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人口減少時代の住宅政策

 著者の1人である川崎直宏氏の講演を4月に聴いた。その際に本書も購入したのだが、これまでなかなか読む気になれなかった。あまり仕事に向き合いたくなかったのだろう。それでもようやく先週から読み始め、何とか読破した。
 それほどの難解本ではない。むしろ戦争直後から現在に至るまでの70年間の住宅政策を10年ごと(最初は20年)の刻みで概説し、非常にわかりやすく整理されている。各期についても、公共住宅や民間住宅供給、住宅生産技術、住宅団地の開発手法、マンション、環境問題・環境共生、防災、密集市街地問題、エリアマネジメント、郊外・空き家問題など、さまざまな視点でその時代を切り取り、解説をしていく。その時代における背景や考え方などもよくわかり、今こうした整理がされたことは将来に向けて非常に意義深いことだと思う。
 後半はこれからの住宅政策に対する提言である。課題提起に終わっている論文も多い中で、川崎氏の行政の役割の変化や地方行政への期待などは示唆に富んでいる。また新規住宅需要と世帯消滅による空き家発生を分けて見る視点は参考になる。
 それにしても、住宅政策はこの20年で大きく様変わりした。バブルが弾けて以降、高齢化や災害・防災対策、環境問題等に対応しているうちに、変化する時代にすっかり取り残されてしまったようだ。いまや住宅政策の意義から再構築せざるを得ない状況にまで追い込まれているのではないか。そして時代は人口減少局面に入って地域差が大きくなっている。その意味では地方行政の役割は大きいという趣旨はわかるが、一度溶解した地方の住宅行政を再構築するのは至難の業だ。
 講演でも川崎氏から「バックキャスティング」という言葉が聞かれた。正しく未来を描き、その実現に向けて行なうべきことを考えること。しかし一方で時代はそんな悠長な時間を与えてくれていないようにも思う。住宅行政はどうあるべきか。民間任せではなぜいけないのか。今一度、国民的な議論が必要な時期に来ているのかもしれない。

人口減少時代の住宅政策

人口減少時代の住宅政策

○これら個性的な共同住宅では、良好な居住環境や変化ある景観形成、良好なコミュニティ形成に一定の効果をもたらした反面、その多くが後年の住棟バリアフリー化の流れに適応できず、住棟形式はエレベータを用いた各戸水平アクセスを前提とした片廊下形式のものに移行していった。(P083)
○住宅マスタープランは、HOPE計画を契機に地域の主体的住宅政策に展開していく体系を整理し、さらなる展開を志向したものといえるが、HOPE計画の一般化を志向した住宅マスタープランへの移行状況も、結果としては公共住宅事業の際立った地域特性への貢献などの役割を中和し、住宅政策のオーソドックスな枠組みに収れんする傾向が示唆されていた。(P123)
○新規形成・再形成世帯は都市部の需要の高いエリアに発生し、消滅世帯は地方や郊外の需要の低いエリアに発生する。それぞれの住宅事情への影響が異なり、エリアや居住条件のミスマッチが解消しない状況のなかでは、新築着工戸数は世帯総数の増減より、形成世帯数の増減が大きく影響し、消滅世帯数は空き家戸数の発生に大きく影響することになる。結果として・・・都市部では新規住宅需要が継続し、地方・郊外部で空き家の増加が続く。・・・25歳人口の推移から10年後を推計すると25歳人口は約9割の減少する程度で・・・今後も80~90万戸の住宅着工が見込めそうである。(P195)
○人口減少により空き家が3~4割となる住宅市場状況は空間的に豊かな居住空間として認識する必要がある。都市も地方も今後は非生産人口比率が高くなる社会であり、居住の場が種々のビジネスや個人の活動の場でもある。地域ごとのローカルビジネスやケアサイクルを実現するソーシャルビジネス、コミュニティビジネスの展開や第三の居場所の創出など、地域の存する空きストックの有効活用等によって、居住から福祉・医療にまたがる総合的対応が不可欠でその支援に向けた政策体系が求められる。(P200)
○公共住宅の縮小は住宅政策自体の縮小ではなく、行政の役割が変容していく過程といえる。民間主体への移行は行政の役割をプロバイダー(直接供給者)からコーディネーター(調整者)、イネイブラー(条件整備者)に移行していくことを意味し、住宅市場における公共の新たな役割の模索と市場プレーヤーの社会的役割の構築が注視される。(P252)
○これからの住宅政策は未来を共有しつつ、バックキャスティングによって展開する取組みが肝要である。歴史に学びつつも大きく変容しつつある社会・経済を見据えて、住宅や居住を取り巻く未来像を描き、これからの住宅政策を考えることが必要である。また、これらへの対応には、地域の課題状況や地域の資源状況の詳細な把握、分析が重要となり、従来の組織を超えた取組み体制が必定である。ここに地方行政の重要な役割があるように思う。(P253)