人口減少時代の土地問題

 公共事業の土地買収にあたり、土地の所有者が死亡して相続人が多数にわたり、非常に難航するケースがあるという話は聞いていた。高度経済成長に伴い、多くの若者が都会へ出て行き、所有者が死亡した後に放置された山や田畑が多く見られるようになってきた。さらに少子化が進むと、相続人さえいない土地も多くなることだろう。
 10年ほど前に中山間の町で働いていた頃、川があふれて河道を変えて、登記簿と実際の土地がまったく整合していない事例を見たことがある。国では地籍調査を順次進めていると聞くが、まだまだ時間がかかるとも聞く。加えて日本は地震国で、一度発生すれば土地の境界もかなり動くし、津波で洗われた土地ももう一度、境界を復元・確認するのは大変だろう。
 そして本書でも書かれているとおり、外国人が土地を所有した場合、その後の所有権の推移が心配される。土地の所有と権利に係る問題は複雑で心配だ。
 本書ではこうした問題提起に加え、その原因はどこにあるのかを明らかにし、制度改正への提案を行う。人口が増えていく時代に作られた制度は、減少局面を迎えて、機能しないどころか、大きな障害になっている。今後、団塊の世代の死亡が増えてくるにつれて、所有者が不明となる土地は加速度的に増えてくる。一刻も早く、土地関係諸制度の改正を行うべきだ。日本の将来に向けても大きな問題となってくる。

○海外からの不動産投資によって日本の土地を外国人が所有し、その相続が海外で発生することも考えられる。外国人の場合、戸籍も住民票もないため、登記の書き換えが行わなければ、所有者の確定はきわめて難しくなる。(P46)
○今回の調査から見えてきた「所有者不明化」の実態は、逆説的に言えば、固定資産課税台帳からも所有者把握が困難にあるおそれがあることを示している。・・・土地の「所有者不明化」問題とは、制度の根本的課題と、長年にわたる解決の先送りが、現象として明らかになったものである。人口減少・高齢化にともない今後さらに拡大するおそれがある。(P88)
○地籍調査は、1951年に制定された国土調査法にもとづいて・・・作成された測量・調査の成果が「地籍図」と呼ばれる。・・・これらの地籍図は、不動産登記法の第14条第1項にもとづき・・・しばしば「14条地図」とも呼ばれている。・・・2016年度末時点で地籍調査が完了した面積の割合、すなわち進捗率は52%。地籍調査が未了の土地では・・・「14条地図」が整備されるまでの間、「地図に準ずる図面」が備え付けられている。この図面は一般的に「公図」と呼ばれている。(P95)
○登記簿と台帳の一元化は、それまで土地台帳が独立して担ってきた土地の物理的現状の把握という公的な役割が、私的な権利を保護するための登記制度に吸収される過程だったともいえる。・・・土地の測量の意味も、国の税務の基礎情報の把握という公的なものから、個人の権利の客体(対象)を明確にするためのものに大きく変わっていった。(P115)
○「国が国以外の方から土地等の寄付を受けることは・・・原則として抑制しております」・・・本来、所有者が維持管理しきれなくなった土地については、できれば「皆のもの」に戻したり、新たな売買・利用方法を斡旋できる仕組みが揃っていることが望ましい。/だが、現状、そうした選択肢は限られている。利用の見込みがなく、買い手もつかない土地は、手放そうにも、「行き場がない」のだ。(P154)