北海道の移住・定住政策

 豊橋技術科学大学の谷先生から 、北海道の各市町村で実施されている移住・定住政策についてお話を伺った。以下、簡単にメモを残すが、資料配布はなかったので間違いはご容赦いただきたい。

 北海道では、道主導の下、道内の市町村が参加して、平成17年度に北海道移住促進協議会が設立された。当協議会では、北海道への移住・定住を希望する人々に向けて参加市町村の活動を紹介するとともに、毎年、東京・大阪・名古屋で北海道暮らしフェアを開催している。現在参加している市町村は道内179市町村のうち98。年5万円の会費等で運営されている。

 谷先生によれば、移住・定住は手段で、目的は地域の再生・振興・活性化。このため、(1)相談窓口の開設、(2)空家バンク、(3)宅地分譲、(4)お試し居住、(5)生活支援、(6)住宅建設費補助等の施策が行われている。一気に定住ではなく、段階的移住を可とすることで、短期滞在でも地域振興につながればという意識が見られる。

 調査のため、昨秋に道内のいくつかの市町村を訪問し、ヒアリング等を行ってきた。先日は、厚真町、黒松内町八雲町、厚沢部町の4町の状況を報告いただき、意見交換をした。

 厚真町は、人口5000人弱の苫小牧東部に位置する町で、人口は減少傾向にあるが、新千歳空港からの距離も近く、北海道の中では温暖な気候で首都圏のリタイア層の移住が多いようだ。行われている施策は、400~500区画に及ぶ宅地分譲、町営住宅、ちょっと暮らし体験、空家バンクとリフォーム補助など。

 黒松内町は、人口3000人強。札幌と函館のちょうど中間に位置し、ここもお試し移住体験、分譲宅地、空家バンク、町営住宅、住宅建設・購入費補助などを実施している。お試し移住体験施設は4タイプ。新築の2棟は地元建設業者が建設している。この町の施策の特徴は、地元建設業者と連携し、建設費補助が上限200万円と手厚いことだ。

 八雲町は、北海道の尾のくびれの部分、太平洋と日本海の2つの海に面する人口2万人弱の町で、今回調査した中では商業施設や交通網など最も都市的環境を有している。移住政策としては、民間建設業者等と連携し、移住推進協議会を設置。無償の宅地分譲等を行うとともに、移住体験ツアーを実施し、効果を挙げている。

 厚沢部町は函館の西に位置する人口2000人の小さな町で、交通の便も悪く、観光資源にも乏しいことから人口減少が続く過疎の町である。「過疎」を逆手にとって、「素敵な過疎づくり株式会社」というまちづくり会社を設立、ちょっと暮らし住宅を4棟建設、住宅建設費補助なども行っている。

 総論として、北海道移住促進協議会による移住フェアなども開催されているが、移住を考えている人にはホームページが最も効果が高いこと、民間と連携した取組みが効果を上げていること、補助金頼みという実態が見られることなどを挙げていた。また、体験居住は北海道全般で行われているが、元気な高齢者等が長期避暑や観光旅行の拠点として利用されている実態があることなどから、体験居住の位置付けの再検討が必要などの課題を挙げられ、地域の実情に合わせた取組みが必要と総括していた。

 足助町へ出向し定住施策を担当していた当時のことを思い浮かべながら聞いていた。やはり若い世帯の移住には職場の確保が最大のネックという点は、北海道と言えども変わらない。手に職のある熟年層の移住が経済的効果を上げている事例もあるようだが、レアなケースと言える。空家バンクは登録物件が少ないのはどこも同じこと。住宅建設費補助は意外に小額。移住・定住希望者で新たに住宅建設ができる人は少ないし、多くはある程度資産を持った高齢者になってしまう。

 足助町でも、短期体験居住の要望は多く、合併後の豊田市になってから、旧足助町内でも古い空家を3軒、定住体験住宅として実施している。HPを見た感じではそれほど利用されていない印象だが、北海道では確かに観光目的で利用されるケースも多いだろう。

 北海道の場合、地域住宅モデル普及促進事業を活用し、9割の国庫補助を得て、建設をした施設がいくつかあった(この事業は全国的にも多くの都道府県で利用された)。地元建設業の振興策という面も強く、また短期であっても町内に滞在すれば、少なからず経済効果もあるのだろう。谷先生は、裕福な高齢者と地元建設業者を優遇する政策ではないかと批判していたが、過疎地への所得再配分という側面があることは否定できない。短絡的な地方振興策ということ。

 もちろん日本全体の人口が減少していく中で、過疎地の市町村がいかに生き残っていくか。直接的な振興策と同時に、地域の特性を踏まえた中長期の対策が必要なことは言うまでもない。

 「移住・定住」というが、何を持って定住というのか定義があるわけではない。5年以上、または10年以上を約束して補助金を支給している市町村が多いようだが、裕福な高齢者に元気なうちだけ移住してもらい、病気等になったら戻ってもらう、地域の魅力を生かした元気移住の仕組みもある程度意味があるかもしれない。

 これは住み手側にも、居住地に対する意識を問い直すものだ。年代や状況に応じ住み替えていくことを前提とすれば、移住施策というのは地域にとっても住民にとっても意味のある政策になる。いや、建設・不動産業界にこそ最も意味があるのか。それもあるだろうが、どんな人生をどこで過ごすかということをもっと考えていいかもしれない。