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競わない地方創生

 またもタイトルに釣られて久繁哲之介氏の本を読んでしまった。前に「地域再生の罠」を読んだ時にも、最終的には批判的な感想を持ったのに、同じ愚を繰り返してしまった。もっとも部分的には面白い提案も多いし、基本的な方向性が間違っているわけではない。しかし経営再生的な視点で地方行政を書くと、どうしても視野が狭くなってしまう。行政の業務は地域活性化だけではないし、行政に求められているのはたぶん市民の幸福であり市民とともに歩むことだ。たとえそれで地域が衰退したとしても。
 しかし、弱者(地方自治体や中小企業)が活性化するには、競争しないことだ、という提言は正しい。そのためには、カネではなくコミュニティ(世話を焼く)こそが重要。そして市民と「真の意味で協働する」ことが重要と説く。「真の意味で」とは、市民が共感し、市民が主役となり、市民が創造する。行政はあくまでそれをサポートする姿勢でいることだ。だが実際は、そんな市民は少ないし、行政もいつまでも待っていられない。何より中央集権の仕組みがそれを許してくれない。だから地方は衰退する。それは地方の責任ではなく、国が地方を衰退する方向に持っていっているのだ。
 副題である「人口急減の真実」についても、増田寛也の「地方消滅」をきちんと批判し、逆に原田曜平の「ヤンキー経済」を評価している。そのことは正しいと思う。地方はたぶんこのまま消滅はしないし、本当に苦しいのは大都市の方だ。コミュニティの支えの元で自活できる地方こそがこれからの時代は生き残っていく。そして多くの地方は、行政の如何に関わらず生き残る。ただし、より優秀な公務員がいる自治体、思い切った施策を講じた自治体が一刻輝くときがあるだろう。しかし結局最後はどの自治体も一緒なのだ。
 自治体の優劣は経営的な視点だけでは決められない。地域の活性化とは結局何だろう。「地域再生の罠」の感想の最後に「地域再生の本質は、経営的な発展ではなく、地域の存続である」と書かれている。これは自分の文章なのかな。でも今も本当にそう思う。地域再生とか地域活性化とか地域創生なんて類の本は山下祐介以外もう読まないことにしよう。そんなことを思ってしまった。あ、この間、地域再生本を1冊買ったっけ。いや、やっぱり地方が健全に存続していくことは重要だ。そんなエールの気持ちだけは変わらないのだが。

競わない地方創生 ―人口急減の真実―

競わない地方創生 ―人口急減の真実―

○ビジネスで成功する基本は「真似をされにくい」独自性の高いビジネスモデルを構築すること。これが・・・「競争しないで、成功する」方法である。/しかし、弱者(地方都市や中小企業)の多くは、この逆を行って衰退を加速させている。すなわち「真似しやすい」成功事例を皆が真似をして、皆が同じルールで競争することとなり、皆が疲弊する。(P002)
○現代はコミュニケーション能力の高い者が、結婚と就職で、勝ち組になれる。しかし自治体が主催する「婚活パーティーという結婚支援事業」や自治体が採用する「地域おこし協力隊という就職支援事業」には、勝ち組でない者が参加する。したがって、自治体が成果を出すためには「参加者のことを、徹底的に世話を焼く」必要がある。それが自治体の仕事だ。(P025)
○顧客と協働する企業は、売上高が上がるし、営業員の定着度・能力も高まる。しかし、・・・顧客を攻略するが如く営業をかける企業は、売上高が落ちるし、営業員の定着度・能力は低い。/衰退し続ける地方の商店街など企業や地方自治体は、顧客・市民を攻略する対象とみなす意識が強い。これを協働意識に改めると、衰退した商店街など企業は再生できる。(P128)
出生率が大都市より地方の方が高い理由の一つに、農業を含む自営業という家族経営の働き方が、大都市より地方の方が普及していることがある。/保育所に子供を預けたいという「現象の表面」だけを見るのではなく、自分で育児もできる在宅勤務や家族経営という形で働きたいが難しいという「原因」を考えた人口減少対策が求められている。(P212)
○弱者(地方都市、地方自治体、中小企業、零細農家)は、競争してはいけない。自由裁量と責任をセットで権限委譲された組織内の個人が遊び心を持って、顧客価値を創造すれば、競争しないで成長することができる。(P249)