納屋橋東再開発ビル「テラッセ納屋橋」

 名古屋の堀川・納屋橋南東の一角で建設が進められていた再開発ビルが完成し、7月に竣工式典があった。既にマンションの入居は始まり、テナントである読売新聞も営業を始めている。商業棟などは9月にグランドオープンする予定。その前に再開発組合の方から話を伺い、建物を見学する機会があった。苦節30年。準備組合設立からは26年間。日本一長くかかった再開発と自嘲気味に語っていたが、様々な手法を導入して、身の丈に合った再開発事業とすることで、無事完成した。その努力に深く敬意を表したい。
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 再開発地区が西に面する堀川は、ブラタモリでも紹介していたとおり、かつては名古屋城下へ物資を運ぶ動脈として利用された。納屋橋の当地区もかつては尾張藩の米蔵が並び、隆盛を極めた。また明治以降には、再開発地区が北に面する広小路通りが、旧名古屋駅と栄を結ぶ目抜き通りとして明治20年に整備され、明治31年には路面電車も開通。多くの屋台が立ち並ぶなど、名古屋の商業・娯楽の中心として賑わった。しかし、昭和32(1957)年に地下鉄が開通し、当地区の東600m程の位置に伏見駅が設置され、昭和46年には市電も姿を消すと、納屋橋地区は次第に時代の波から取り残されていった。
 こうした中で、市政100年を契機に堀川の再整備が進められることとなり、当地区も昭和63(1988)年、市によって「堀川納屋橋地区市街地再開発事業基本計画」が策定されるに至った。その後、平成3(1991)年には準備組合も発足し、事業化に取り組んできたが、平成7(1995)年、地区の北東部が別事業として切り離され、平成16(2004)年には名古屋東宝ビルとして完成した。その後、平成13(2001)年には当初計画の区域に入っていた堀川河岸地区を市が単独整備をするということで分離され、さらに平成16(2004)年には段階施行を目指すという観点から、敷地南部分が分離され、現在の区域に至っている。
 その後、平成17(2005)年には事業参加企業の提案募集を行い、平成19(2007)年、「納屋橋ルネサンスタワーズ」構想として発表された。しかし、平成20(2008)年にリーマンショックが発生。事業環境の悪化などから、平成22(2010)年、ついに事業協力等の覚書を解除。事業は一から見直すこととなった。そこで、平成22(2010)年にUR都市機構へ技術支援の協力を要請。大幅な事業スキームの変更を検討した結果、平成24(2012)年、改めて事業協力者を募集。清水建設大日本土木等の建設業者と野村不動産・ユニー棟の保留床取得者からなる納屋橋HUBグループが選定された。
 グループの提案を元に平成26(2014)年に都市計画の変更決定、再開発組合の設立認可を経て、7月に除却工事に着手、翌年には施設建設工事が本格着工した。その後も地下構造物の越境問題など種々の課題があったが、着実に解決。平成28(2016)年には分筆別棟での建設とした中京海運ビルが竣工、開業した。そしていよいよ6月30日に本体建物が竣工、引き渡しが行われた。また、事業完了後のエリアマネジメントを担うため、3月には「テレッセ納屋橋発展会」も設立している。
 再開発組合はその後の残務も終えて、年内には解散の予定。説明をいただいた丹羽さんにはUR在職中から、退職後、再開発組合事務局長としての最後まで、実にご苦労さまでした。改めてねぎらいとお祝いの言葉を贈りたい。
 さて、この再開発事業の一番の特長は、容積率に余裕を持った身の丈の建物計画と、分筆・分棟型の権利変換が行われた点だろう。地区内は大きく3つに分筆され、先に竣工した業務棟は中京開運(株)が単独で敷地も建物も所有。店舗棟は1社が敷地を所有し、事業用定借により、ユニー(株)が店舗棟を建設した。また、広小路通りに面する商業・業務棟と住宅棟は別棟で建設し、将来的な建替えにも対応できるようにしている。
 当日は丹羽事務局長の説明の後、施設を見学した。納屋橋の交差点に面した商業・業務棟は5階建て。1階に大楽共立銀行が入り、上層部は読売新聞が支社を構える。銀行はまだオープンしていないが、午後3時以降の開店営業も検討しているということで、開店後の賑わいが楽しみだ。
