「押沢台ブラブラまつり」と「押なび」

 高蔵寺ニュータウンの東端の町内、押沢台でちょっと気になる住民活動が続けられている。題して「ブラブラまつり」。今年度の「第13回住まいのまちなみコンクール」国土交通大臣賞を受賞した。また最近、地元中日新聞の地域版に、地域の特色をまとめた冊子「押なび」が作成・配布されたという記事が掲載された。これらの活動の仕掛け人である豊田洋一さん(中部大建築学科教授)にお会いすることができた。
 「ブラブラまつり」とは、年に1回、押沢台北町内全域でそれぞれの自宅の玄関先や庭先などを利用して、さまざまな立ち寄り処をオープンし、住民たちがブラブラと歩く催し。押沢台北町内会(約600世帯)では毎年10月に開催しており、昨年は30軒余りのお宅が参加した。出店の内容はバラエティに富んでいて、雑貨屋さん、カフェ、ギャラリー、キッチンカー、写真館、焼き芋屋、甘味処、手打ちそば、野菜、ビヤガーデン、木工作品展示、キャンドル作りやフラワーボール作りといった体験教室もいくつかある。また、スタンプラリーをして景品の配布もしており、特に、子どもたちが多く参加して、町内を歩き回ると言う。
 きっかけは6年前に豊田さんが町内会長になったこと。当時、町内会には年10万円の親睦会予算があり、例年、旅行などを行っていた。しかし、一部の人の参加で終わる催しではなく、もっと多くの人が参加できる催しにしたいと考え、このイベントの実施を提案。当初は10軒ほどだったが、その後、毎年の行事として定着し、昨年で6回目を迎えた。また昨年度からは、南隣の押沢台南町内会でもブラブラまつりが始まった。ただし、南町内会の開催月は5月とあえて時期をずらし、町内会内での住民同士の交流と親睦の促進という趣旨を大事にしている。また、押沢台北町内会では昨年4月から、毎月第二土曜日に、どこかの家で軒先カフェを開く「ブラっとカフェ」も始めている。こちらもピザカフェやビヤガーデン、SOBAカフェなど多くのお店が開店。住民同士で楽しんでいる。
 一方、今年2月に作成・配布された「押なび」も豊田さんが編集長を務めているが、こちらは「押なび編纂の会」の代表である藪木さんから豊田さんに話が持ちかけられ、メンバーを募って執筆・編集し、発行したもの。この前段には、平成23年3月に春日井市企画課が中部大学豊田研究室に委託して、市民募集したニュータウンブック編集委員会により作成・発行された「高蔵寺ニュータウンガイドブック まちなび」がある。これは、ニュータウンのさまざまな施設やグループ、イベントなどを紹介した冊子だが、写真やイラストが満載で、野鳥図鑑や野草図鑑、オススメ散策コースやニュータウンよもやま話など、内容が非常に豊富でバラエティに富み、かつ楽しい冊子になっている。この冊子は平成28年に一度、改訂版が発行されているが、「まちなびの地域版がほしい」という提案だったという。
 「押しなび」には「押沢台での暮らしを楽しくするためのナビゲーション」という副題が付けられ、最初に「押沢検定」が載っている。中を開くと、押沢台の道と公園に勝手に「名前付けちゃいました」といった提案もあり、オープンガーデンやみんなの木の紹介、37にも及ぶサークルの紹介など、とにかく内容が豊富で楽しい。押沢台全域で約1700世帯あるが、それでよくこれだけ多くの内容があるものだと感心する。
 ところでこうした活動に至るにはさらに前段がある、ということで豊田さんに紹介いただいたのが、中部大学豊田研究室でまとめた2冊の冊子。一つは、平成20年度に多治見市建築住宅課が作成・発行した「多治見のまちの家先デザイン手法 HOUSE FRONT」。そして、春日井市が平成19年度に実施した高蔵寺ニュータウン住民アンケートを元に、21年度にまとめた「高蔵寺ニュータウンのこれからを考える調査研究報告 新たなまちづくりの手法提案」という冊子。
 前者は、塀や門、駐車場や庭、窓際の利用や道、緑など、それぞれの住宅でできる道先デザイン手法を、多治見市内の豊富な事例写真を使って紹介したもので、少しだけ見せる「透塀(すけべい)」とか、塀を敢えて見せる「塀!LOOK!」など、洒落も効いて楽しいガイドブックになっている。この中には「まちの○○館」という手法が提案されており、「ブラブラまつり」や「ブラっとカフェ」につながっている。
 また、後者は、「高蔵寺ニュータウンの方向性と課題」といった堅い文章の後に、シート形式で「新たなまちづくり手法50」の提案が掲載されている。「魅力的なセンター」「元気な地域」「集合住宅」「戸建住宅」「活き活きまちづくり」と分類された中に、さまざまな提案が掲載されているが、その中には、「ニュータウン隣人まつり」や「街に愛称をつけませんか」といった提案も掲載されている。この中の提案の一つ「タウンブック高蔵寺NT」はその後、春日井市が発行した「まちなび」として実現しているし、「高蔵寺ニュータウン公式サイト」も作成された。また、「コミュニティビジネス街」や「まちづくりセンター」は、東部ほっとステーションという形でオープンしている。この4月には、廃校となった旧藤山台東小学校を改修し、子書簡や児童館、コミュニティカフェ地域包括支援センター、体育館などが入る複合施設「高蔵寺まなびと交流センター『グルッポふじとう』」がオープンする。ここにも豊田研究室で提案した内容のいくつかが盛り込まれているようだ。
 しかし、春日井市では平成22年度の提案は過去のものとして、平成27年度には「高蔵寺 リ・ニュータウン計画」を策定している。「グルッポふじとう」はこの計画の重点事業の一つであるが、この計画策定には豊田さんは関わっていない。春日井市による計画策定や計画の推進といったことは市に任せ、今は一市民として、できること、やりたいことをしている。しかも、その成果には大いに目を見張るものがある。私も今一度、これらの冊子を熟読し、今の私にできることを考えてみたい。

