公営住宅に併設された地域拠点施設

 都市住宅学会中部支部公共住宅部会で「公営住宅に併設された地域拠点施設」に関する研究報告を拝聴した。修士論文研究の報告である。この研究は全部で3つに分かれており、「その1」で全国17事例の現状分析、「その2」が開設場所に特徴のある4事例の分析。そして多分修士論文になったと思われる梗概が「公営住宅に開設された生活支援拠点の空間とサービス・組織連携の相互関係」である。

 同席された指導教官の方がおっしゃっていたが、当初、地域拠点施設の空間構成とサービス・地域連携の関係を全国事例から統計的に抽出したいと考えていたが、空間構成とその他との関連性が低く、かつその他の要因、例えば開設経緯や運営主体、自治体政策等との関係性の方が大きいことがわかり、最終的に熊本県営住宅健軍団地に絞って調査・分析を行っている。

 「その1」の17事例分析の中で、開設経緯として、(1)行政の住宅計画、(2)行政の福祉政策、(3)住民のまちづくり活動の3つに分類している。いや、正確には分類しようとしている。実は研究では、「(3)住民のまちづくり活動」は「団地内まちづくりの中で拠点整備に至る事例」とされており、(1)の住宅政策との違いが不明確である。分類結果を見ても、(3)と分類されているものの実態に疑問を持つものも少なくない。それはさておき、こうして分類した時に、「(2)行政の福祉政策」の役割が大きいことが見て取れる。

 「その2」では、(1)大牟田市営南橘団地、(2)大牟田市営新地東ひまわり住宅、(3)神戸市営本山第三住宅、(4)熊本県営住宅健軍団地の4住宅の比較検討をしている。この4住宅を抽出した理由は地域拠点施設の空間特性による。(1)は別棟、(2)は住棟1階に合築、(3)は空き住戸の活用、(4)は住棟1階+副拠点の存在である。また開設の経緯も異なる。(1)は団地建替に伴う余剰地の公募一般入札、(2)は団地建替に伴い提案型公募で事業者を決定し賃貸、(3)は市の見守り交流拠点整備事業の一環として空き家を活用、(4)は県の「地域の縁がわ事業」のモデル事業として改良住宅の建替に合わせて合築したものである。

 (1)の事例では土地も運営者に売却しており、活動内容は運営者に任されている。よって団地周辺を含めた地域拠点となっているかどうかは運営者による。(2)では住宅事業者が地域拠点施設の活動内容を選定して運営者を決定している。しかし合築のため、設計内容や整備期間、開設時期を合わせる必要がある。介護や保育などの社会福祉サービスを取り巻く市場はかなり流動的なはずで、公営住宅の建替とうまく合わせるのはかなり難しいのではないか。

 (3)は神戸市独自の福祉施策である。災害復旧基金を利用して整備をしているもので、既に市内25ヶ所に設置されている。見守り推進員が独居老人の見守りと地域の見守り活動の基盤づくりの活動などをしている。

 (4)の熊本県営住宅健軍団地もかなり特殊な事例である。建替前は改良住宅で地域福祉部が管理していたと言う。HPで調べると現在は土木部住宅課で管理しているので、当時はということかもしれない。地域福祉部も現在は健康福祉部という名称になっている。健康福祉部所管の「地域の縁がわ事業」のモデル事業として、当時所管していた改良住宅の建替に合わせて地域拠点施設を整備した。そもそも県営で改良住宅を管理していることが珍しい。「地域の縁がわ事業」のモデルとして運営主体のあり方についてかなり指導があったという話もあるようだ。結果として、地域のNPO等が連携した運営主体により、近傍の商店街の中に3ヶ所の副拠点を開設して子育て支援や雇用支援など多様な活動を展開する全国的優等生モデルとなっている。しかし「地域の縁がわ事業」があって成り立っていることは間違いない。

 公共住宅入居者の高齢化が進み、住宅事業者に対応を求める声が強い。高齢者向けサービス付きを売りに入居者を募集する高齢者専用賃貸住宅であれば対応は必然だが、公共住宅の場合は対応が後追いになりがちだ。特に住宅部局だけでは高齢者向けサービスを自ら提供することは難しく、福祉部局の積極的な対応がなければどうしようもない。もちろんかつての熊本県のように福祉部局で住宅管理も担当していれば、縦割りの弊害はないのだろう。そのためには、例えば厚労省を生活省にして国交省住宅局を吸収合併するなどの行政組織の改革が必要だ。

 国土交通省では高齢者等居住安定化推進事業を公募し支援しているが、公営住宅で取り組むためには、地方自治体の福祉部局が積極的でない限りかなり難しいと思われる。地域拠点のための用地や施設提供における優遇等が最大限できることではないか。それすら厳しい財政状況下では難しいのかもしれない。