NPOが豊かにする住宅事業

 先に「民間非営利組織による住宅供給と貧困ビジネス」で報告した住宅都市整備公団住宅技術研究所の海老塚氏の著書。先の報告は本書及びその元となった博士論文を下敷きに行われたもの。そこでその詳細を知るべく、本書を手に取った。

 全体4章構成だが、第2章の「日本の民間非営利組織による住宅事業」と第3章の「欧米諸国の民間非営利組織による住宅事業」がメインで、その前説と比較考察及び提案が加わっている。

 第2章で紹介される住宅事業は、住宅密集地事業、コーポラティブ住宅、高齢者住宅事業、ホームレス住宅事業の4種類だが、先日の報告時から目立って注目したことは少ない。

 ホームレス住宅事業については、狭い居室に押し込んで高額の家賃を徴収しているという貧困ビジネス批判があるが、下に引用したとおり、既に居室面積に応じた扶助額にしているようであり、また収納部分や台所・トイレ等は別途あることや生活支援に要する経費も必要なことを考えれば、実態を見ない批判は慎むべきではないかと感じる。

 恒久的な居住施設提案も出ているが、生活保護費を原資としているわけで、民間賃貸住宅も含めた住宅施策全体で考えるべき課題である。先にエントリーした「大家さんに期待・・・」と合わせて、民間非営利組織に限らず、民間活用施策として考えることができるのではないか。

 大いに参考になったのは第3章である。欧米の住宅施策については、これまでいろいろな本を読んだり、話を聞いたりしてきたが、もう一つ理解できないことが多かった。特に社会住宅の実態については、著者の「いい制度だ」というバイアスがかかり、全体像が見えてこなかった。

 本書でも十分とは言えないが、各国、支援を減少する中で、直接資金供与ではなく、その他の手法でもって、民間も含めて全体的にアフォーダブル住宅対策を行っていることが理解できる。また、イギリスのハウジング・アソシエーションの多くが、公営住宅部局の移管により設立されていることは新たな情報だった。

 筆者は、自身が公的住宅組織に身を置いているせいか、URや住宅公社に対して否定的だが、私は必ずしもそうは思わない。要は、いかに行政との独立性を保つかという問題である。都市住宅学会の大会後の懇親会で、筆者本人に「UR職員が退職して民間非営利組織を作ればいい」と放言したことがあったが、本書を読んでもそういう気がする。当然、公営住宅等も公社移管とし、家賃補助等の支援を行うイメージである。

 具体の政策検討は私自身にとっても大きな課題の一つだが、そのベースとしてわかりやすくかつ大いに参考になる本であった。面白かったですよ。

●東京都福祉局は「宿泊所設置運営指導指針」を作って、設備・人員などのガイドラインを定めている。2004年1月の改正では、居室の床面積は収納設備等を除き、一人当たり3.3m2(2畳)を最低の基準とし、基準面積の4.95m2(3畳)以上となるように努めることとなった。また、住宅扶助費の算定では、・・・4.95m2の場合の3万9000円を基準として一人当たり床面積で増減されることとなった。(P77)
●宿泊所は一時的な居住施設で、通常の住宅に転居するまでの通過施設であるが、ホームレスを経験した人々は、自立した通常の住宅で生活をすることが困難なケースがあり、生活支援を継続して行える永住型のグループホーム等の建設が日本でも必要とされている。・・・公営住宅の代替として、生活保護の中の住宅扶助費を利用するなどして、新たな形での社会住宅を提供する民間非営利組織の出現が待たれる。(P104)
●イギリスの民間非営利組織は、1980年代以降に増加しているが、公営住宅の移管事業に伴って新たに設立されたハウジング・アソシエーションや地域住宅会社が主体であり、新設されたハウジング・アソシエーションの職員の多くは、地方公共団体公営住宅部局の元職員であり、これまでのハウジング・アソシエーションとは異なった新しいタイプの組織となっている。(P122)
●(イギリスの)地方公共団体は、ハウジング・アソシエーションの住宅建設資金を補助する見返りとして、入居者の指名権を獲得し、住宅困窮者への住宅提供などの政策義務を果たすことが可能となっている。地方公共団体は、また、アフォーダブル住宅を供給するため、民間の開発事業者に開発許可の条件としてハウジング・アソシエーションへの土地提供を求めるなどしてハウジング・アソシエーションの住宅事業を支援している。(P125)