「シリーズ・ニッポン再発見」の中の1冊である。既刊は「マンホール」に「銭湯」、「トイレ」、「橋」。続刊として「包丁」が予定されている。タワーが日本独自の文化ではないし、五重塔など寺社仏閣は含まれていないので、シリーズに入るのはやや違和感があるが、それでも日本にはこんなに様々なタワーがあったのかと改めて驚いた。
取り上げられたタワーは44本。その他にコラム欄で日本テレビ塔など、現存しない塔や高崎白衣大観音などが紹介されている。執筆者の津川氏は地理学の先生。そのためか、タワーの構造的な特性やデザイン上の特徴といった建築的な視点ではなく、ランドマークとして地域にどう捉えられているか、また、誕生までの経緯やタワーからの展望などがもっぱら記述されている。また、それぞれのタワー紹介の末尾に添えられた「トリビア」も面白い。
ちなみにタワーだけではなく、超高層ビルもいくつか取り上げられている。今、名古屋では名駅地区に次々と超高層ビルが建設されている。そのことも記載されているが、しばらく経つとこの本もあっという間に時代遅れになるのかもしれない。新たに建設されるタワーもあれば、利用されなくなるタワーもある。TV放送やバブル期等がタワー建設にもたらした影響もいろいろとあるだろう。そういえば、瀬戸のデジタルタワーは掲載されていない。タワーはいかに建てられ、いかに変遷していくのかを、総括的に研究するとまたタワーの別の意味合いが見えてくるのではないかと思った。
タワー:ランドマークから紐解く地域文化 (シリーズ・ニッポン再発見)
- 作者: 津川康雄
- 出版社/メーカー: ミネルヴァ書房
- 発売日: 2016/08/20
- メディア: 単行本
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○チャーチル元英国首相が「私たちが建物をつくるが、その後は、建物が私たちをかたちづくる」という言葉で残しているように、建物や街のたたずまいはパブリックな性格を持ち、それによって、私たち自身は大きな影響をうけている。スカイツリーも、おそらく大きな影響を与える建築物となるだろう。(P32)
○現存する二代目の前には、初代通天閣が存在した。第5回内国勧業博覧会の誘致に成功した大阪は、その跡地に娯楽場「新世界」を建設し、中央に通天閣を据え、シンボルタワーとした。/初代は、凱旋門の上にエッフェル塔が乗るという奇抜なデザインだった。・・・しかし、開業からわずか3週間後の明治天皇崩御により、全国の娯楽施設では閑古鳥が鳴いた。初代通天閣も・・・第二次世界大戦のさなか・・・軍需資材として大阪府に献納された。(P78)
○複雑なデザインが災いし、3棟の年間メンテナンス費は約40億円と高額のため建て替えを検討されたこともある。空調やライフライン設備の老朽化も進み、現在は、都庁舎改修プロジェクトのもと、総事業費約762億円をかけ、改修を進めている。(P88)
○神戸市役所の最寄駅は、市営地下鉄「海岸線三宮・花時計駅」だ。駅名にも採用されるほど、神戸市のランドマークとして認知されているのが、市役所北側の花時計である。・・・地域の象徴性と同じ役割を担っている花時計は、1957(昭和32)年に日本ではじめてつくられた。・・・市役所横の大通りは「フラワーロード」と愛称がつけられ、花時計の影響が感じられる。(P100)
○JRセントラルタワーズは、左右が非対称な形状のツインタワー。高さも異なる円柱状のホテルタワー、扇形のオフィスタワーから構成されている。・・・通常ツインタワーは対称につくられることが多い。しかし、設計を担当した大成建設によると、それぞれの自立性の表現、直線と曲線、凹凸面とフラット面という相反要素の組み合わせでオリジナリティを演出しているそうで、確かに、見る場所によって大きく表情を変える。/なお、ツインタワーという構造を選んだ大きな理由は、地下部分が地下鉄を挟んで分断されていたため、基礎工事が十分に行えない部分が出てきたためとされる。(P180)