東京都板橋区のUR高島平団地で実施されているリノベーション住戸の見学会に参加した。都営三田線「高島平」駅を降りると目の前に広がる巨大団地に、「これがあの高島平か」とまずは感嘆。線路に沿った緑地を歩き、集合場所の集会所に着いた。まず最初にUR賃貸住宅ストックの再生・再編方針と、平成26年1月に取りまとめた「超高齢社会における住まい・コミュニティのあり方検討会」最終報告についてURの職員の方から説明を受ける。
「UR団地を地域の医療福祉拠点として、国家的なモデルプロジェクトの実践」をキーワードに、今後7年間(~平成32年度)に全国で100団地程度で重点的に地域医療福祉拠点を整備していくという内容だ。比較的低廉な家賃の「終の棲家」を提供しつつ、併せて子育て支援・三世代近居促進を図り、ミクストコミュニティの形成を進めていくとしている。
こうした取組みの一環として、高島平団地では、板橋区と平成23年に締結した包括連携協定に基づき、地域包括ケア懇談会や独居高齢者を対象としたランチ倶楽部を開催している。また、UR賃貸の空き住戸を活用し、サービス付き高齢者向け住宅の民間運営事業者を募集。平成26年12月には「ゆいま~る高島平」として入居開始する予定だ。ただし、ワンルームや1LDKの42~43m2で93,600~98,100円の家賃は高い。しかもさらに共益費2,700円とサポート費(見守りサービス)36,000円(二人の場合は54,000円)が必要となる。
同時に、ミクストコミュニティに向けた若者世帯の入居促進策として取り組まれているのが、ムジ・ネット株式会社(無印良品の株式会社良品計画の住宅事業部門)と連携した「MUJI×UR団地リノベーションプロジェクト」である。平成25年12月にモデルルームが完成し、1月から2タイプ15戸を募集。平均で約7倍の倍率がついて契約・入居に至ったという。ちなみに住戸面積は46m2で家賃が87,100~91,000円というのは愛知県の常識からすれば倍以上だが、東京の立地から言えば利便性もよくべらぼうに高いというわけでもないらしい。
この日は「MUJI×URプロジェクト」2戸とURリニューアル住宅の中でもややグレードが高い「リニューアルi」の住戸を見学した。「MUJI×URプロジェクト」では、「こわしすぎず、つくりすぎない」という概念から、柱や鴨居など古いものを一部残すとともに、キッチン・テーブル・スツールがセットとなった組合せキッチンや麻畳、麦わらパネル(床材)など無印良品との共同開発パーツを使って変えるところは新しい感覚でリニューアルしている。
最初に見学したモデル住戸には押入れなどは一切なく、壁際に上部小天井と称するラックが走っているだけとなっていた。またもう一つのモデル住戸も押入れを改造した書斎コーナーと逆側から収納スペースが3/4間あるだけで、収納スペースが極端に少ない。ちなみに同時に見学した「リニューアルi」では1間半の物入れがついており、見学者からは「こちらの方がいいな」という声も聞かれた。もっとも見学者の多くは住宅・建築の専門家で、一般ユーザーの感覚とはややかけ離れている可能性もある。実際、センスという点では「MUJI×URプロジェクト」の方がはるかにインパクトがある。
もっとも「これは単身者向けの住宅かな」と思ったら、けっこう新婚世帯の入居も多いのだと言う。新婚世帯で46m2は狭いのではないかと思うが、これが東京の住環境なのか。ベッドルームとリビングダイニングスペースだけで、家具はほとんど持たない生活になりそうだが、それがまたいいのかもしれない。見学者の年代は20~40代が約9割だったと言う。
名古屋圏では平成26年2月に、椙山女学園大学の村上研究室等が中心となり、高蔵寺ニュータウンのUR賃貸住宅において学生提案により住戸改良を行う「カラーリノベーションハウス」というプロジェクトを実施したが、応募が殺到するという状況にはならなかった。平成24年度に実施した、セルフビルドの住宅改良を認める「URフリースタイルハウス」も関心は集めたものの入居希望者は少なかったと聞いている。やはり名古屋圏と首都圏との賃貸住宅層の厚さの違いを思わずにはいられない。
2000万円台から戸建て分譲住宅が販売される名古屋圏では賃貸住宅需要は、持ち家取得までの一時的な需要に過ぎず、たとえ家賃が2DKで33千円前後と首都圏に比べれば格安であっても、家賃を上積みして気に入った住戸に入居するよりも、一時的に我慢をしてでも資金を貯めて、分譲住宅購入を目指す人が多いと思われる。
一方で、先日何気なく見たTV番組「ガイアの夜明け」では、内装メーカーのサンゲツが賃貸住宅の内装リニューアル提案を手掛けて好評を得ていると言う。これは名古屋市内の若年単身女性をターゲットにした賃貸マンションでの取組みだった。名古屋圏でもターゲットを絞ってリニューアルをすれば可能性はあるということかもしれない。賃貸住宅のリニューアルに対する市場の視線は以前にもまして熱くなっているようだ。