ニュータウンに住み続ける

 三浦展編ということで期待したが、あくまで三浦展は裏方。多摩ニュータウン設計事務所「スタジオメガネ」を開設する建築家・横溝惇が三浦展に声をかけて始まった「世界の郊外展」でのトークイベントの内容を収録したもの。2018年12月から10回にわたって開催され、ゲスト講演者は、大月敏雄や服部圭郎を始め、実に多彩。
 大月敏雄が「居住支援策を考える」として住宅政策の過去と現在について話をすれば、服部圭郎は「世界の郊外をとりまく二つのトレンド」として、「郊外の終焉」と「無限の郊外」という2冊の本を紹介する。他にも、レッチワースを始めとする「ロンドン圏のニュータウン」の見学報告もあれば、1930年に完成したウィーンのカール・マルクス・ホーフ団地の住まい方研究もあり、パリ郊外の移民団地の報告もある。
 そしてニュータウンの居住や再生に関心のある者には、田村誠邦の「団地・マンションの再生を考える」が実務的かつ現実的な報告がされており、興味深い。田村氏からは青木茂のリファイニング建築の紹介や、減築で有名なドイツのライネフェルデ団地の紹介もある。さらに、京都西京極大門ハイツの紹介。ここでは耐震改修はハナから放棄し、別敷地での建て替えを前提に隣接土地の買収を進めている。
 しかし全体としては、「世界の郊外展」のまとめという感じで、内容的にも種々雑多。ニュータウン問題に対する知見を読みたいと思ったのだが、それに応えてくれる本ではなかった。京都西京極大門ハイツの事例や「郊外の終焉」などは今後、もっと深く知りたい、読んでみたいところではある。

○【大月敏雄】明治44年におきた吉原の大火…の翌年に、義援金で日本で最初の公的な復興住宅(玉姫公設長屋)がつくられました。木造長屋の中に商店、託児所、浴場、職業紹介所、宿泊所があり、まさに「医職住」の機能をもった復興住宅です。この事例は日本初の公営住宅であるという説もありますが、住宅以外の多様な機能を備えていたというのが大きな特徴です。(P39)
○【大月敏雄】現在の政策では、収入で輪切りにした社会層をターゲットにしています。福祉部門では、高齢者、障害者、生活困窮者、刑余者などの「者別」で、居住のための施設が供給されるということになっています。/これに対して大正時代から始まった公営住宅では、地域ごとに必要とされているハウジングを国が助成するという、地域の課題を地域ごとに異なる解き方で対処する政策アプローチだったと評価することができます。(P43)
○【田村誠邦】郊外部の団地では、建築費と売値の関係や、マンション需要の大きさから、デベロッパーの積極的な参加は見込みづらく、建替えは困難です。…当面は既存建物の維持管理・再生を中心に考えざるを得ないでしょう。…年限を決めて計画するといいと思いますね。例えば、なんとかこの団地をあと30年もたせたいとすると、10年後に大幅な大規模改修を実施する…その大規模修繕から20年は保たせましょうと。30年後になったらその次の世代が一生懸命考えてくれるでしょう。それでいいんじゃないでしょうか。(P274)
○【田村誠邦】「環境整備積立金」…を管理とか修繕積立金とは別に作っています。このマンションに隣接する用地の取得に充てるための積立金です。…当マンション敷地を隣接地と併せて敷地売却し、その資金で別の場所に新築のマンションを建て、仮住まい無しに建替えを実現するという話なんです。…この環境整備積立金の財源なんですが、…過去10年分の駐車場収入を修繕積立金から振り返るということで…特別な資金徴収はしていません。(P282)
○【服部圭郎】『郊外の終焉 The End of the Suburbs』の内容を踏まえて、郊外化が衰退の兆しを見せている要因を考察すると、次の四点が挙げられる。それは「世帯構造の変化(核家族のマイノリティ化)」「自動車依存への抵抗」「白人天国としての郊外幻想の喪失」「都市の魅力の向上」である。…郊外というライフスタイルが市場のターゲットとして想定していた核家族が…減少しはじめているのである。(P300)