読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

愛・地球博の環境配慮を伝える施設群

5507 2005年に愛知県で開催された愛・地球博。「自然の叡智」をテーマに、環境に配慮した技術や活動が展示され、多くの入場者を集めた。企業パビリオンや各国パビリオンが並び盛況を極めた長久手会場とともに、ゴンドラに乗って渡った瀬戸会場では、県・政府パビリオンが環境学習をテーマにした展示と自然観察会などが実施された。小さな会場だったし、自然観察プログラムの参加者も事前予約等で人数を制限していたので、行かなかったという人も少なくない。

 その後、長久手会場愛・地球博記念公園(愛称:モリコロパーク)として一部オープンし、現在は本格オープンに向けて市民交流広場の整備の真っ只中だ。一方、瀬戸会場は、愛知県館が「あいち海上の森センター」として再オープンし、自然学習プログラムなどのイベントや研究活動を実施している。今回、瀬戸会場内の自然歩道沿いに林立する施設群を施設計画時に担当されたK氏の案内で見学した。 5539

 愛・地球博は当初、瀬戸会場を含むエリア(通称「海上(かいしょ)の森」)で新住宅市街地整備を行い、万博会場として一時利用する計画であった。ところが、自然保護を理由に万博開催に反対する人々の強力な運動の結果、新住宅市街地整備は中止され、メイン会場を当時の愛知青少年公園に移し開催されることとなった。

 こうした経緯もあり、その後の瀬戸会場の整備にあたっても、自然保護には細心の注意が図られた。

 まず、「あいち海上の森センター」に入るにあたり小さな橋を渡る。その左右、今は生い茂る雑草に隠れて見えない擁壁が設置されているが、通常の重力式擁壁に石積み状の装飾がされている。本物の石積みにはできなかったが、コンクリート面が無骨に現れるのを嫌い、左官工事で擬石にしたものだ。また「あいち海上の森センター」の建物自体が、後背の山を抑えるべく擁壁と一体で建設されているが、建物がない部分にはコンクリート擁壁と並んで、金網に石詰めをした蛇篭を並べ、平地部に植栽をして、自然になじんだ擁壁構造が見て取れる。

5527 敷地上段の脇に、普段はカギ掛けされた遊歩道が延びており、そこから山へ登っていく。歩道は石積みである。熊野古道の石畳を参考にしたと言う。路面に敷かれた石もあれば、蹴上げ部や法面に積んだケースもある。石材は基本的に長久手会場となった愛知青少年公園で使われていた花崗岩を再利用している。法面には版築で土を固めた上に石を積み、急坂では雨水で道が崩れないよう山側に積んで水勾配も山側に、緩勾配では崖側に石を積むなど試行錯誤を重ねて、物見の丘まで歩道を整備した。

 歩いて最初に出会う施設は古窯上屋である。会場調査中に発見された平安期の登窯を蔽い、保存と見学を行う施設で、木造平家の小さな建物ながら、平安期の建築様式に拘り、本瓦・行基葺き、舟肘木、石場立てに八角柱、登窯展示部分は清水寺様の懸け造りで、石積み擁壁の中は版築で付き固められ、束石の間は長七たたきで足元を堅固に固めている。下から見上げると石積み擁壁の上に建物が立ち上がり、雨水は擁壁下の調整池へ一旦導かれ、土砂を沈砂した後、河川へ放流する。ちなみに管路には土管が使用されている。

5541 調整池を設けたのは、放流する河川に絶滅危惧種であるホトケドジョウが発見され、その生態系を守るためである。現在も河川には水量計が設置され、定期的に水質調査が行われ、厳格な管理が行われている。また石積みや伝統木造構法など徹底的に拘ったのも、安易にコンクリートを使用してアルカリ汚染を防ぐという理由からであった。

 木々もまばらな里山の斜面を登ると、次に現れるのは「繭玉広場」である。同じく木造平家の小さな小屋だが、広場に面して迫り出した白い漆喰壁が特徴的。繭玉をイメージしているが、骨組みは竹を曲線状に組み上げ、土を幾重にも塗り上げた土壁に漆喰で化粧をしている。建物は蔵造りをイメージしたそうで、下見板張りに柿渋仕上げのシックな造りになっている。木材はできるだけ会場内にあったコナラを利用するよう努めたそうだが、今もほとんど狂いもなくきれいに仕上がっている。また外には版築の断面が飾られている。

 石畳はさらに上に続いている。石を運び込むには建設用のモノレールを仮設したそうだが、安易に自動車も使えずかなり苦労したようだ。材木を運び出すための仮設の木レールとコロが残されている。

5549 汗も噴き出す頃、ようやく物見の丘に到着する。間伐材の小片ブロックを格子状に組み合わせ積み上げた物見塔は高さ20m近くにもなり、展望台からは名古屋方面まで一望できる。設計は北河原温で、構造設計者の名前も聞いたが忘れた。四隅に鉄材が仕込まれ、足元の鉄土台と緊結されている。シロアリ防止に木製床は地上から持ち上がり、その下には蟻道に利用できないサイズの砂が撒かれているそうである。

 K氏からは「苦労した作品を一度見てくださいよ。」と言われ続け、今回ようやく見せていただいた。確かに「本物の」環境配慮がされた施設群である。K氏が担当を離れた後に施工された部分で一部不満もあるようだが(ステンレスの手すりなど)、その熱心な取り組みには頭が下がる。担当中にメモしたノートも見せていただいたが、ああでもないこうでもないと悩み抜いたメモやスケッチが散見される貴重な記録である。こうした努力がほとんど日の当たることなく忘れられていくというのは本当に惜しい。そう思いつつここにこうして取り上げることにした。少しでも汗と思いが伝わることを願いつつ・・・。

【参考】 マイフォト「愛・地球博を伝える施設群」もごらんください。