愛知建築士会の会報「愛知の建築」に、前々号から、ドイツ在住の環境ジャーナリスト・村上敦氏による建築講座「省エネを進めるドイツの建築」が連載されている。3回目の2010年8月号は、「ドイツ既築のリフォームの現状と制度について」。
環境対策については、省資源・省エネルギーの観点から推進すべきものとは思うが、昨今の地球温暖化を巡る報道などを見ると、本当のところどこまで推進すべきものかと疑問に思う。欧州先進諸国の経済戦略として、排出権取引を有利に進めるための京都議定書であり、温室効果ガス削減目標だという話もある。こうした状況の中で、日本も遅ればせながら、鳩山前政権下から25%削減を目標に掲げ、オバマ大統領のグリーン・ニューディール政策に学び、日本版グリーン・ニューディール政策を進めようという動きも見られる。
日本における建築物の環境対策としては、省エネ法の改正強化、CASBEEの普及活用、住宅版エコポイント制度などがあり、他に太陽光発電設備設置補助や太陽光発電買取制度がある。これらはいずれも”純粋”に環境貢献を目的とし、建築主や利用者に経済的なメリットが生まれるよう制度設計上の工夫をしているが、新築・増築を行う時に合わせて検討すべき事項というのが、建築主にとっても、また行政側からも実情ではないだろうか。
私もそうした”常識”にすっかり浸っていたが、この記事を見て目を開かれる思いがした。小見出しは「資源やエネルギーにではなく、雇用にお金を循環させる」。つまり、ドイツが省エネ改修政策を熱心に進めているのは、「地球温暖化対策ではなく、雇用対策である」というのである。少し引用してみよう。
●資源やエネルギーよりも人手にお金が回りやすいこのリフォーム市場に10億円の投資が行われると、手工業者に2.5万人分の雇用効果が発生するといわれているからだ。東西ドイツの統一以降、一貫して比較的高い失業率を抱え続けているドイツでは、自然エネルギーの分野とこの省エネ改修の分野はまさに新しい「雇用になる木」であり、疲弊している地域経済を活性化する将来性ある新産業だとみなされている。
●200万人超の雇用を抱えるドイツの建設産業において、資源やエネルギー、建設機械にお金が回る大規模工事ばかりを推進したのでは公共の財政は火の車となる。同じ金額を投入しても、より細かな人手のかかるこのリフォームの分野を強くすることこそが、地域社会を強くすることに繋がり、同時に失業率が低下することから社会福祉費用の支出を低下させ、税収増が期待できる。
なるほど。内需を活用し、内需を活性化させる経済対策という意味か。続くパラグラフも引用しよう。
●日本と同じように少子高齢化傾向が著しいことから国内需要は停滞し、インフラ整備がすでに完了しているため意味のある大規模工事がもはや存在せず、製造業ではグローバル化で生産性の向上のみが生き残りの手段となっているのがドイツ社会の現状である。このような状況下では、省エネ改修などのグリーンジョブを推進する手段のみが、社会に効果がある経済政策であるという認識が2005年ごろから急速にドイツ社会に広がっている。
このまま日本の経済学者や政府関係者に読ませたい。
これに続いて、ドイツの省エネ改修推進策の説明になるのだが、補助金や低利融資だけでなく、「省エネ政令」によって厳しい省エネ基準を義務付けていることが特徴である。しかも、2007年から「エネルギーパス制度」が導入され、新築・中古を問わず、不動産売買時にエネルギー性能の提示が義務付けられた。
こうして経済対策の一環として省エネ改修が進められ、建築物取引市場を通じて環境にやさしい建築物が整備されていく。グリーン・ニューディールの神髄が見られるではないか。最後にもう一度、連載記事の最後のパラグラフを引用しよう。環境対策に対する根本的な考え方に相違があることを認識する。
●このように幅広い政策を束ねることで、年間100万戸を超えるといわれる省エネリフォーム市場がドイツには出現している。日本では、ばら撒きとも批判されている住宅版エコポイント制度がようやくはじまったが、結局は建材・機械・電気製品の購入を推進させることが目的とされてしまっている。ドイツのこの分野の政策は、日本とは比較にならないほど進んでいる。
ちなみに、村上敦氏のオフィシャルサイトには、他にもいろいろな話題が掲載されている。私もブログをしばらく追いかけようと考えている。