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自治体のエネルギー戦略

 東京都庁の大野氏の著作ということで気になっていた。前に岩波新書から発行された「都市開発を考える」は今でも自宅の本棚に置かれている好著の一つだ。あれから20年余。大野氏は東京都庁で約15年前にそれまでの都市行政から環境行政部署へと異動され、東京都の環境行政をリードしてきた。本書は大野氏の環境行政における成果をアメリカ各都市の動向と合わせて報告したものである。大野氏も既に60歳。7月には東京都環境局長を退任し、自然エネルギー財団事務局長に転進した。「あとがき」にあるとおり、まさに「卒業レポート」と言える。

 一方、「都市開発を考える」は「キャリアーを本格的に始める直前に書いた、『選手宣誓』ともいうべき書」(P231)と自ら書いている。埃を被った「都市開発を考える」を取り出し、パラパラと読み直してみた。確かに、TDRやPPPなど当時のアメリカの最新の都市開発手法を紹介しつつ、これらを批評的に取り上げ、日本の都市づくりについて、「公正で開かれた開発プロセス」「住民参加」「自治体の都市づくりの権利」を提言している。まさにバブル終了期における都市開発の書として先駆的な内容だ。かつ読みやすい。続いて刊行された「現代アメリカ都市計画」に対する感想もべた褒めの様相だ。

 さて本書である。第一部でアメリカの各都市と州の取組みを紹介する。ニューヨーク市の環境都市プラン「プランYC」の策定とグリーンビルディング施策、北東部諸州による地域キャップ&トレード「RGGI」、カリフォルニア州のキャップ&トレード制度導入に伴う住民投票の状況などだ。これらを読むと、環境政策は都市政策として取り組まれていることがよくわかる。大気汚染対策との同時達成を目指す「コベネフィットアプローチ」なども参考になる。

 そして第二部では東京都での取組みが紹介される。1960年代からの公害行政、2000年からの地球温暖化対策計画書の導入から続く取組みの上に立って、2008年の東京型キャップ&トレード制度の導入に続く取組みとその内容を説明した後、第2章「『政策の壁』を崩した四つの力」に続く。4つの力とは、「その1 誤謬を正す政策論争の徹底」「その2 地域に適した実効性のある仕組みの構築」「その3 知と信頼のネットワークの形成」「その4 スタッフ集団の力の蓄積」である。その内容についてはある意味当たり前のことを言っているに過ぎないが、実行し実現してきたことには大いに敬意を表したい。

 個人的には、気候変動の猛威については頷く部分もあるが、地球温暖化については懐疑的な気持ちもある(先日、IPCCの第5次評価報告書の第一次作業部会報告がニュースになり、さらなる地球温暖化の進行を訴えていたが、本当かしら)。こうした中で、低炭素化対策はいかに合意を得て進めてきたのかという点に最大の興味があった。

 都市的環境改善との「コベネフィットアプローチ」などはよくわかるが、東京都の場合は「持続的な発展に資する」(P156)という点が挙げられている。このことをどう明確に説明するか、本書では書かれていないのでよくわからないが、東京都には「大規模な工場が少なく、対象となる約1400事業所の八割以上は、オフィスや商業・文化教育施設などの業務部門」という状況も後押ししたのだろう。東京都には火力発電所は大井と品川の2ヶ所しかない。

 そういう意味では各地域のエネルギー施策は地域ごとの状況を踏まえて進めていかなければならない。どこでも地域版キャッチ&トレード制度や太陽光発電設備の設置を進めればいいというわけではないし、全国的ではなく地域で進めるのであれば、その理由と効果が強く求められる。また、東日本大震災福島原発事故の発生により、地球環境問題に対する国民や企業の意識も大きく様変わりしたように感じる。これからの地域版環境対策は東京都の真似をすればいいというわけではない。

 政策の進め方という点では大いに参考と自己啓発になるが、次に続く者はまた違うやり方、違う認識で進める必要があるのだろう。大野氏の熱意と能力には敬服するしかない。

●気候変動という世界的な課題への挑戦は各都市や州では、それぞれの地域の課題の解決策と一体のものとして取り組まれてきている。グローバルな課題への取組みはローカルの問題解決と同時に追求されてこそ、大きな成果を上げることができる。・・・3.11後の日本で、わが国の地方自治体が直面する電力エネルギー問題と気候変動問題に一体的に取り組むのは、その意味でごく自然のことだといえる。(P25)
●多忙な専門家がなぜ時間を割いて市の政策づくりに参加するのか。・・・スコット・フランク氏は・・・こう語る。「まず、実際に建築物の開発を担当しているメンバーが参加することで、市の施策を、緩めるということではなく、より合理的で意味のあるものにすることができると考えていること。次に、参加することにより市の施策がどこに向かおうとしているのか、市の行政はどのように機能しているかがわかること。そして第三には、環境のための活動に参加することで、前向きな企業として企業イメージを高めることができることだ」(P51)
●気候変動対策と大気汚染対策を同時に追求することは、「コベネフィットアプローチ」と呼ばれ、途上国における施策展開で重視されているが、カリフォルニアのマイノリティコミュニティでもAB32は、両方の意味で重要な施策と認識され、多くのグループが提案23号反対の運動に立ち上がったのである。(P106)
●必要な場合には、国に先んじて革新的な環境施策を導入するという姿勢は、いわば東京の環境行政のDNAとして今日に継承されている。条例制定権の最大限の活用、議論の公開による世論形成という取組み方も引き継がれてきた。また、具体的な施策形成のノウハウという点でも、過去の取組みは次の世代の仕事に活かされている。(P128)
●エネルギー施策は、経済や社会の根幹に影響を与えるものであるが故に、その転換には多くの既得権益は関わってくる。・・・東京でもニューヨークでもカリフォルニアでも、革新的なエネルギー政策の導入は、激烈な議論のうえに初めて可能となったものだ。(P230)