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 その南側には湾曲しつつ段状にデッキが重なる。この景観は見事。特に堀川の対岸から見ると、うまくセットバックして空間にゆとりを与えている。デッキ下の1階には飲食店と駐車場への入り口。2階・3階とデッキを上がるにつれて堀川を見下ろす視界も開け、川沿いに流れる風も気持ちいい。2階のデッキに面して飲食店。そしてそこから公開通路が東側に延びて、東側道路へとつながっている。また、公開通路に面してクリニックが入店する医療モールができる予定。マンションへの入り口も2階になる。ちなみにデッキは3階建てで、4階には屋上緑化がされている。
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 住宅棟は地上29階建て。住宅戸数は347戸。野村不動産等が販売するプラウドタワー名古屋栄で、エントランスロビーは広く心地よい。既に入居が始まっており、引越し作業をする作業員等が出入りしていた。各住戸に入るには3重のオートロックで、エントランス、エレベーターホール。そして各階の住戸への出入りも専用カードが必要となる。2階エレベーターホール脇にはママズラウンジがある。他にもパーティルームやライブラリー、ゲストルームなどもあるとのこと。最上階の屋上デッキまで上がらせてもらったが、リニア開通に向けて開発が加速する名駅周辺の超高層ビル群、そして笹島地区もだいぶ施設が整ってきたようだ。
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 ユニーが入る商業棟が9月オープンに向けて内装工事中で見学はできなかった。堀川に面して窓がないのはいかがなものかと思うが、ユニーが狙うのは近隣住民等のはずで、オープン後、どんな様子か、また訪れたい。ちなみにデッキ下の1階に飲食店が入る他は駐車場。2階は食品を中心とした都市型コンセプトの「ラ・フーズコア」、そして3階はホームセンターのカインズがテナントとして入店予定と聞いた。
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 見学後、堀川向かいの高山額縁店下、カブトビール名古屋支店「TWILO」で懇親会。ここは戦前5大ビールの一つ、半田のカブトビールが名古屋で唯一飲むことができる店。堀川に映るテラッセ納屋橋の灯を楽しみつつ、バー感覚でひと時を過ごした。ここでも丹羽さんの納屋橋東地区再開発に対する熱い思いを聞かせていただき、納屋橋の上で楽しく解散。実に楽しい見学会でした。
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PS.
 「テラッセ納屋橋」を8月に見学した後、上記の見学記録を書いたのに、ブログにアップするのを忘れていた。やれやれ。その後、9月末には商業施設もオープンした。それで10月にもう一度、「テラッセ納屋橋」を訪れた。
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 まず驚くのが伏見通り沿い1階にオープンした大垣共立銀行ラッセ納屋橋支店の豪華さ。ATM前のゆったりしたスペースは展示スペースとなり、案内カウンターの奥に接客ブースが並ぶ。ホテルのラウンジのような雰囲気だ。商業施設1階には飲食店などの専門店。そして2階に上がると、L字型のフロアの1辺に「ラ・フーズコア納屋橋店」。ユニーが経営する食品スーパーでコンパクトに商品が並ぶ。郊外型スーパーで見られるような、妻が陳列棚で品選びをする後ろでカートを押す夫といった光景は見られず、一人で買い物をする人が多い。「入店者に対する売上高は高いはず」と同行者が言う。そしてフロアの半分以上をフードコートが占める。
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 さらに3階はカインズが経営する「Style Factory」。床や天井が剥き出しの内装にホーム商品が並ぶ。また同じフロアにはフィットネスクラブと名古屋芸術大学の地域交流センターがあった。確かに、都市型スーパーのコンセプトに違わず、コンパクトだがそれが却っていい感じの賑わいを生み、おしゃれな店づくりを実現している。
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 見学会の終わりにはまた、堀川沿いの居酒屋で乾杯。宴会が終わった後、堀川沿いを歩くと、何とも気持ちがいい。やはり納屋橋は絶好の立地。そしていい施設が完成した。