オランダの社会住宅

 オランダの社会住宅を他国に紹介する英語版著書を翻訳したものである。オランダの社会住宅制度をざっと要約すると以下のとおりとなる。

  • オランダの住宅の内訳は、持家が52%、民間賃貸住宅が12%で、残り36%が社会賃貸住宅となっている。
  • 社会住宅の供給事業者のほとんどは住宅協会である。住宅協会は、低所得者層に低家賃住宅を供給すること等を目的とする公益法人で、国が認可する。住宅協会の規模は管理戸数100戸以下のものから25000戸以上のものまでさまざまであるが、標準的には、事務局の上に、非常勤の理事会があり、入居者代表も理事会に参加して、協会の事業を監督する形となっている。
  • 住宅協会は以前は国からの建設補助及び低利融資と運営補助金により運営されてきたが、1990年代以降、国からの融資残高と今後受け取る予定の運営補助金が相殺され、国からの融資や補助がなくなり、現在は、自己資産となった住宅資本を元に、住宅ストックの一部売却や住宅賃貸収入、他事業投資収益金等により、財政的に自立した事業運営を行っている。
  • 住宅協会の建設資金等の融資は、社会住宅保証基金の信用保証の元、銀行から借り入れる。社会住宅保証基金は保証に当たり、財政アセスメントを行う。財政状況に不安がある場合は、中央住宅基金が救済をする仕組みとなっている。
  • 社会住宅居住者のうち、基本ターゲットグループ(複数世帯で年収246万円、安心世帯で194万円以下)の居住者は55%で、残りはそれ以外の収入のものが住む。収入の変化に応じ、退去を求められることはない。
  • オランダの社会住宅の家賃は2000年データで平均320ユーロ(48000円)。平均居室面積は61㎡である。
  • 社会住宅または民間借家の家賃は、政府が規則で定める「住宅格付けシステム」により計算された適正最高家賃以下としなければならない。このシステムは一般に「ポイントシステム」と呼ばれ、面積や設備、住宅タイプ、周辺環境等の合計ポイントで計算される。
  • 社会住宅または民間借家に入居する世帯は、世帯構成、年齢、課税対象額、実家賃額に応じて家賃補助を受け取ることができる。家賃補助を受ける世帯の最低自己負担額は166ユーロ(24900円)となっている。最高適正家賃から、世帯の状況によって別途計算された適正自己負担額を差し引いた額が家賃補助される。補助対象となる最高家賃は541ユーロで(81150円)で、この額を超えると家賃補助の対象とはならない。
  • 社会住宅の入居者の募集と決定は、従来は地方自治体が待機リストにより決定する方式が一般的だったが、必要度判定の不透明性等から、最近は広告モデルと呼ばれる方式が増えてきている。これは、空家募集の詳細を新聞等に公表し、それに適合する入居資格を持つ希望者を募るもので、重複する場合は待機時間や現住宅の居住歴など公開された客観的な基準で決定する。

 理想的とされるオランダの社会住宅制度だが、住宅協会の経営自立に伴い、そのシェアは次第に落ちており、持家化を促す傾向の上にある。入居者決定方式についてもまだ試行錯誤がされているようである。

 家賃補助制度が前提としてある社会における制度であり、日本ですぐに真似するのは相当に困難である。ただし、最低自己負担額が想像以上に高額であることには驚いた。この家賃を負担できない世帯に対しては、別途、生活を支える仕組みがあるということだろう。家賃補助制度が単独で存在しているのではなく、社会制度設計全体の問題であることがわかる。

 近く、訳者の角橋氏を迎え、講演会を予定している。その際に、本書を読んで感じた疑問などを確認することにしよう。

 イギリスやデンマークの状況などを勉強し、社会住宅制度については概ねの状況を理解してきた。これらの国はいずれも人口が中小規模であり、住宅供給と家賃補助が別セクターの仕事として実施されてきた経緯を持つ。

 日本は歴史的に家賃補助制度を持たず、かつ約10年前の公営住宅における応能応益家賃制度という限定された歪な形での家賃補助制度(それも公営住宅入居者にとってはかなり理想的・優遇的な)を導入してしまったという経緯が現在の混乱をもたらしている。これを修正するにはかなりの腕力と工夫が必要だろう。今後は、人口が1億人を超える国における生活保護と家賃補助制度の状況を勉強する必要があると感じた。