近居

 「夫婦+子ども二人」の標準家庭と言われてきた世帯が現実には非常に少なくなり、単身世帯の増加が顕著になって、また危惧されている。マスコミでは高齢者の孤立死が大々的に報道され、介護などの高齢者への対応の必要性が声高く叫ばれている。私の周りでも親の介護に奔走されている人もいるし、高齢化対応は喫緊の課題であることは間違いない。しかし、これを「住まい」という視点で見た場合、サービス付き高齢者住宅などの高齢者専用住宅か、若しくは孤独死かみたいな極論で語る話は眉唾で聞いておく必要がある。
 現実には高齢の親がいる多くの中高年は、たとえ親と離れて暮らしていようとも、親の生活振りを気にしつつ日々を送っているのが実情ではないだろうか。一方で、三世代同居は幻想になりつつあり、同時に、離婚した娘や孫との同居や未婚の若中年の子どもと同居する世帯も増えている。
 これらもまた考慮すべき世帯の動向ではあるが、こうした住まい方も含めて、「近居」は現代社会において今後多数を占める住まい方の形になる。本書でも「近居の定義がない」ことが言われているが、たとえどんなに離れていても、親子として精神的に近接している家族は多い。「近居」の実態を正確に把握し、その可能性や政策を考えていくことは、今後の住宅政策を考える上で、非常に大きなテーマであり、基礎要件の一つであると考える。何より、「家族」と「世帯」と「住宅」の関係をきちんと意識した上で住宅政策を立案していくことは今後、必要不可欠と言える。
 本書は、東京大学の大月先生の問題意識を発端に、序論「近居の意義」と1部「近居の現状と課題」の第1章は大月先生により執筆され、その後、茨城県桜川市の軽部さんによる、桜川市を例にとった農村部での近居の実態と課題・桜川市の取り組み、大和ハウスの横江さんから「近居・育孫生活提案」について、また旭化成ホームズの松本市からは二世帯住宅について、さらに神戸大の平山洋介先生から近居に係る住宅政策における課題が書き込まれている。
 また、2部「自治体の取り組み」では、神奈川県の「多世代近居のまちづくり」、神戸市の「近居・同居住み替え助成モデル事業」、四日市市の「郊外団地への住み替え支援」、品川区の「親元近居支援事業」をそれぞれ紹介する。
 3部「『住宅に住む』から『地域に住む』時代へ」では、埼玉大名誉教授の在塚先生、九州産業大学の上和田先生、鳴門教育大の金貞均先生、芝浦工大の畑先生からそれぞれ自らの研究に引き寄せて「近居」に関わる居住のあり方について考察をしている。ネットワーク居住やサポート居住など言い方は様々だが、居住がこれまでの常識を超えて、地域やネットワークで捉える概念になっていることがよくわかる。畑先生のアジア研究からはこれまでの捉え方がいかに一面的で常識に囚われていたかを痛感させる内容になっている。
 やはり我々は今一度、居住のあり方、世帯ではなく家族で捉える居住政策について考えてみる必要がある。「近居」はこれまでの住宅政策を大きく変えるインパクトになりうると思った。

近居: 少子高齢社会の住まい・地域再生にどう活かすか (住総研住まい読本)

近居: 少子高齢社会の住まい・地域再生にどう活かすか (住総研住まい読本)

  • 作者: 大月敏雄,在塚礼子,上和田茂,金貞均,畑聰一,住総研,軽部徹,横江麻実,松本吉彦,平山洋介,神奈川県住宅計画課,神戸市住宅政策課,四日市市都市計画課,品川区都市計画課
  • 出版社/メーカー: 学芸出版社
  • 発売日: 2014/03/31
  • メディア: 単行本
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●単純に「高齢単身者の数」=「孤立無援の人びとの数」と定式化して、それをもとに、ある種の政策的パターナリズムにもとづく税金の大量投入へと導く議論の流れに対しては、やや間をとって見る必要がありそうだ。・・・筆者のこれまでのフィールド調査の経験からいえば、おおむね20年以上たった町では、・・・ざっくり言って、高齢者のおおむね1~3割程度が、子ども家族と近居を行っているということが類推的に言え、そのことを踏まえた政策が形成される可能性があるのではないか(P12)
●今後の住まい方として、大家族による「母屋と離れ」を利用した居住形態ではなく、独立した大きさの違う住宅を、近居が可能な距離に2棟用意し、核家族化した多世帯家族が、それぞれのライフステージに応じて、循環させながら使用していくという家族関係が主流になるだろうことが推察される。(P46)
●今後も高齢者単身世帯の増加とともに、ますます、小規模世帯のシェアは拡大するとみられる。しかし、このような状況が進展すればするほど世帯ではなく、「家族」という単位で住宅を見直す必要が生じてくる。目にみえる「世帯」や「家族」という単位は分散した「家族」の一部を対象としており、そこでは「家族」の実体はみえてこない。そこで、従来の「一住宅に居住する一世帯=家族」という図式を覆す論理が必要となる。(P157)