「人口減少時代の都市」の後ろには「経営戦略」と補えばいいのだろうか。経済学者から見た成熟型の都市政策の提言。だが、書かれていることにそれほどの意外性はない。むしろこれまで都市計画の研究者が言ってきたことを経済学者の観点から言い直したような気がする。
第1章「人口減少都市の将来」で都市財政の人口減少による問題を指摘した後、第2章「『成長型』都市経営から『成熟型』都市経営へ」で紹介されるのは、意外にも戦前・戦後の都市経営。関一の大阪市の都市政策と、神戸市の宮崎市長による都市経営だ。そして第3章「『成熟型都市経営』への戦略」で提言されるのは、ランドバンクを活用した空き家・空き地の活用と、自治体による電力供給事業への参入など。そこでは高松市丸亀町商店街の取組や富山市のLRTと一体となった中心市街地整備事業、ドイツのシュタットベルケ、さらに長野県飯田市の住民参加の取組や神奈川県秦野市の公共施設再配置の取組などが紹介されている。
しかし思うのは、結局これらの取組は、集中と選択による一部地域における経済活性化の取組であって、衰退地域での取組ではないのではないか。それに対して筆者が提案しているのが、未利用地の公園や緑地への転換。だが、それも経済的視点からは、豊かな自然・緑地の存在による資産価値の維持・上昇といった形で評価せずにはいられない。そしてそれを進めるための自治体による公営事業の推進。しかし本当にそれで大丈夫なのか。また失敗する自治体が多く出現するだけではないのか。
人口が減少し、地域経済が全体的に衰退する状況の中で必要なのは、戦略的な都市経営ができない凡庸な自治体でも存続し、住民が満足と幸福のうちに生涯を送ることができるような自治体運営ができる制度や仕組みではないか。本書のような提言を実践することにより、成功できる自治体はいい。成功できない自治体をいかに支えるか、失敗する自治体をいかに生み出さないかが今、求められているような気がする。
本書の中でもっとも評価したいのは、空き家・空き地を緑地へ転換することを好意的に捉えている点。結局、人口減少というのは、どう考えても、居住地の減少にならざるを得ないわけで、その減少分は緑地などにするしかない。それをどう達成していくか。それが都市づくりという点で求められる。都市経営的視点でそれをどう進めていくことができるか。経済学の立場からはその点で前向きな提言を期待したい。
- 作者: 諸富徹
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2018/02/21
- メディア: 新書
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○現代の自治体は、人口減少下で税収の伸びが期待できない中、市営事業を通じて都市財源を開拓していった戦前の都市経営の経験から、多くの教訓を引き出すことができるのではないだろうか。特に電力供給事業は、2011年3月の福島第一原発事故後、環境が大きく変わり、再び自治体が参入可能な事業領域となった。(P55)
○成熟段階の都市政策では、投資の優先順位を社会資本という物的投資から、自然資本、人的資本、社会関係資本という非物的投資へと、重点を移行させる必要がある。・・・これら「拡張された資本」へ投資を行い、その厚みを増すことは、成熟都市にとって、まず経済成長の源泉となるだけでなく、市民の福祉水準の向上に直接的に好影響を与える。さらに、もちろん経済成長で所得水準が上昇すれば、そうした経路からも、市民の福祉水準を押し上げられることになる。(P104)
○空き家問題を解決することは、都市空間を再編し、緑豊かな街区を形成する千載一遇の機会としてとらえてはどうだろうか。所有者が利用可能性のない空き家の所有権を手放したくない場合は、ランドバンクが解体を請け負う代わりに、その利用権を、時限を切って譲り受けて緑地化することが考えられる。他方、所有者が不明な空き家の場合は、所有権をランドバンクに移転させたうえで解体し、コミュニティの生活の質向上を狙って恒久的な公園、ポケットパーク、緑道、広場などを計画的に設置していくことが想定される。(P139)
○ランドバンクがまちづくり事業に踏み込むとき、その成否は、空間再編事業の終了後にそこを利用する住民とそのコミュニティにかかっていることを忘れてはならない。・・・事業の当初から、コミュニティの住民たちが空き家問題をどのように解決し、自らの生活の質を高めるために何が必要かを議論し、空間再編後のコミュニティの姿について、設計図を描いておく必要がある。(P139)
○都市空間の経済的利用を最優先したこれまでの「人口増加・成長経済型の都市経営」とは異なり、「成熟型の都市経営」では、自然資本をもっとも重要な資産かつ戦略的資源と位置づけ、積極的な投資対象とみなすべきである。・・・日本では、公園・緑地は経済的価値を生まないために・・・きわめて低い優先順位しか与えられてこなかった。しかし今後はその発想を逆転させ、都心部が貴重な経済的空間だからこそ公園・緑地を配置することで、その土地・不動産の経済的価値が高まることに留意した開発を行う必要がある。こうした公園・緑地の経済的作用は、都市政策の観点から、もっと注目されてよい。(P149)