春恒例の建築学会東海支部都市計画員会「春の見学会」に参加してきた。今年は刈谷市。日本政策投資銀行の藻谷氏が「日本一寂れた中心市街地」として各地で講演して回り、地元でも話題になっていた2005年に中心市街地を見学したことがあった。今回、7年ぶりにまちを歩いた。
この間の最大の変化は、駅南の再開発事業が完成・オープンしたことだろう。1973(昭和58)年に刈谷市公社が旧タイル工場跡地を取得して以来、運動公園として利用されていたJR刈谷駅南の一等地で再開発事業の検討が始められたのはもう20年近く前のことだ。1997(平成9)年に当時の住宅都市整備公団に施行要請をして以来、権利者調整等が進められてきたが、ようやく2007(平成19)年に工事着手。翌2008(平成20)年には商業施設棟がオープン。さらに2009(平成21)年には住宅棟も竣工し入居開始。一昨年の2010(平成22)年4月、刈谷市総合文化センターがオープンして、全体事業が完了した。
商業施設には岐阜を拠点に近年業績を拡大してきているバローを誘致。住宅棟には126戸の分譲・賃貸住宅が建設された。また、刈谷市総合文化センターには1541席・288席の大ホール、小ホールが整備され、生涯学習センターとして多くの会議室等が並んでいる。
UR施行でそのノウハウを活用。特定建築者制度を活用し、商業施設・住宅施設の保留床を民間に譲渡。また刈谷市も公益棟の保留床を取得。棟毎に土地を分筆し、容積率も都市計画上400%を220%の利用率に留めるなど「身の丈再開発」に留意した点が特徴だ。
特に市職員の方が強調していたのが、バリアフリーへの配慮。福祉団体の協力を得て、設計段階から使いやすい施設整備を検討。エレベータのフットスイッチなど様々な設備や工夫がされている。商業棟の正面には、建物愛称の「みなくる刈谷」の名前を取った「みなくる広場」が整備され、ステージやミスト設備等を設置。ストリートミュージシャン等の利用もあるようだ。
また、刈谷駅南北連絡通路から円弧状を描くペデストリアンデッキでそのまま2階レベルにつながる動線処理もきれいだ。デッキから見下ろすように、駅南口の駅前広場や駐輪場も整備された。ちなみに再開発地区の南側には、保健センター、子育て支援センター、健康づくりを促すげんきプラザが入った刈谷市総合健康センターも2011(平成23)年春にオープンしている。
「みなくる刈谷」の会議室で市職員の方に説明を受け、再開発事業の各施設を見学。続いてデッキと刈谷駅南北連絡通路を渡り、駅北口に出る。刈谷駅北口駅前広場も2006(平成18)年に再整備され、企業送迎バスの乗り入れにも対応できるようになった。デッキを進むと広場北側の広場に降りる。ここは市が民有地を買い上げて、広場にした。刈谷駅前商店街振興組合の有志がプランター等の管理をしている。
続いて、中国料理「香楽」で刈谷駅前商店街振興組合の杉浦理事長から、商店街活動について話を聞いた。
1999(平成11)年に刈谷市中心市街地活性化基本計画(旧法)が策定されたことをきっかけに、2002(平成14)年、350万円の補助を受けて、競争力強化基本構想を策定。グルメマップの作成やグルメツアー、地域情報誌Eライフの発行、花いっぱい運動などを開始した。2005(平成17)年には商店街の中に増えてきた風俗店との懇談会を開催。桜小路連絡会として継続開催し、2007(平成19)年からは風俗店の従業員が派手な仕事着のまま、月1回地域の清掃を行う「花と蝶のパトロール」を実施。現在も継続し、警察から感謝状も受けている。またこの年には、地元の愛知教育大学と連携しアクアモールイルミネーションを始めた。「アクアモール」とは明治用水上に延びる通りの愛称で、用水から水を汲み上げ、通り沿いに水のモニュメントが整備されている。