「春日井市を元気にするアイデア」募集

 春日井商工会議所が創立50周年を記念して、昨夏から「春日井市を元気にするアイデア」の募集をしていた。先週末に開催された50周年記念大会で表彰式が行われ、私の提案を最優秀賞に選考いただいた。入選までは知っていたが、最優秀賞は当日、壇上で初めて発表されたのでびっくりした。そんな大した提案じゃないのに、選考していただきどうもすいません。ありがとうございます。このコンテストは、応募資格が会員企業社員に限定され、分量もイラスト等も含めて4枚程度ということだったので、気楽に思い付きを書いて応募したら当選した。とは言うものの、多少の顛末もあるので、ここに少し書いておきたい。
 私の受賞作品のタイトルは「タクシー定期券で移動サポート」というものだが、内容は商工会議所のHPに作品集が掲載されているので興味があれば見てください。「タクシー定期券」と書いたが、既に福岡市等では先行事例もあり、国交省でも昨年度から検討が進められている。それらを見ながら、「高齢者支援施策」として取り組むことには、個人的に抵抗感があり、誰でも利用できる、タクシー利用拡大策としてこのアイデアを提案した。なので、まずは市内のタクシー会社に実施の可能性について検討をしてほしいと思っている。
 しかし実は、これは本当に思い付きで、私の部屋の窓の向かい側がたまたまタクシー乗り場になっていて、けっこう利用者が多いのを見ながら考えたもの。その少し前に、市内の知人から、「春日井市内のタクシー会社も国交省のタクシー定期券の検討を注目している」という言葉を聞いており、それならと考えてみた。
 でも実は、この提案の前に、もう一つ、応募したアイデアがあった。それが「『ニュータウン観光』を始めよう!」というタイトルの提案。個人的にはこちらの方により深い思い入れがあり、ぜひ実施してほしいという気持ちもあった。今回、入選の案内をもらった時に、どちらの作品か書かれていなかったので、てっきり「ニュータウン観光」の方が入選したと思っていた。それがそうではなく、もう一つの「タクシー定期券」だったというので、聞いてびっくり。表彰式の時にも、壇上でアイデアの内容などを聞かれたのだが、他の入選者が自信をもってアイデアの内容を語る中、私はまあ思い入れのない回答に終始した。どんなアイデアを書いたのか、正直あまり覚えていなかったし。
 それに対して「ニュータウン観光」の方は、最近、一部では全国的にも話題になっている映画「人生フルーツ」の舞台として、高蔵寺ニュータウン自体を観光資源として売り出そうというもの。津端修一夫妻の物語や今も英子夫人が暮らす住宅だけでなく、URがあれこれ工夫を凝らした様々なタイプの共同住宅なども観光資源になるのではないかと思ったのだが、応募後、友人に話すと、「そんなのに興味を持つのは団地オタクだけですよ」と言われた。そうか・・・。
 それで今回、作品集を見てみると、一緒に入選した下田さんの「春日井『聖地』化計画~『聖地巡礼(コンテンツ・ツーリズム)』の可能性を求めて~」の方がはるかに的確に、私が言わんとしたことを表現している。何より「聖地」という言葉を使った点がわかりやすく、アピール力がある。また、その内容や実現化のためのプロセスなどもより具体的で実現性が高い。個人的にはこちらのアイデアの方を最優秀にしてもらった方がうれしい位だ。
 でも考えてみれば、商工会議所にお世話になるようになってまだ半年余りしか経っていない。今回の最優秀賞は「これからさらに商工会議所の事業に協力してくださいね」という要望と忖度ゆえの選考だったのかもしれない。そうだとすると大変なことだ。すいません。これから会議所に行くときは小さくなって伺うので、よろしくお願いします。あまり期待しないでね。

