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地域再生の失敗学

 タイトルに「失敗学」とあるけれど、失敗事例が多く挙げられているわけではない。経済学者の飯田泰之が、地域活性化支援の専門家・木下斉、地域経済学の川崎一泰、経営学者の入山章栄、農村計画の専門家・林直樹、そして若くして千葉市長になり2期目の熊谷俊人の各氏に講演を依頼し、対談を行う。それぞれまったく異なる視点から地域再生を実践し・考察しており、どのパートも一様に興味深い。
 まず冒頭で、「地域再生」の定義を挙げる。「地域」とは、「中心となる都市とその都市に通勤・通学する人口が一定以上いる周辺地域を合わせたもの」、そして「地域における平均所得が向上すること」をもって「再生」と呼ぶ。つまり経済的な視点で地域再生を捉えるということである。もちろん他にも地域の人口や伝統、コミュニティなど評価すべき指標はあるだろうが、経済的な向上を定義に掲げることで、地域再生の捉え方がはっきりする。そして以降の議論や考察がすっきりと捉えやすくなる。「地域合意はプロセスであって、結果とは関係ない。」「それぞれの収支がしっかりと黒字になること。意味のあることをやっているから赤字でもいい、という開き直りが最も地域を衰退させる」といった主張がよくわかってくる。
 入山章栄氏が紹介する「トランザクション・メモリー」という概念(何を知っているかよりも、誰を知っているかの方が遥かに重要)、「フェイス・トゥ・フェイスでのやり取りが重要」なども最近はよく言われることだけど、「住みやすさが重要」という地域再生にとっての最重要キーワードに辿りつく。これは千葉市長の熊谷氏が言う「行きたくなる場所」と同じだ。
 地域経営的な話が多い中で、東大農学部の林直樹氏の「自主再建型移転」の勧めはかなり異質。私も最初、眉唾で読み進めたが、林氏が言っているのは、1970年代までに行われた自発的な集落移転が今後の地域再生にとって選択肢の一つとなり、また可能性があるということ。実際にこれを実現させるのは難しいかもしれないが、実施できれば確かに地域再生への大きな可能性となる。移住後の国土の荒廃といったデメリットに対して、きちんとそれは誤解であると反論している点も興味深い。
 一部の地域における活性化策は、その地域、その人がいて初めて可能になるのであって、それができるのはほんの一部に過ぎない。ではその他の多くの地域はどうすればいいのか。そう考えれば、地域所得の向上に絞って目標を設定し、そのために何をするかと考えるのは有効かもしれない。「夢」も大事だが、「現実」をしっかりと読むこと。そして切り捨てるべきところはしっかりと切り捨てる。そうすることで初めて何をすべきか、将来の姿が見えてくる。地域に縛られる必要はない。今、地域に住む人がいかに幸せに生きていくか。人ベースで考えれば解決への道は自ずから見えてくるのかもしれない。熊谷市長の話も大変参考になった。千葉市、けっこう面白い。

地域再生の失敗学 (光文社新書)

地域再生の失敗学 (光文社新書)

○役所は競合関係の中で合理的な選択を考えようというよりは、地域内での合意を優先してしまいます。しかしそれは、結果とは関係ありません。地域の合意はプロセスであって、実施する事業による成果とは別の話なのです。少なくとも合意すべき内容は、外的競争環境から考えないと、誤ったプランで皆が合意して大失敗してしまうことさえあります。(P47)
○地方都市が人を惹きつけるためには、まずは住みやすさがもっとも重要でしょう。あとは人を集めるちょっとおしゃれなカフェがあって・・・バーベキューができる河原や公園がある……そんな小さなことで十分なのだと思います。・・・人を呼ぶのは、魅力的な人です。その魅力のある人をどうやって惹きつけるか、そこに知恵を注ぎ込むべきなのだと思います。(P163)
○まちづくりのドクトリン(基本方針)の不在を感じます。戦略が行き当たりばったりにならないためには、絶対変えてはいけない価値観に基づく方針がいるわけですよね。戦略を支える方針が、まず存在していない。/現状への固執さえ捨てれば、「地縁を守る」といったドクトリンを維持する方法はいくらでもあると思っています。・・・本当に大切にしているものは何なのかという議論をしっかりやってほしいですね。その上で守るべきものをいったん極限まで絞り込む。濃縮還元ではありませんが、一度削ぎ落とすことができれば、またつけることは容易です。(P247)
○[飯田]・・・経済に限らず、「地域が元気であるための条件」として、どんなことがあるとお考えでしょうか?/[熊谷]行きたくなる場所であること、これに尽きると思いますね。それは住みたくなるのでも、働きたくなるのでも、遊びに行きたくなるのでもいい。・・・既存住民の幸せを拡大していくための施策は、福祉をはじめとしたさまざまな領域で技術的にやっていかなくてはならないわけですが、「次に来る人たち」がいないと、やはり続かなくなります。「行きたい」場所であり続けることは未来のための政策課題なのだと思います。(P289)