そして2008(平成20)年、第1回「ほろ酔いカリアンナイト」が開催された。「店自慢の一品とドリンク一杯」のチケットが5枚綴り3500円(前売り)で振興組合加盟店舗(2011年秋は56店舗)を自由に飲み歩くイベントだ。大変好評で年に2回、既に7回開催されている。
2009(平成21)年には大学生の活動拠点づくり事業として、アクアモール沿いの空き店舗を活用し、スペースAQUAがオープンした。さらに2010(平成22)年度には第1回カリアンゼミの開催。こちらは商店街内の店主等が講師となってミニ講座を行うもので、岡崎で実施されている「岡崎まちゼミ」と同様の取組だ。
昨年2011(平成23)年には「情報誌あくあ」を創刊。年4回発行で、地域密着のイベント情報や店舗紹介などが満載だ。そして2012年1月14日、県下最大級、250対250の合コンと銘打った「第1回カリコン」が開催された。20歳以上2~4名のグループで申し込み、男性は6500円、女性は3500円の参加料を払えば、19時のスタートから23時の終了時間まで飲み放題。最初の店は指定され、30分過ぎたら強制的に次の店に移動。これを繰り返しては偶然隣り合わせた異性グループとの交流を楽しむというもの。地元TV局にも大きく取り上げられ、さっそく「第2回カリコン」は、500対500に拡大して、この週末4月14日に予定されている。
こうしたイベントへの参加を期待して商店街振興組合に加盟する店舗も増加している。またこれらの活動に対して2012(平成24)年3月には、愛知県地域づくり活動表彰も受けている。
理事長の杉浦氏は、今期で理事長からの退任を口にするとともに、まちづくり会社を設立して、補助金頼りではない活動を行うことを計画している。ちなみに駅南再開発事業に対しては、地元住民との連携や参加が十分でないと批判的であった。
話を伺った後、商店街の見学。さらにみんなと別れ、数人で7年前に歩いた東陽町商店街と銀座新町商店街に向かった。東陽町商店街は通りの北側の店舗がほとんど閉店し解体され、大きな空き地が広がっている。南側の刈谷名店街ビルは上部の県営住宅は入居者が退去し、1階も空き店舗が目立つが、NPO法人が運営する「かたーら」は元気に開店していた。取り壊し計画が進んでおり、近いうちにまた新たなまちの顔が出現するかもしれない。
銀座新町商店街は、周辺の商店街と合併し現在は、かりやセントラル商店街と言う。銀座通りは道路拡幅のための用地買収が進められているようで、道路後退した新築住宅や空き地の間に老朽化した建物がぽつんぽつんと残る状況になっていた。かつて1階が店舗の市営住宅があった土地も撤去され空き地となっている。駐車場になった広大な空き地は昔のままだ。その隣で優良建築物等整備事業により建設された高層マンションが2棟そびえ、現在さらに3番目の地区整備が進められている。
商店街と言うにはあまりの惨状にびっくりしたが、整備中の過渡的状況と思えば仕方がないか。通りに面してレトロな外観の銭湯「刈谷浴場」はまだ現役のようだ。さらに西に進めば亀城公園に続くが、だいぶ暗くなってきたのでここらで引き返してきた。
7年という歳月は刈谷の街を大きく変貌させた。駅南再開発は駅を降りた時の展望を一変させたし、駅前商店街振興組合の活動にはびっくりする。豊富な財政力を活かし、刈谷市役所も建て替えたし、基盤整備・施設整備にはカネを惜しまない。だがそれが本当に市民の活性化につながっているのかと言うと、よくわからない。商店街振興組合は市補助金をうまく活用し、したたかに活動を進めている。今後の変化にも注目していきたい。
○参考
・マイフォト「刈谷のまちづくり」・・・その他の画像はこちらにあります。
・中心市街地研究会「刈谷市の中心市街地」