自分にあわせてまちを変えてみる力

 饗庭伸の本を読みたくて、本書を借りてみた。ただし、これは饗庭伸の他、薬袋奈美子や秋田典子など大学を異にする6名の研究者の共著。共同で実施した韓国と台湾におけるまちづくり調査の内容をまとめたもの。
 ただ、まとめ方はかなり面白い。出だしの「アジアの地図をやわらかい頭で見てみよう」では、「逆さ日本地図」や「アジア回転地図」を見せて、固定的な世界観を壊すところから始めるのはかなりインパクトがあった。また、第2章「デザインカタログ」では6つのテーマごとに4~6つの事例が多くの写真やピクトグラム風のイラストとともに掲載されている。
 これらを見ながら「自分にあわせてまちを変えてみる力」って何だろう?と考えた。「自分にあわせて」という部分は、みんなと一緒にではなく、「自分」となっており、協調ということは主眼にない。さらに疑問に感じたのは「変えてみる」の「みる」の部分。「変える力」ではなく「変えてみる」ということは、「試しに」とか「一時的に」といったニュアンスを含んでいる。紹介される事例の中には、活動を始めた「キーパーソンが次々と転居して、活動は終了した」という事例もあるので、まずは「やってみる」という部分に注目しているんだなと思った。別にまちの将来に責任を感じる必要はない。ただ個々がまちに対してやりたいことを自由にやる。そうした住民とまちとの関わりを、韓国・台湾の事例の特徴として着目し、評価をしているということかな。
 第3章では、こうしたまちに対する個々の小さな働きかけに注目して研究や活動をしているランドスケープデザイナー、社会学者、建築家、そして台湾の都市づくりを研究する研究者との対談が掲載されている。中でも銀座における「工夫と修繕」のフィールドワークを行っている社会学者の加藤文俊氏の話は興味深い。最後の第4章では、韓国・台湾・日本のまちづくりの歴史がまとめられている。
 アジア的・近隣。でも違う国。面白いけど、そのまま日本で成り立つわけではない。いや、国内だって、特定の地域の事例を他都市でそのまま適用したってうまくいくはずがない。だから、事例を勉強するというよりも、まちに対する個人の関わり方はいろいろあるということを学んだという感じ。それで実際に「自分にあわせてまちを変えてみる」かどうかは、それぞれの考えとまちの環境にかかっている。変えればいいというものじゃない。でも、「変えてみる」ことはできるということを知った。それを啓発するための本だったのかなと思った。

自分にあわせてまちを変えてみる力 -韓国・台湾のまちづくり

自分にあわせてまちを変えてみる力 -韓国・台湾のまちづくり

○普通の人々の生活の中でさまざまなものが混じり合った結果から空間や習慣が生み出され、それが長く続くことによって、生まれてくるものが伝統や正統性である。・・・そう考えると、まちづくりにおいて発言する「自分にあわせてまちを変えてみる力」こそが伝統や正統性をつくり出すものであると考えることができる。・・・それを伝統や様式で整理するのは後世の歴史家に任せておけばよい。(P16)
○個人の表現に対する渇望と、それを個人の手が及ぶ範囲で懸命に実践していること、それが集積して結果的にまちの風景を変えるほどの効果を持っている・・・。日本はまちのパブリックに対する感覚が欧米と違い、市民が積み重ねてきた実感がないんじゃないかと思います。・・・パブリックとプライベートの境界を飛び越えるものとして、場所をパーソナルにするという行為はひとつのヒントではないでしょうか。(P91)
○僕たちには、見てほしい、気付いてほしい、かまってほしいというある種の「見せたい欲」があります。・・・「私がこんなにしました」っていうことを、みんなに承認してほしいという欲求がある。・・・その裏返しで、僕たちには、隣の人の生活を覗きたいというような欲求もあります。つまり「見たい欲」です。・・・僕たちは・・・自分の生活時間を組織化していく中で、「見せたい欲」と「見たい欲」との接点を探っているわけですよね。(P98)
○植民地下の台湾では、土地への補償さえする必要がなく、政府は建物を取り除くだけで都市を切り裂くように道路をつくれた。だから街区の内側には昔からの華南都市の魅力が残され、台湾人は合って物を全部壊すことなしにパッチを当てたり、造作を変えたり増築したりするトレーニングを積んできた。・・・台湾にかぎらずアジアのおもしろさって、その背後に植民地支配という負の歴史があるという視点も重要なんじゃないかと思いますね。(P103)
○早くに民主化した日本を見ていると、その後の時間の中で、民主化は「空気のように忘れられていく」という流れを辿り、その一方で間接民主制を支えるさまざまな仕組みが充実化していくという流れを辿る。相矛盾するようだが「空気化」と「充実化」がポスト民主化のキーワードである。(P141)