オランダにみるほんとうの豊かさ

 先日、角橋先生からいただいた本をようやく読み終えました。著者名には、奥様の方が先に名前が綴られており、先生自身からも「妻の方が多くを書いている」とおっしゃっていたが、何の何の、ご主人が書いている部分、サポートしている部分が多くあるのがわかる。

 全体は4章構成。オランダの大地、オランダの気質、オランダの情景、オランダの社会。14章が徹也氏、23章が佐智子氏の担当かな。しかし全体でオランダの現状をよく表現されている。

 オランダは「人が造った大地」であり、そのために協議の文化が発達したというのは、徹也氏の他の書籍でも説明されていたことだが、協働で生きるという人生観が社会制度や文化だけでなく、人生そのものに根付いており、それが麻薬や売春も合法のオランダ社会を作っていることがよくわかる。

 人々は個々人の人生を楽しみ、自分の老後だけでなく、死んだ後の未来も、家族ではなく社会に委ねる。「執着のない潔さ」。それを導き出した協働の文化。皇族すらも友人のように一緒に生活するオランダ社会の風通しの良さは、本当にうらやましい。

 もっとも移民問題など社会のきしみがないわけではない。しかし社会的動物である人間がまさに社会的に生きているオランダ社会は、たとえ経済的な豊かさがなくなろうとも、「ほんとうの豊かさ」は棄損しないのではないかと思う。日本も早くそういう社会になればいい。成熟した社会とはこういうものをいうのだろう。

●都市が収入の多くを国に依存していることについて“”市の自主性が失われて国の意向に支配されやすいのではないか“と質問したところ、市の担当者はその危惧を言下に否定した。憲法と地方自治法が、財源の流れや国と自治体の責任と義務を定めているので、お金がどこから来ようともともとはみんなの税金、自治が損なわれることはないとのことであった。金を出したら口も出し、自治体の自主性を損なうと思うのは日本人の発想かと恐れ入った。(P61)

●彼らはタテマエではなく、つねに本音で考える。そして、きわめて現実的な決断を下す。何でも許してしまう裏には、徹底した個人の尊重と情報公開が、いつもしっかり貼りついている。個人の意志や自由の保障と、自己責任がワンセットになっているのである。(P75)

●パートタイマーにはフルタイマーとまったく同等の権利がある上、働く時間を自由に選べることから、上司がパートで部下がフルタイムというケースもざらにある。・・・しかも女性の93%、男性の80%がフルタイムよりパートタイム労働を望んでいるという。あくせく働くより人生を楽しみたいと思う人が増えているのだ。(P144)

●家に執着せず、子どもたちに財産としての家屋を残したり、当てにされたりしない、この国の人たちの潔さも重要素だろう。(P164)