大家さんに期待 そして、住宅施策と福祉施策の連携について考える

 第4回あいち住まい・まちづくり研究会が開かれた。今回の報告者は、弁護士の杉本みさ紀さん、日本福祉大学の児玉教授及び名古屋大学の生田准教授の3名。テーマは「セーフティネット」と「高齢者等の安定居住」で、前者を前2名が、後者を生田准教授が担当した。

 杉本弁護士は法律事務所を構えている訳ではなく、(社)愛知共同住宅協会の職員。この協会は、中小の共同住宅経営者、すなわち大家さんの団体で、会員数400名。会員(大家さん)向けの困り事・経営相談や広報・啓発・研修活動、また入居者向けの一般住宅相談・住宅紹介などの事業を行っているほか、最近はホームレス・シェルターでの住宅相談業務も受託している。また、弁護士会の活動として、派遣切り労働者を対象としたワンストップサービスにも協力していると言う。

 大家さんの立場に立った発言が非常に楽しかった。  大家さんは不労所得で暮らす守銭奴といった悪いイメージを持っている人がいるかもしれないが、ほとんどの方は入居者に気を配り、家賃が払えないなどの困った時にも納期を延長したり、訴訟までいかずにあきらめたりと比較的寛容な良い人が多いと言う。大家さんの気持ちとしては、(1)家賃をきちんと払ってもらい、(2)隣近所、円満で、(3)家を大事に使用してもらい、(4)退去や死亡時などの万一の場合にきちんと対応してもらえばいいと思っている。

 こう書けば当たり前だが、今の時代、モノの貸し借りはとかくトラブルになりがちで、住宅にあってはなおのことトラブルが喧伝される中で、よほどお金に困らない限り、あえてリスクを冒してまで大家になろうというのはかなり奇特な行為のような気もする。

 土地・不動産の運用益と手間を考えるなら、駐車場経営や業務用土地貸しの方が楽だろうし、住宅しか需要がない場合でも、管理業者の借り上げや管理委託をする方がいい。管理業者の借り上げが一時期かなりのシェアを占めたが、最近は減少傾向で全体の半分程度、しかも当初の契約条件の変更を余儀なくさせられるケースも多いと言う。

 こうしたことを聞きながら、住宅事業の一部は非営利公益事業となり、住宅事業法人が非営利事業団体として認められてもいいのではないかと考えたが、これは現在読んでいる「NPOが豊かにする住宅事業」からの連想でもあり、本書読了後に改めて記述したい。

 住宅を借りる場合に求められる条件として、収入と連帯保証人がある。連帯保証人に期待されるのは、家賃滞納時の対応と死亡時等の後処理である。最近は、親が高齢で兄弟も少ない場合など、兄弟の配偶者からの反対などにより、連帯保証人が見つからない人も多い。その場合、保証会社を利用することになるが、保証会社もピンキリで保証審査が緩い業者ほど、滞納時の追い出しや取り立てが厳しくなる傾向がある。また高齢者住宅財団などの公的保証はスピードが遅く使い物にならないことが多いと言う。

 生活保護世帯については、住宅扶助費が出るので、家賃滞納の危険は少なく、死亡時対応等の緊急連絡先がしっかりしていれば、連帯保証人までは不要なことも多い。一昨年からの経済危機で、派遣切り労働者やホームレスの住宅相談も多く対応したが、一人ひとりは本当に普通の人で、大家さんと相談して、うまく条件整理を行い受け入れたケースも多いと言う。「大家と言えば親も同然」。実際、入居者の生活再建に大家が手を貸す事例もあるそうで、こまめに入居者に会い気を配れば、賃貸住宅管理は難しくないと力説をしていた。

 二人目の児玉教授は、精神障害者の地域生活移行(退院後の住まいの問題)やホームレス・派遣切り労働者、母子世帯等に対する公的住宅対策がテーマだったが、現実問題として対応が難しい課題のため、ここでは割愛。

 ただ、「住宅施策と福祉施策との連携が重要」というある意味聞き飽きた言葉があったが、この場合の「住宅施策」にはどこまで含めるのか、福祉施策との境目が不明確という印象を持った。特に最近、個人的に、市町村福祉部局の高齢者介護担当者から話を聞く機会があったが、福祉施策の背景となる平等性・公平性の思想と住宅施策の持つ自律性・任意性の思想とが相容れないことが多い。

 個人的には、住宅施策は住宅の量と質の問題(モノ)だけを対象とし、居住者の問題(ヒト)は福祉施策として整理した方が適当ではないかと考える。最近は住生活基本計画といい、住宅内で営まれる生活を重視した居住施策に重点が移ったと言われるが、その時の施策の背景となる思想を福祉施策の持つ思想と合わせなければ、本当の意味の連携は無理ではないかと感じた。

 3番目の生田先生の話も、専門的かつ理想的過ぎたので割愛。低所得で中軽度の要介護高齢者に対応した住宅の不足を指摘されたが、それを住宅施策として考える必要性が不明。持家・借家を含めて自立から要介護(中軽度)までに対応した住宅として、一般住宅のバリアフリー化を考え、あとは在宅型の福祉施策で対応というのがこれまでの考え方だと思うが、それでは不都合な実態があるのだろうか。もちろん理想として語られるのであれば、いろいろあるだろうが。

 最後の意見交換でも、またまた杉本さんが大活躍。公営住宅のコミュニティ問題に関する会場からの問題提起に対して、民間賃貸ではコミュニティはないことが前提、下手に住民同士のコミュニティが高まると、家賃値下げ要求につながりかねないと考える大家が多い、という話は思わずなるほどと頷いてしまった。もっとも公営におけるコミュニティ問題は、実は共益費問題で、民間賃貸と同様、大家が徴収し管理をすれば、基本的には公営とて民間と同様の認識になる。

 杉本さんが言うように、実態として多くの大家さんが日頃から入居者の状況を把握しているのであれば、高齢者福祉施策における見守りサービスは日常的に実施されていることになる。残念ながらこうした住宅のほとんどが、高齢者専用賃貸住宅はおろか高齢者円滑入居賃貸住宅の登録もされておらず、施策効果測定上は計上されていない。

 高齢者住宅対策の観点から、大家さんパワーをうまく活用し顕在化していくことを、方策の一つとして考えてもいいのでないか。新たな施策検討のヒントをもらった気がする。