープンした。
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 事業計画による計画戸数・計画人口は数次の変更を経て、最終的には20,600戸・81,000人となっているが、現実には人口は1995年に52,215人でピークを迎え、2015年の国勢調査では45,217人。その後も減少を続けている。しかし、これを住宅の建て方別にみると、戸建て住宅の居住者数は最近15年間約30,000人超の横ばいで推移しており、人口減少はもっぱら集合住宅居住者の減少が要因となっている。また、高齢化率は2015年で31.7%となっており、春日井市全体の24.5%を上回って少子高齢化が進行している。
 一方、ニュータウンに隣接する地域では、つい最近まで組合施行の土地区画整理事業が施行されており、また、南接する名古屋市守山区志段味地区でも土地区画整理事業が進められていることから、サンマルシェを中心に半径5km圏内の国勢調査人口は134,333,人と5年前に比べ1.1%増加している。
 また、春日井市では2014年と2017年の2回、空き家調査が実施されている。この結果を見ると、戸建て住宅の空き家数は2014年調査293戸から2017年には286戸に減少。分譲マンションの空き家数も2014年の177戸から146戸に減少している。ちなみに、戸建て住宅の空き家率は2014年で3.2%であり、春日井市全体の7.3%(2013年住宅・土地統計調査)よりも低い。一方、UR賃貸住宅については2014年調査で1,344戸16.9%となっており、エレベーターのない中層住宅で空き家が多くなっている。URでは現在、ニュータウン内の高森台団地で団地再生事業を実施中であり、ここ数年、募集を停止していることから、近年の人口減少はこの事業による影響が大きいと思われる。
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 春日井市では入居開始から40年が経過した2007年に、県やURの参加も得て「高蔵寺ニュータウン活性化施策検討会」を設置し、住民アンケートや市民参加ミーティングなどを実施して、施策の検討を行った。この結果、サンマルシェ内に子育て支援拠点「東部子育てセンター」を2010年に開設。翌2011年には市民団体の活動拠点「東部ほっとステーション」を開設した。また、高蔵寺ニュータウンセンター開発(株)では2006年から、サンマルシェを発着点にニュータウン内を循環するバス2路線の運行(運賃100円)を開始している。
 一方、15歳未満の年少人口の減少に伴い、最初期に入居が始まった藤山台地区で3校あった小学校を1校に統合する方針が2013年に発表された。これを機に、春日井市によるニュータウンでの取組は一段と強化された。2014年3月にURと「高蔵寺ニュータウンに関するまちづくり支援に係る覚書」を締結するとともに、4月にはURや春日井商工会議所等と連携し「高蔵寺ニュータウン住宅流通促進協議会」を設立。当協議会の活動として、空き家等の実態調査やシンポジウムの開催、空き家リノベーションアイデアコンペの実施、空き家バンクの開設などが行われている。また、2015年には、市役所内に新たに「ニュータウン創生課」が設置され、廃校となる小学校施設の活用について検討を進めるとともに、「高蔵寺リ・ニュータウン計画」の策定を進めることとなった。さらにこの年、買い物弱者対策として「移動スーパーマーケット道風くん」のうちの1台がニュータウン内で移動販売を開始している。

 「高蔵寺ニュータウンについて(その2)」に続く。