建築士制度の矛盾

 新年早々、建築士のあり方について議論をしてしまった。
 昨今、ゼネコンでは建築系学科を卒業した社員に、一級建築士よりも一級建築施工管理技士を取得するよう勧めることが多い。一定規模以上の工事現場には監理技術者を配置する必要があるが、監理技術者の資格取得には一級建築士又は一級建築施工管理技士であることなどが条件となっている。では、一級建築士になると何ができるかと言えば設計業務であり、設計部門のある建設会社では当然、一級建築士の資格は有用だが、施工専門の建設会社では一級建築施工管理技士を持っていれば足りる。そこで上記のような状況となる
 こうした中、建築士会の役員の方から、「一定の大規模な建築工事については、一級建築士の資格のある監理技術者を配置すべきではないか」という意見があった。その方が理由に挙げたのは、(1)施工者からのVE提案にあたり、施工に特化しない建築士の役割が重要、(2)工事監理(建築士の専管業務)にあたり、工事の品質管理は実質的に施工者が担っている実態から工事監理者と施工者の建築士が二重で検証をする意義が大きい、の2点だが、これは工事監理において建築士が実質、その役割を十分担っていないことの裏返しのような気がする。
 ただ、この方がこうしたことを提案する意味はよくわかる。「一級建築士は足の裏の米粒。取らないと気持ち悪いが、取っても食えない」とは昔からよく言われるが、それでも以前は、設計事務所に勤務する者はもちろんのこと、公務員や建設会社の社員なども一級建築士の資格取得を目指した。しかし、姉歯事件があって建築士法が改正されて以降は受験資格の審査が厳格化され、設計業務に特化した資格になっている。
 一方で、既に一級建築士の資格を持っている公務員や建設会社の幹部などは、一級建築士は建築関係のオールマイティな最上位の資格だという意識があり、また一般的にも、一級建築士は一級建築施工管理技士などよりも高度な資格だというブランドイメージがある。建築士会では、一般の建築士の上位資格として、専攻建築士の制度を創設しているが、団体による認定・登録資格であって、国家資格とはなっていない。また、建築設計の中の特定の分野の専門的知識等を有する建築士として、構造設計一級建築士と設備設計一級建築士がある。こちらは国家資格となっている。
 要するに、建築士は制度的には姉歯事件以降の建築士法改正により、設計業務により特化した資格になっているが、それ以前に建築士資格を取得した者や社会一般にとっては、以前のブランドイメージが抜け切らず、混乱しているということか。設計業務を行う建築士は定期講習の受講が義務付けられているが、日常的に説教業務を行わない公務員などは定期講習を受講していないことが多い。そこで、こうした建築士は定期講習未受講建築士としてきちんと差別することで、建築士のブランドイメージを変えていく必要があるのかもしれない。
 建築士が設計業務に特化した資格だとして、その場合に問題になるのが、建築基準適合判定資格である。一級建築士が設計したものを審査するという業務のためか、現在、この資格は一級建築士の資格を持っていることが条件となっている。そして建築士の資格取得のためには製図試験に合格することが必須である(それもなぜかいまだに手書き)。建築基準適合判定の業務は他人が書いた図面を読み取り審査するので、自ら図面を書く必要は全くないが、その試験に合格しなければ受験資格も得られないというので苦労している公務員や民間建築確認機関の職員は多い。
 ここはやはり、建築基準適合判定士という資格を建築士資格とは別のものとして設置すべきだろう。設計業務を行う「設計建築士(・構造設計建築士、設備設計建築士)」、審査業務を行う「建築基準適合判定士」、施工管理を行う「建築施工管理技士」と資格を明確に分けることで見通しがだいぶよくなる(この際、建築士も名称を「設計建築士」に変更すべき)。
 それでは従来の、設計業務を行っていない建築士はどうするのか。これは試験などやめて、建築学科を卒業したものは全員、「建築士」にしてしまえばいいと思うのだが、さすがそれは暴論だろうか。建築士とは建築学士(修士・博士)の略だと思えば違和感はないと思うのだが、どうだろう。